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ロシア・トルコ外務・国防閣僚級会合の延期にもかかわらず、シリアでの両軍の協力は順調

青山弘之東京外国語大学 教授
シリア人権監視団、2020年6月16日

トルコのイスタンブールで6月14日に予定されていたロシアとトルコの外務・国防閣僚級会合が延期され、リビア情勢やシリア情勢への対応をめぐって再び対立が深まっているとの憶測が流れている。だが、シリアに目を向けると、両国の結託、とりわけイドリブ県やハサカ県での合同パトロールは順調な進展を見せているようである。

M4高速道路での合同パトロール

イドリブ県では、ロシア軍とトルコ軍は6月16日、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路で17回目となる合同パトロールを実施した。

合同パトロールは、シリア政府の支配下にあるサラーキブ市近郊のタルナバ村と、反体制派の「解放区」の拠点都市の一つであるジスル・シュグール市近郊を結ぶ全長約40キロの区間で行われた。

両軍のパトロールはこれまでアリーハー市近郊(アウラム・ジャウズ村)以東の区間に限定されていた。

だが、合同パトロールに激しく反対し、住民を動員するなどして抗議を続けてきたシリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が、6月14日にM4高速道路沿線のすべての検問所を突如撤去したことを受け、今回初めて、ジスル・シュグール市近郊までパトロールの範囲を拡大した。

LiveuaMap、2020年6月16日
LiveuaMap、2020年6月16日

続く妨害

しかし、沿線での妨害は続いた。

ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ報道官はビデオ声明を出し、合同パトロール中にロシア軍の車輌が武装集団の「テロ攻撃」を受けたことを明らかにした。

Facebook(ロシア国防省)、2020年6月16日
Facebook(ロシア国防省)、2020年6月16日

トルコ国防省もツイッターなどを通じて声明を出し、「未確認の爆発物の爆発」で車輌1輌が軽い損傷を受けたと発表した。

なお、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、損傷を受けたロシア軍車輌は、トルコ軍車輌に牽引されて、基地に引き返したという。

また、こうした妨害に対抗するかたちで、ロシア軍はM4高速道路以南の「解放区」への爆撃を継続、6月15日にはイドリブ県ザーウィヤ山地方のサルジーラー村一帯を、16日には同県南部のマウザラ村を爆撃した。

ハサカ県の国境地帯での合同パトロール

一方、北東部のハサカ県では、シリア人権監視団によると、ロシア軍とトルコ軍は6月15日、米主導の有志連合が違法に基地を設置しているルマイラーン町に近い国境地帯で合同パトロールを実施した。

また、6月16日には、両軍にシリア軍を加えて連携と思われる動きも見られた。

シリア人権監視団によると、カーミシュリー市に駐留するロシア軍とシリア軍からなる合同部隊はこの日、カフターニーヤ(ディルベ・スピーイェ)市近郊のダイル・グスン村に入った。

LiveuaMap、2020年6月16日
LiveuaMap、2020年6月16日

その後、今度はロシア軍とトルコ軍の車輌15輌からなる合同部隊がダイル・グスン村からダイルナー・アーガー村方面に向かって合同パトロールを実施した。

ロシア軍は、トルコ軍との合同パトロールを開始した地点に駐留を開始し、住民に対して食料物資の支援を行おうとしたが、住民はこれを拒否し、ロシア軍の退去を要請した。

この要請を受けて、ロシア軍は退去の準備に入ったという。

シリア人権監視団、2020年6月16日
シリア人権監視団、2020年6月16日
シリア人権監視団、2020年6月16日
シリア人権監視団、2020年6月16日

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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