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「さくらプロジェクト」を知って改めて触れることができたシリア人の良いところ

青山弘之東京外国語大学 教授
筆者撮影

シリアに植樹された桜のその後

2021年4月19日付(ネット版は20日付)の『東京新聞』に「友好の桜、今どこに? シリア内戦直前、日本の団体が100本植樹して10年…その後を追ったら」(蜘手美鶴記者)という記事が掲載されました。

既に読まれた方もおられるかと思いますが、日本シリア親善協会という団体が、シリアに「アラブの春」が波及する直前に、首都ダマスカスなどで植樹した桜の苗木のその後を追う良記事です。

日本シリア親善協会

日本シリア親善協会、そしてこの団体が主催していた「さくらプロジェクト」については、恥ずかしながら最近まで存じ上げませんでした(すみません!)。が、3月頃に偶然に公式ホームページを見つけ、無性に興味が湧いていたところでした。

今も活動を続けられているのであれば、何かお手伝いしたい。そう思い、ホームページに記載されている問い合わせ先にメールを送ってみたものの、返信が来ず、どうしたものかと攻めあぐね、知人の1人で3月までシリア支援団体「サダーカ」の代表を務めておられた田村雅文さんに、佐藤義隆協会代表のメール・アドレスを伺い、連絡を取り直そうとしていたところに、グッド・タイミングで記事が掲載されたのです。

記事を目にした瞬間、いてもたってもいられなくなり、佐藤代表に早速メッセージを送ると、「秒で」(最近私が一番気に入っている若者用語です)返信を頂くことができました。

「シリア内戦」と呼ばれる混乱のなかで、プロジェクト継続が難しいと判断され、協会はホームページを維持しつつ、活動を凍結している、とのことでした。残念ではありますが、活動が再開できる日が来ることを願ってやみません。

●日本シリア親善協会の最新ニュース「ホムスに残った一本の桜」

ネガティブ・イメージ先行のシリア

混乱が始まってからというもの、シリアと言えば、戦闘、テロ、難民などネガティブ・イメージ先行で語られがちです。

政治研究を生業とするという仕事柄、私がシリアでの戦闘、テロ、難民といったネガティブな事象について論じざるを得ないことはご容赦頂くとして(どうぞお認めください!)、「さくらプロジェクト」を通じて日本とシリアの人々が文化交流をしていた過去を知るにつけ、私自身がシリアの人々と接するなか感じたポジティブなこと、建設的なこと、創造的なことについても、積極的に発信せねばと気持ちを新たにしました。

良いところの連続

とはいえ、「政治オタク」に過ぎない私がすぐにできると言えば、同僚で本学の特任講師であるハルドゥーン・フサイン先生に「シリアの人は「さくらプロジェクト」を知らないはずだから、アラビア語に訳してみたら」などと持ちかけることぐらいでした。完全な丸投げです。が、ハルドゥーン先生は「秒で」(気に入っている若者用語なのでもう一度使ってみます)アラビア語に訳し、フェイスブックを通じてリリースしてくれていました。

私はその間も、10年前に植樹された桜の苗が残っていたことへの感動をシリアの友人たちの前で露わにしていただけでした。すると今度は、首都ダマスカスにあるシンクタンクSOCPS(シリア世論調査研究センター)のスィーモーン・フーリー博士とルブナー・ビシャーラ博士が、これまたSNSを通じて、画像と写真を送ってくれたのです。それがこれです。

スィーモーン・フーリー博士、ルブナー・ビシャーラ博士提供
スィーモーン・フーリー博士、ルブナー・ビシャーラ博士提供

スィーモーン・フーリー博士、ルブナー・ビシャーラ博士提供
スィーモーン・フーリー博士、ルブナー・ビシャーラ博士提供

スィーモーン・フーリー博士、ルブナー・ビシャーラ博士提供
スィーモーン・フーリー博士、ルブナー・ビシャーラ博士提供

スィーモーン・フーリー博士、ルブナー・ビシャーラ博士提供
スィーモーン・フーリー博士、ルブナー・ビシャーラ博士提供

スィーモーン・フーリー博士、ルブナー・ビシャーラ博士提供
スィーモーン・フーリー博士、ルブナー・ビシャーラ博士提供

写真と画像は蜘手記者の記事のなかでも紹介されていたヒムス県ヒムス市の文化センターに植樹された桜の木とのことです。ヒムス市の文化センターと言えば…、訪れたことがある場所です。あの時「さくらプロジェクト」のことを知っていれば、水やりをできたのに…と己の無知を恥じるばかりです。

筆者撮影。
筆者撮影。

シリアを研究対象とするようになって30年以上経ちます。

たかだか30年ほどのつきあいで、シリアのことを一般化するのはおこがましいことだと承知のうえで敢えて言うと、シリアの人は、相手のことを慮って、すぐに行動し、何かを与えてくれます。

シリアで暮らしていた時もそうでしたし、シリアに行くことができない今でもそれは変わっていません。距離を隔てていても、連絡手段が限られていても常に感じることができるシリア人の良いところに改めて触れる機会を日本の桜が与えてくれた気がします。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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