シリア北西部のイドリブ県。自由と尊厳の成就をめざす「シリア革命」の最後の牙城である。

反体制派が「解放区」と呼ぶこの地は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が軍事・治安を握っている。「シリア革命」の旗手を自認する彼らは、トルコの庇護を受ける国民解放戦線(俗称「トルコの支援を受ける自由シリア軍(Turkish-backed Free Syrian Army:TFSA)」)、中国新疆ウイグル自治区出身者からなるアル=カーイダ系のトルキスタン・イスラーム党などとともに、シリア軍と対峙を続け、「革命」の防衛にあたっている。

そんな「解放区」の中心都市であるイドリブ市で7月20日、「猫男」として知られる男性が逮捕された。

「猫男」とは?

「猫男」の名前はムハンマド・アラー・ジャリール氏。

アレッポ市出身の彼は、シリア内戦が激しさを増すなか、「聖域」(マフミヤ)というグループを立ち上げ、市街地に取り残された猫を保護する活動を開始した人物だ。2016年にBBCがその様子を伝えたことで、欧米諸国や日本で注目を浴びるようになった。

その活動については、日本でもアラー・ジャリール with ダイアナ・ダーク著の『シリアで猫を救う』が出版され、紹介されている。

アレッポ市は2012年半ば以降、シャーム解放機構(当時はシャームの民のヌスラ戦線、あるいはシャーム・ファトフ戦線を名乗っていた)が主導する反体制派が東部地区を支配下に置いていた。だが、2016年半ば頃から、シリア・ロシア両軍はこれを奪還すべく爆撃を本格化、包囲を強めるようになった。

反体制系サイトのSNNによると、戦闘が激化したのは、BBCが彼の活動を報じた数週間後のことだった。アレッポ市を離れ、同地近郊でペットや子供を支援するための活動を続けていたジャリール氏は、「聖域」が爆撃を受けるなか、なす術もなく、保護していた180匹の猫を失ったという。

それでも、ジャリール氏と彼の仲間は、発電機を購入し、井戸を掘り、食料を貯蔵するなどして活動を継続、子供たちにペットの世話を指導するためのトレーニング・コースを開設した。また、猫を保護する施設に遊戯場を設営し、戦闘に巻き込まれた子供たちのメンタルケアに務めた。こうしてジャリール氏の活動は拡大し、猫の保護だけでなく、保育園、孤児院、獣医クリニックの運営も行うようになった。

アレッポ市東部地区は2016年12月にシリア軍によって解放されたが、ジャリール氏は政府の支配を拒否する反体制派やその家族約3万5000人のうちの1人としてイドリブ県に逃れ、同地で活動を継続した。

欧米諸国からの資金流入に警戒感を強めるアル=カーイダ

ジャリール氏をイドリブ市で逮捕したのはシャーム解放機構である。その活動を批判するサイトの「ヌスラ戦線の違反行為」(JNV)はツイッターで通り発表している。

シャーム解放機構は「猫男」ことムハンマド・アラー・ジャリールをイドリブ市の自宅で拉致した。今のところ理由は不明。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団、親政府系のサイトであるスナック・シリアン、そしてSNNなどは、逮捕の状況について武装したシャーム解放機構のメンバーらが、ジャリール氏の自宅に押し入り、身柄を拘束、連行したと伝えている。

逮捕の理由について、複数の活動家は、「聖域」に行われている支援と関連があるとの見方を示している。

「聖域」については、イタリアの動物愛護団体や日本の団体が支援を行ってきた。今回の動きは、トルコへの依存を強めるようになっているシャーム解放機構が、人道支援のかたちをとって続けられる西側諸国からの資金流入に警戒感を強めていることを示しているのかもしれない。