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シリア:米軍に立ちはだかる農夫、ロシア軍に卵を投げつける白衣の女性、革命家に抗議する住民(映像あり)

青山弘之東京外国語大学 教授
Syria TV、2020年5月12日

米軍パトロール部隊に立ちはだかる農夫

国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるハサカ県タッル・タムル町近郊のダシーシャ村とカーヒラ村の住民が5月12日、農具を片手に街道を封鎖し、米軍装甲車からなるパトロール部隊の進行を阻止した。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、米軍のパトロール部隊に対峙したのは、親政権の農夫と民兵(国防隊隊員)。

米軍部隊はパトロール活動を中止し、退却を余儀なくされた。

ロシア・トルコ軍の合同パトロール部隊を白衣の女性らが妨害、爆発も発生

シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が軍事・治安権限を握るイドリブ県では、反体制系サイトのEldorarなどによると、ロシア軍とトルコ軍が5月12日、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路で合同パトロールを実施した。

両軍合同部隊はサラーキブ市近郊のタルナバ村を出発し、アリーハー市近郊に向かって西進した。

だが、アリーハー市近郊で住民らの抗議に遭い、パトロール活動の中断を余儀なくされた。

パトロール部隊に対峙した住民のなかには、白衣を来た女性の一団もおり、彼女らはロシア軍装甲車に卵や石を投げつけ、「ロシアは私たちの敵、バッシャール・アサドは私たちの敵」などと言って、抗議の意思を示した。

また抗議行動が行われた現場近くでは爆発が発生した。爆発が何によるものかは不明。

なお、トルコ国防省は、ツイッターなどを通じて合同パトロールが実施されたと発表したが、抗議行動については言及していない。

また、ロシア国防省もこの件について声明などは発表していない。

「革命家」がIDPsを強制退去としたことに抗議するデモ発生

イドリブ県では、シリア人権監視団によると、反体制武装組織の一つシャーム自由人イスラーム運動が5月12日、フーア市内で発生した抗議デモを、空に向けて実弾を発射するなどして排除した。

抗議デモは、シャーム自由人イスラーム運動が市内の民家1棟を軍事拠点化するとして、この民家に住んでいた国内避難民(IDPs)の一家を強制退去させたことを受けたもの。

強制退去を余儀なくされたのは、未亡人と孤児4人からなるヒムス市出身のIDPsの一家。

シャーム自由人イスラーム運動は、トルコの支援を受ける国民解放軍(国民軍)に所属し、「自由シリア軍」、「革命家」を自称するが、アル=カーイダの系譜を汲んでいる。

フーア市は、隣接するカファルヤー町とともに、政府を支持する12イマーム派信徒が多く暮らしていたが、長年にわたり反体制派の包囲を受け、2018年までに全住民が政府支配地域に避難した。その後、政府との和解を拒否したダマスカス郊外県東グータ地方やヒムス県の反体制派やその家族がIDPsとして移住してきた。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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