トルコが占領するシリア北部に対してロシア軍が爆撃で攻勢を強めている。

爆撃を免れてきたトルコ占領地

トルコは2016年から2019年にかけての3回にわたるシリアへの侵攻作戦で、いわゆる「ユーフラテスの盾」地域(アレッポ県北部のジャラーブルス市、バーブ市、アアザーズ市一帯)、「オリーブの枝」地域(同県北西部のアフリーン市一帯)、「平和の泉」地域(ラッカ県タッル・アブヤド市およびハサカ県ラアス・アイン市一帯)を占領下に置いている。

ロシア、トルコ、そしてイランがシリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)を中核とする反体制派の支配地(いわゆる「解放区」)に2017年に設置した緊張緩和地帯とは対照的に、「ユーフラテスの盾」地域、「オリーブの枝」地域、「平和の泉」地域が、ロシア軍(そしてシリア軍)の爆撃を受けることはほとんどなかった。

だが、9月25日、ロシア軍は、「オリーブの枝」地域の南東部に位置するバースィラ村、バースーファーン村、バッラーダ村一帯を2度にわたって爆撃した。そしてこれ以降、トルコ占領地に対するロシア軍の爆撃が頻発するようになった。

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シリア民主軍の応戦でトルコ軍兵士2人死亡

トルコ占領地の南側には、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治地域が広がっている。北・東シリア自治局とは、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルディスタン労働者党(PKK)の系譜を汲む民主統一党(PYD)を主体とする自治政体。トルコ軍と「トルコが支援する自由シリア軍(Turkish-backed Free Syrian Army:TFSA)」ことシリア国民軍が、トルコ占領地に近い共同統治地域、とりわけ北・東シリア自治局の執行評議会(政府に相当)本部があるラッカ県のアイン・イーサー市一帯、ハサカ県のタッル・タムル町一帯、アレッポ県のタッル・リフアト市一帯やマンビジュ市一帯への砲撃を続けている。

これに対して、PYDが結成した民兵組織である人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍が応戦した。10月10日、「ユーフラテスの盾」地域内のマーリア市近郊に設置されているトルコ軍の拠点がロケット弾攻撃を受け、トルコ国防省の発表によると、トルコ軍兵士2人が死亡した。

また、10月11日、「オリーブの枝」地域のアフリーン市内にあるイスラーム軍(シリア国民軍所属)の本部近くで爆発が発生、戦闘員ら少なくとも8人が死亡、「ユーフラテスの盾」地域のジャャラーブルス市近郊のダービス村でも、スルターン・ムラード師団(シリア国民軍所属)の司令官の自宅で爆発が発生し、中にいた5人(うち女性1人、子供3人)が死亡した。さらに、10月12日には「ユーフラテスの盾」地域のバーブ市と「オリーブの枝」地域のアフリーン市で、爆発が発生した。一連の爆発のうち、シリア民主軍はダービス村での爆発については関与を否定した。だが、それ以外の爆発については、PYD(より厳密に言うとアフリーン解放軍弾を名乗る組織)の関与が疑われている。

介入強化の意思を示すエルドアン大統領

一連の攻撃と爆発、とりわけマーリア市近郊のトルコ軍拠点に対する攻撃を受けて、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は10月11日、次のように述べ、介入を強める意思を示した。

「ユーフラテスの盾」地域のトルコ軍に対する最近の攻撃、そして我が国領土に対するいやがらせは我慢の限度を超えている。

我が国へのテロ攻撃の原因となっているシリアの一部地域に対する我々の忍耐は限度に達している…。必要なことを行う。

この言葉を実行に移すかのように、トルコ軍は10月11日、無人航空機(ドローン)でタッル・リフアト市近郊のシャイフ・イーサー村を爆撃した。

ロシアの狙いは?

これに対して、ロシアがエルドアン大統領の顔に泥を塗るような行動に出た。ロシア軍が10月11日、トルコ軍兵士3人が死亡した拠点に近いマーリア市を5回にわたって爆撃したのだ。トルコ軍に対峙するシリア民主軍をあからさまに航空支援する大胆な動きである。

ロシア軍が8月19日以降、反体制派の支配下にあるイドリブ県のザーウィヤ山地方、ラタキア県のクルド山地方、アレッポ県西部各所への爆撃をほぼ連日にわたって行うようになった。

9月29日にロシアの避暑地ソチで1年半ぶりに開催されたウラジーミル・プーチン大統領とエルドアン大統領の首脳会談以降、ロシア軍による反体制派支配地は減少していた。

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ここにきてロシアが再びトルコに対して攻勢に出ている背景には、PYDの軍事的後ろ盾となってきた米国のジョー・バイデン政権がシリアへの関心を低下させている状況がある。

米国防総省のジェシカ・マックナトリー報道官(海軍中佐)は10月8日、「シリア北東部と南東部のタンフ国境通行所の駐屯地に軍事的プレゼンスを維持する」と述べ、シリアへの部隊駐留継続の意思を改めて示した。だが、その一方で、エジプト産の天然ガスのシリア経由でのレバノンへの供与、ヨルダンやエジプトとシリアの接近を黙認するなど、態度を硬化させている。

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このことは、米国(そしてそれに追随する西欧諸国や日本)がシリアとの関係を改善することを意味するものではない。だが、米国がシリアへの関与を弱めることは、PYDの勢力弱化をもたらし、トルコにその支配地への勢力伸長の隙を与える。

トルコに対する威嚇ともとれるロシア軍の爆撃は、こうした隙を埋めようとする試みだと解釈できる。