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荒れるシリア:ISはシリア軍将兵多数殺害、米軍は子供を射殺、アル=カーイダ系組織はロシア軍基地を襲撃

青山弘之東京外国語大学 教授
Facebook(Raqqa.Sl)、2021年1月1日

シリアでは、年末から年始にかけて、各地で不穏な「テロ」が相次いだ。

親政権民兵が乗ったバスをイスラーム国が襲撃

ダイル・ザウル県では、シリア国営通信(SANA)によると、シリア政府の支配下にあるカバージブ村近郊で12月30日、大型旅客バス(ボールマーン)が「テロ攻撃」を受けて、多数の死傷者が出た。

SANA、2020年12月30日
SANA、2020年12月30日

旅客バスが襲撃を受けたのは、ダイル・ザウル市とヒムス県タドムル市を結ぶ街道。新年を自宅で過ごすために移動していた乗客が犠牲となった。

SANAは乗っていたのが民間人だと伝えた。だが、英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は、シリア軍第4師団所属の民兵39人(うち士官7人)が死亡、多数が負傷したと発表した。

1月1日、遺体が搬送されたヒムス県のアブドゥルカーディル・シャカファ軍事病院で葬儀が執り行われ、軍関係者や住民数千人が参列した。SANAが公開した写真には、死亡した民兵の遺影がはっきりと写っていた。

SANA、2021年1月1日
SANA、2021年1月1日

SANA、2021年1月1日
SANA、2021年1月1日

シリア人権監視団によると、住民数万人が葬儀に参列した。

事件に関して、イスラーム国に近いアアマーク通信が12月31日、イスラーム国メンバーが実行したとする声明を出した。声明は「シャーム州」の名義で出され、以下のように表明していた。

カリフ国の兵士たちは(ヒムス県)スフナ市近郊で背教者ヌサイリー派の軍の兵士が乗ったバス1台を要撃、ムジャーヒディーンは重火器で狙い、多数の仕掛け爆弾でこれを爆破、40人あまりを殺害、複数を負傷させた。

Enabbaladi、2020年12月31日
Enabbaladi、2020年12月31日

イスラエル軍が越境ミサイル攻撃

一方、イスラエルもシリアへの侵犯行為を続けた。

SANAは、シリア軍筋の話として、イスラエル軍戦闘機が午前1時半、イスラエル北部のガリラヤ地方北の上空からダマスカス郊外県ナビー・ハービール・モスク近く(サバダーニー市南)に展開するシリア軍防空部隊に対してミサイル攻撃を行い、シリア軍兵士1人が死亡、3人が負傷したと伝えた。

シリア人権監視団によると、このミサイル攻撃で、ナビー・ハーイール・モスク近くにあるレバノンのヒズブッラーと「イランの民兵」のミサイル・弾薬倉庫複数棟が破壊され、複数の死傷者が出た。

「油田防衛」を口実に子供を射殺する米国

米国もまた、シリア領内で「テロとの戦い」と「油田防衛」に盲進した。

イドリブ県では、シリア人権監視団によると、米主導の有志連合所属と思われる無人航空機(ドローン)が12月30日、「決戦」作戦司令室の支配下にあるサルキーン市とイスカート村を結ぶ街道を移動中の車を攻撃した。

「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)などからなる武装連合体。

また、SANAによると、「テロとの戦い」と「油田防衛」を口実に、ハサカ県シャッダーディー市に違法に基地を設置し、駐留する米軍の兵士たちが、同市のタワッスイーヤ地区近くで遊んでいた子供たちに向けて発砲、1人を殺害した。

撃たれたのは、12歳のムハイディー・フサイン・ファッラーフくん、バジュダリー部族の子息。

複数の住民によると、ムハイディーくんは、米軍が接収したラムユ油田近くで、ほかの子供数人と遊んでいたところを、米軍の発砲を受けたという。

米軍は、同地に近づこうとする住民に対して、連日発砲し、威嚇を続けていたという。

新興のアル=カーイダがロシア軍基地を襲撃

そして、ラッカ県では、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるタッル・サマン村に設置されているロシア軍基地が12月31日深夜から1月1日未明にかけて襲撃を受け、爆発と銃撃戦が発生、ロシア軍兵士複数人が負傷した。

攻撃を行ったのは、新興のアル=カーイダ系組織の一つでイドリブ県で活動しているフッラース・ディーン機構で、SNSを通じて次のような声明を出し、犯行を認めた。

現場では悲惨な状況が続いているものの、汝らの同胞であるフッラース・ディーン機構の中隊の一つがラッカ県のタッル・サマンでロシア軍部隊の巣窟を襲撃することに成功した。

Xeber24、2021年1月1日
Xeber24、2021年1月1日

フッラース・ディーン機構が、反体制派の支配地域であるいわゆる「解放区」以外で作戦を実行したのは、これが初めて。

Facebook(Raqqa.Sl)、2021年1月1日
Facebook(Raqqa.Sl)、2021年1月1日

シリア人権監視団によると、攻撃を行ったのはフッラース・ディーン機構のメンバー2人。

爆弾を仕掛けた車をロシア軍基地の前に停車させ、基地に向けて発砲、車を置いたまま逃走し、その直後に爆発が発生したという。

この爆発で、ロシア軍兵士数人が爆弾の破片を浴びて負傷したという。

一方、北・東シリア自治局を主導するクルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)にちかいハーワール・ニュース(ANHA)によると、攻撃は爆弾を搭載した車1台と自爆戦闘員5人によって行われた、と伝えた。

また、「ラッカは沈黙のうちに惨殺される」(Raqqa.Sl)は、爆発発生直後に銃撃戦が起こり、ロシア軍兵士多数が死傷したと伝えた。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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