シリアでPKKとペシュメルガ・ロジャヴァが衝突、クルド民族主義勢力どうしの対立激化
トルコがシリア北部に対する新たな侵攻を画策しているとの情報が流れるなか、同地で活動するクルド民族主義勢力どうしの対立がにわかに激しさを増している。
PKKとペシュメルガ・ロジャヴァの衝突
英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ハサカ県ダルバースィーヤ市で12月14日、トルコのクルディスタン労働者党(PKK)のメンバーと、イラク・クルディスタン自治政府の傘下で活動するペシュメルガ・ロジャヴァの戦闘員が交戦、PKKメンバー1人、ペシュメルガ・ロジャヴァの戦闘員1人が死亡した。
ダルバースィーヤ市はトルコとの国境に面する都市で、ロシア軍の支援を受けるシリア軍が展開しているが、その自治は、PKKの姉妹組織である民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局によって担われている。
PKK、そしてPYDはトルコ政府が「分離主義テロ組織」と位置づけている組織だ。
ペシュメルガ・ロジャヴァとは?
一方、ペシュメルガ・ロジャヴァは、シリア・クルド国民評議会が2015年に結成した民兵組織。シリア北東部に住むクルド人、そしてイラク・クルディスタン自治政府支配地域で暮らすクルド人難民によって構成され、イラク・クルディスタン自治政府の憲兵隊(ゼルヴァーニ)に所属している。
シリア・クルド国民評議会は2012年に、イラク・クルディスタン自治政府を主導するイラク・クルディスタン民主党の後援を受けて結成された連合体。現在は以下の組織(カッコ内は代表名)から構成されている。
- シリア・クルディスタン・イェキーティー党(スライマーン・ウースー)
- シリア・クルディスタン民主党(サウード・ムッラー)
- シリア・クルド改革運動(ファイサル・ユースフ)
- シリア・クルド民主平等党(ニウマト・ダーウード)
- シリア・クルド国民民主党(ターヒル・サフーク)
- シリア・クルド民主党(パールティー)(アブドゥルハキーム・バッシャール)
- シリア民主統一党(民主イェキーティー(ハッジャール・アリー)
- クルディスタン民主統一党(カーミーラーン・ハーッジ・アブドゥー)
- シリア・クルド民主左派党(シャッラール・カッドゥー)
- シリア・クルディスタン左派党(マフムード・ムッラー)
- シリア・クルド・ムスタクバル潮流(スィヤーマンド・ハッジュー)
- シリア・クルド・ムスタクバル潮流総合関係局派(ナーリーン・マティーニー)
- シリア・ヤズィーディー評議会党(マズキーン・ユースフ)
- シリア・クルディスタン前衛パールティー(イスマーイール・ハッサーフ)
国連主催の和平プロセスであるジュネーブ会議に参加するいわゆる反体制派で、トルコをはじめとする西側諸国から直接、間接の支援を受けている。主要な反体制政治組織が国内に拠点を持たないなか、シリア・クルド国民評議会は、北東部各所で活動を行っている。だが、その勢力は限定的で、PYDとも対立関係にある。
シリア・クルド国民評議会を狙った襲撃・放火
PKKとペシュメルガ・ロジャヴァの衝突をきっかけに、北・東シリア自治局の支配地各所で、シリア・クルド国民評議会(およびその加盟組織)を狙った襲撃・放火事件が相次いだ。
12月14日には、両者の衝突の数時間後、ダルバースィーヤ市内にあるシリア・クルド国民評議会の事務所が武装集団の発砲を受けた。
12月15日なると、ハサカ市内にあるシリア・クルディスタン民主統一党の本部が、PKKメンバーからなると思われる武装グループの襲撃を受け、火災が発生、施設内の設備などが被害を受けた。
また、アームーダー市でも、シリア・クルド国民評議会の事務所が何者かによって放火された。放火はPYDに近い革命青年運動の犯行と見られるという。
襲撃はハサカ県に限られなかった。12月15日には、アレッポ県アイン・アラブ(コバネ)市で、クルディスタン民主統一党の事務所に火焔瓶が投げ込まれ、火災が発生した。
シリア民主軍を貶めようとする動き
こうしたなか、シリア人権監視団は12月16日、シリア・クルド民主評議会がアイン・アラブ市の住民に対して、1人あたり200~300米ドルを支払い、人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍のイメージを損ねるよう持ちかけているとの情報が流れていると発表した。
YPGはPYDによって結成された民兵組織。シリア民主軍は北・東シリア自治局の武装部隊である。