Yahoo!ニュース

イスラエルがシリアの首都近郊を越境攻撃する一方、トルコは北東部のロシア軍基地近くをドローンで爆撃

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

イスラエルが再びシリアを越境攻撃

シリアが2月16日、再びイスラエルによる再び越境攻撃を受けた。

国営のシリア・アラブ通信(SANA)がシリア軍筋の話として伝えたところによると、イスラエル軍は16日午後11時35分、1967年の第三次中東戦争で占領したシリア領のゴラン高原からダマスカス郊外県ザーキヤ町一帯の複数カ所に対して、多数の地対地ミサイルを発射、これにより若干の物的被害が出た。

イスラエル軍がシリア領内に対して越境攻撃を行うのは今月に入って2回目。また今年に入ってからのイスラエルによるシリアへの侵犯行為は4回を記録した。

関連記事

イスラエル軍がシリアをミサイル攻撃し民家などに被害、ロシア軍は電子戦システムを作動させ攻撃を妨害

イスラエル軍がレバノン領空を侵犯し、首都ダマスカス一帯の複数カ所に向けてミサイル複数発を発射(シリア・アラブの春顛末記)

イスラエル軍の戦車複数輌がクナイトラ県フッリーヤ村一帯を砲撃(シリア・アラブの春顛末記)

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ミサイル攻撃により、ダマスカス郊外県のザーキヤ町とハーン・シャイフ町の間に位置するシリア軍第7師団の施設少なくとも1棟が被弾し、大きな爆発が発生した。

一方、反体制系サイトのサウト・アースィマは、第7師団本部に近い化学大隊とアッバーサ地区の防空大隊が標的となったと伝えた。

Liveuamap、2022年2月17日
Liveuamap、2022年2月17日

トルコもドローンでシリアを爆撃

一方、シリア北東部では、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、トルコ軍が2月17日、武装した無人航空機(ドローン)でシリア政府と北・東シリア自治局(PYDが主導する自治政体)の共同統治下にあるハサカ県タッル・タムル町近郊のロシア軍基地一帯を爆撃し、基地の近くにいた複数の住民が負傷した。

この爆撃に関して、PYDの民兵である人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍に所属するタッル・タムル軍事評議会は声明を出し、詳細を明らかにした。

それによると、トルコ軍のドローンは午後3時半、タッル・タムル町近郊にあるロシア軍の基地の20メートルしか離れていない場所を爆撃、これによってタッル・タムル軍事評議会の兵士2人が負傷した。

またこの爆撃と合わせて、トルコ軍はタッル・タムル町近郊のタッル・シャンナーン村を砲撃したという。

トルコ軍のドローンが爆撃を行ったのは、2019年10月にトルコが占領したいわゆる「平和の泉」地域の南東の端に面するカムシャト・ザルカーン村(タッル・タムル町北東)に設置されているロシア軍基地近く。

Liveuamap、2022年2月17日
Liveuamap、2022年2月17日

トルコ軍がシリア領内をドローンで攻撃するのは今月に入って9回目。また今年に入ってからの爆撃回数は13回を記録した。

関連記事

トルコ軍がハサカ県アームーダー市西のパン製造所近くをドローンで爆撃し、住民1人負傷(シリア・アラブの春顛末記)

トルコ軍が自爆用ドローンでシリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるタッル・リフアト市の丘を攻撃(シリア・アラブの春顛末記)

シリア軍がトルコ占領下のアレッポ県を砲撃する一方、トルコ軍はドローンでハサカ県を爆撃し子供らを殺傷(シリア・アラブの春顛末記)

トルコ軍がハサカ県ダルバースィーヤ市近郊をドローンで爆撃、シリア民主軍は攻撃を避けて退避(シリア・アラブの春顛末記)

トルコ軍がアレッポ県マンビジュ市近郊をドローンで爆撃(シリア・アラブの春顛末記)

トルコ軍はアレッポ県マンビジュ市近郊をドローンで爆撃(シリア・アラブの春顛末記)

トルコ軍がシリア国民軍とともにハサカ県、アレッポ県各所をドローンなどで激しく攻撃し、YPJ、シリア軍兵士など多数死傷(シリア・アラブの春顛末記)

トルコ軍がドローンでハサカ県タカル・バカル村近郊の発電所を爆撃、シリア民主軍兵士2人負傷(シリア・アラブの春顛末記)

トルコ軍のドローンが、グワイラーン刑務所襲撃・脱獄事件の混乱収拾のため応援に駆けつけようとしていたタッル・タムル町評議会の車輌を爆撃、乗っていたタッル・タムル軍事評議会の兵士2人が死亡(シリア・アラブの春顛末記)

トルコ軍ドローンがハサカ県タッル・タムル町の発電所を爆撃し、シリア民主軍の兵士1人死亡(シリア・アラブの春顛末記)

トルコ軍ドローンがシリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるラッカ県ファーティサ村の民家を爆撃(シリア・アラブの春顛末記)

トルコ軍がラッカ県、アレッポ県に対して激しい砲撃を続けるとともに、アイン・アラブ(コバネ)市をドローンで爆撃(シリア・アラブの春顛末記)

イスラエルとトルコによる一連の侵犯行為に関して、両国の同盟国である欧米諸国は政府もメディアも非難の声を上げてはいない。いまだ大規模軍事侵攻が行われていないウクライナ情勢をめぐってロシアを非難する姿勢とはあまりに対照的だ。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

青山弘之の最近の記事