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シリア北部で相変わらず住民の抵抗に直面する米軍とロシア軍

青山弘之東京外国語大学 教授
ANHA、2020年7月2日

トルコに面するシリア北部で、外国軍に対する住民の抵抗が相変わらず続いている。

住民の抗議を受けているのは、ラッカ県タッル・アブヤド市一帯やハサカ県ラアス・アイン市一帯の国境地帯を占領するトルコ軍だけではない。政府の要請(そしてトルコとの合意)に基づいてハサカ県カーミシュリー市の国際空港などに駐留するロシア軍、そしてクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局の軍事的後ろ盾となっている米軍も、抵抗に直面している。

米軍に立ちはだかる住民とシリア軍

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団や国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、シリア北東に位置するハサカ県で7月2日、M4高速道路のタッル・タムル町とアブー・ラースィーン(ザルカーン)町を結ぶ区間に架かるダルダーラ橋(ダルダーラ村近郊)の前で、住民とシリア軍部隊が橋を通過しようとした米軍の装甲車複数輌に立ちはだかり、進行を阻止した。

SANA、2020年7月2日
SANA、2020年7月2日

住民とシリア軍が米軍とにらみ合い、緊張が高まったのを受け、ロシア軍部隊が現場に駆けつけ、両者を引き離し、米軍を退却させ、事なきを得たという。

米軍とロシア軍の小競り合い

一方、マーリキーヤ(ダイリーク)市一帯地域では、ロシア軍が同市近郊のカーサーン村、カスル・ディーブ村で重点パトロールを実施するとともに、市の入り口に位置するワーニカ村に部隊を集結させた。

これに対して、マーリキーヤ市近郊のハッラーブ・ジール村などに違法に基地を建設して駐留する米軍が対応、アイン・アブド村に装甲車を派遣し、ロシア軍パトロール部隊の進行を妨害した。

ロシア軍は7月1日にも、米軍が兵站物資や兵員の搬入に利用しているチグリス川河畔のスィーマルカー国境通行所に向かってパトロールを実施し、同通行所に至る街道で米軍部隊の妨害を受けた。

シリア人権監視団、2020年7月1日
シリア人権監視団、2020年7月1日

なお、米軍は7月1日、装甲車や大型貨物車輌など約30輌を、スィーマルカー国境通行所からシリア領内に進入させた。また2日にも、装甲車や大型貨物車輌など約30輌をヤアルビーヤ町(タッル・クージャル)の国境通行所からシリア領内に新たに進入させ、町近郊にある農業用空港に軍事基地を設置したという。

他方、ロシア軍部隊は、住民の要請に応えるかたちで、6月30日にから野営を行っていたトルコ国境に近いダイルナー・アーガー村近郊から撤退した。

ロシア・トルコ軍合同部隊への投石

アレッポ県では、PYDに近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、ロシア軍とトルコ軍の合同部隊が7月2日、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるアイン・アラブ(コバネ)市西の国境地帯で合同パトロールを実施した。

ロシア軍ヘリコプター2機も随行した合同パトロールは、アーシマ村、ジャールカリー村、カッラーン村、ディークマダーシュ村、ブーバーン村、スィフティク村、タッル・シャイール村、スーサーン村、クーラ村、下カッラ・カウィー村、マシュクー村、ジュブナ村を巡回した。

だが、複数の村で住民が車列に投石を行い、抗議の意思を示した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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