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シリアで違法に駐留を続ける米軍パトロール部隊が軍や住民の抵抗を受けて退却(映像あり)

青山弘之東京外国語大学 教授
アーラム・チャンネル、2021年10月24日

米軍が20年にわたって駐留を続けていたアフガニスタンから撤退を完了して2カ月弱が経った。

イスラーム国に対する「テロとの戦い」が事実上決着して以降も、イスラーム国再興阻止、そして油田防衛を口実として、シリア北・東部のユーフラテス川以東地域(いわゆるジャズィーラ地方)各所や南東のタンフ国境通行所一帯に違法に駐留を続ける米軍が撤退する気配はない。

筆者作成
筆者作成

だが、同地では、米軍の駐留に反発する動きがにわかに目立つようになっている。

8月19日

国営のシリア・アラブ通信(SANA)や英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ハサカ県のカーミシュリー市近郊のハームー村の住民が10月19日、村の南側を通るM4高速道路を通過しようとした米軍パトロール部隊の進路を妨害し、投石を行うなどして退却させた。

カーミシュリー市および周辺の村々は、シリア政府と、米国が軍事的後ろ盾となっているクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局が共同統治(ないしは分割統治)を行っている。

装甲車4輌とハンヴィー(HMMWV)1輌からなる米軍部隊は、M4高速道路を通ってタッル・タムル町方面に向かおうとしていたと思われるが、SANAは路上で切り返しを行い、退却する装甲車の映像を公開した。

10月22日

10月22日にはシリア軍が米軍パトロール部隊に対峙した。

シリア人権監視団によると、M4高速道路と国道7号線が交差するカーミシュリー市南側入口に設置されている検問所で、シリア軍が米軍パトロール部隊の進行を阻止したのである。

ロシア国営通信のスプートニクなどが公開した映像には、シリア軍兵士が路上で米軍兵士に対して退去を要請し、米軍の車列が引き返す様子が映し出されている。

10月24日

10月24日には、2カ所で米軍パトロール部隊の進路を阻止する動きが見られた。

ロシアのRTやイランのアラビア語衛星チャンネルのアーラムなどによると、米軍の装甲車3輌とハンヴィー(HMMWV)2輌からなるパトロール部隊が8月19日に続いて、ハームー村南のM4高速道路を通過しようとしたが、村の若者や子供が進路を妨害し、投石を行うなどして退却させた。

公開された映像には、住人が銃を片手に米軍に対峙する様子や、子供たちが投石し、米軍装甲車を追い回す様子が映し出されている。

また、SANAによると、ハームー村住民の抵抗と前後して、米国の軍用車輌6輌からなる車列が、カーミシュリー市の南西(カーミシュリー国際空港南)に位置するダムヒーヤ村近くを通過しようとしたところを、シリア軍兵士らが阻止し、退却させた。

なお、SANAなどによると、2021年5月末頃から、北・東シリア自治局の実効支配下にあるダイル・ザウル県やハサカ県の各所で、PYDの民兵組織である人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍が「人民諸派」と称される住民の襲撃を受ける事件も頻発するようになっている。

もっとも最近では、10月20日に、イラク国境に近いハサカ県タッル・アルウ村の穀物サイロで、シリア民主軍の車輌が「人民諸派」の襲撃を受け兵士2人が死亡する一方、県内で採掘した原油を積んだシリア民主軍のトレーラー1輌と軍用車輌1輌が、米軍が航空基地として違法に利用しているハッラーブ・ジール村の空港から出たところを「人民諸派」によってRPG弾で狙われ、トレーラーは炎上、兵士多数が死亡している。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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