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ロシア軍の爆撃休止を尻目にシリアで爆撃を行う所属不明のドローン

青山弘之東京外国語大学 教授
Baladi-news、2021年9月28日

シリアでは、ロシア軍がシリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構を主体とする反体制派の支配地に対する爆撃を8月19日に再開し、ほぼ毎日、イドリブ県のザーウィヤ山地方、ラタキア県のクルド山地方、アレッポ県西部各所への爆撃を行っている。

9月28日までの期間で、ロシア軍が爆撃を実施しなかったのは、8月20日9月20日、そして9月27日、28日の4日だけ。だが、ロシア軍が爆撃を休止する日には、ほかの国、勢力が黙っていない。9月20日には、米軍のドローンがイドリブ県ビンニシュ市近郊で新興のアル=カーイダ組織の一つフッラース・ディーン機構のチュニジア人司令官らを狙って爆撃を行った。

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9月27日も2件の爆撃が確認された。

ダイル・ザウル県での爆撃

1件目はシリア南東部のダイル・ザウル県で行われた。

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、同日未明、所属不明の無人航空機(ドローン)がシリア政府の支配下にあるユーフラテス川西岸のマヤーディーン市近郊の農場地帯にある「イランの民兵」の拠点複数カ所を攻撃、大きな爆発が発生した。

また、その直後にも、所属不明のドローンがブーカマール市に近い国境地帯を爆撃し、爆発が複数回発生した。

シリア人権監視団によると、この攻撃で地対地ミサイル発射台複数基が破壊され、外国人少なくとも12人が負傷した。

ドローンの所属は明らかではない。だが、これまでの経緯を踏まえると、「イランの民兵」の勢力拡大を嫌う米軍(有志連合)、ないしはイスラエル軍のいずれかによる攻撃だろう。だが、イスラエルは現内閣発足以降、シリアへの挑発行動を減少させているため、米軍による爆撃の可能性が高い。

狙われる本拠地フマイミーム航空基地

2件目の爆撃はシリア北西部のラタキア県で発生した。

ロシア国防省(当事者和解調整センター)は声明を出し、駐留ロシア軍が本拠地を構えるフマイミーム航空基地(バッシャール・アサド国際空港)の航空管制システムが12時30分にイドリブ県に設置されている緊張緩和地帯内のテロ組織が支配する地域から飛来したドローンを捉え、同基地に配備されているパーンツィリ-S1防空システムが基地遠方でこれを撃破したと発表した。

ロシア国防相によると、ドローンの飛来に伴う人的・物的被害はなかった。

一方、シリア人権監視団は、ロシア軍の迎撃によりカルダーハ市とジャブラ市の近郊の農地にミサイル複数発が着弾し、爆発が複数回発生したとしつつ、複数筋から得た情報だとして、ドローンによる攻撃そのものはなかったと発表した。

2020年3月にシリア北西部でのシリア・ロシア軍とトルコ軍・反体制派の大規模戦闘が収束する以前は、反体制派がフマイミーム航空基地へのドローンでの爆撃を試みたことが、シリア・ロシア軍による攻撃拡大の根拠の一つとなっていた。

今回の爆撃未遂事件に対して、ロシア軍がどのような対応をとるかは、今日(9月29日)にソチで行われるヴラジーミル・プーチン大統領とレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の首脳会談の行方にかかっている。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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