米軍がシリア北西部でアル=カーイダ系組織の元メンバーをドローンで攻撃、民間人6人が巻き添えとなり負傷
シリア北西部のイドリブ県で12月3日早朝、米主導の有志連合所属と見られる無人航空機(ドローン)1機がマストゥーマ村とアリーハー市を結ぶ街道(マストゥーマ街道)を移動中のオートバイに3発のミサイルを発射し、オートバイが炎上し、乗っていた1人が即死した。
爆撃が行われたイドリブ県中北部、アレッポ県西部、ラタキア県北東部、そしてハマー県北西部は、体制打倒、自由と尊厳の実現をめざす「シリア革命」最後の牙城で、「解放区」と呼ばれ、シリア政府の支配が及ばない地域。シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が軍事・治安権限を掌握、トルコの支援を受ける国民解放戦線などとともに「決戦」作戦司令室を結成し、同地を支配し、シリア救国内閣、ホワイト・ヘルメットなどに自治を委託している。
2020年3月にロシアとトルコが停戦合意を交わして以降、大規模な戦闘は発生しておらず、トルコ軍が停戦監視を名目として各地に部隊を展開させている。
殺害されたのは元アル=カーイダ系組織メンバー
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団、反体制メディアのハバル24、バラディー・ニュースなどによると、オートバイに乗っていたのは、新興のアル=カーイダ系組織の一つフッラース・ディーン機構の幹部の1人アブー・アブドゥッラフマーン・マッキーの護衛を務めていたシリア人男性。
ザーウィヤ山地方イフスィム村の出身で、1年ほど前にフッラース・ディーン機構を離反し、イドリブ市内の専門学校でトルコ語を学んでいた。
フッラース・ディーン機構は、アブー・ハマーム・シャーミーなる人物の指導のもと、2018年2月に結成された組織。シャーム解放機構がアル=カーイダとの関係を解消したことに異議を唱え、シリアでのアル=カーイダの「再興」をめざしていた。だが、2020年半ばにシャーム解放機構との戦いに敗れ、衰退傾向にある(「ガラパゴス化するシリアのアル=カーイダ系組織」を参照)。
なお、今回の攻撃で殺害された男性が護衛していたマッキーはサウジアラビア人で、2020年10月にジスル・シュグール市近郊でシャーム解放機構によって逮捕されている。
民間人も巻き添えに
今回のミサイル攻撃ではまた、近くを走行していた車に乗っていた一家6人が巻き添えとなって負傷した。
シリア北東部の航空機の飛行状況を監視するマルサド20は、ミサイル攻撃を行ったのはMQ-9リーパーと特定し、米国の関与が明らかとなった。
こうしたなか、米中央軍(CENTCOM)のビル・アーバン報道官(大佐)は12月4日、フォックス・ニュース(12月4日付)に以下の通り述べ、米軍の関与を認めた。
米軍の爆撃による民間人の犠牲をめぐっては、『ニューヨーク・タイムズ』紙(11月13日付)が、2019年3月18日の米軍による同地への爆撃で、女性と子供を含む70人以上が死亡していたにもかかわらず、国防総省がこれを隠蔽していると伝え、話題となっていた。
反体制組織の一つで、シリア政府の弾圧やシリア・ロシア軍による爆撃を非難し、その被害状況のみを喧伝してきたシリア人権ネットワークのファドル・アブドゥルガニー代表は12月1日、パン・アラブ・ニュース・サイトのアラビー21の取材に対して、米主導の有志連合がシリア領内での爆撃を開始した2014年以降に市民3,000人以上がその犠牲となっていると述べた。
アブドゥルガニー代表によると、有志連合による違反行為のなかでもっとも代表的なのは、法律の枠を越えて起こされた殺戮であり、その結果3,000人以上の市民が殺害され、しかもそのうちの3分の1が子供だったと主張した。
アブドゥルガニー代表はまた、有志連合の戦闘機による爆撃は市民が暮らす居住地域に対しても無差別に行われ、戦争犯罪にあたるとの見方を示した。
加えて、シリア民主軍による有志連合の支援も、シリア人に対するさまざまな違反行為や犯罪を伴っているがゆえに違反性があると断じたうえで、「有志連合にはシリア人数十万人が住居を追われたことの責任がある」と非難した。
シリア民主軍は、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)の民兵である人民防衛隊(YPG)を主体とする武装組織で、有志連合がイスラーム国に対する「テロとの戦い」の支援組織と位置づけている。
アブドゥルガニー代表によると、有志連合は実際に起きた違反行為の調査を限られた範囲でしか実施しておらず、犠牲者への補償も行っていない。