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イドリブ県でシリア軍とトルコ軍・反体制派が砲撃戦、プーチン・エルドアン電話会談は不調に終わる

青山弘之東京外国語大学 教授
SANA(2020年2月21日)

シリア軍とトルコ軍・反体制派がイドリブ県で砲撃戦

イドリブ県では、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団や国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、シリア軍地上部隊とトルコ軍・「決戦」作戦司令室が21日、ナイラブ村一帯、ダーディーフ村一帯、アーフィス村一帯で砲撃戦を行った。

「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構、トルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)が主導する連合体。

シリア軍地上部隊はまた、「決戦」作戦司令室の支配下にあるM4高速道路沿線のフライカ村、マルジュ・ズフール村、バーラ村、ダイル・サンバル村、イフスィム村、カフルナブル市、マストゥーマ村、クマイナース村、アルバイーン山、アリーハー市一帯、ハーッス村に対しても砲撃を加えたほか、アレッポ県でもアターリブ市一帯、ダーラ・イッザ市一帯を砲撃した。

ロシア・シリア軍がイドリブ県、アレッポ県を爆撃

ロシア軍戦闘機もシリア軍戦闘機とともに、イドリブ県のサルミーン市、クマイナース村、アリーハー市、アルバイーン山、ザーウィヤ山、アレッポ県のアターリブ市、ダーラ・イッザ市一帯、カフル・ヌーラーン村、タカード村、シャイフ・スライマーン村、アブザムー町、タワーマ村などを爆撃した。

これに対して、トルコ軍は、カフルルースィーン村から戦車、装甲車など20輌を新たに進入させ、マストゥーマ村近郊に展開した。

シリア軍によるピンポイント爆撃の写真・映像が公開される

SANAは、シリア軍戦闘機がイドリブ県ナイラブ村に対する爆撃で、トルコ軍の支援を受ける「テロ組織」の拠点をピンポイントで破壊したと伝え、航空写真やビデオを公開した。

撮影された日時は明らかにされなかったが、トルコ国防省の発表によると、トルコ軍兵士2人が20日にナイラブ村に対するシリア軍の爆撃で死亡している。

ロシア・トルコ首脳電話会談、事態打開には至らず

ロシア大統領府は声明を出し、ヴラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が21日晩に電話会談を行い、イドリブ県情勢への対応について協議したと発表した。

声明によると、プーチン大統領は会談で、過激派による敵対行為が続いていることに重大な懸念を表明、シリアの主権尊重と領土統一の必要を強調した。

声明はまた、緊張緩和、停戦、テロの脅威軽減を実現するため、イドリブ県情勢に対処するための政府間の協議を活性化することをエルドアン大統領と合意したと付言した。

一方、トルコ大統領府も声明を出し、イドリブ県でシリア政府が攻撃を停止し、人道危機を終わらせる必要があることを強調したと発表した。

エルドアン大統領はまた、ソチでの合意を完全実施することで、イドリブ県の問題を解決すべきだとプーチン大統領に伝え、イドリブ県をめぐってこれまでに発効したすべての合意を遵守することを合意したという。

エルドアン大統領は、会談に先立って、「我々は会談の結果に基づいて我々の姿勢を決定する」と述べていた。

トルコ国防大臣「イドリブ県でロシアとことを構えるつもりはない」

トルコのフルシ・アカル国防大臣はCNN Turkに対して「イドリブ県でロシアとことを構えるつもりはない」と述べた。

アカル国防大臣は「ロシアと対決する意思はない…。トルコ政府はあらゆる努力を通じて、シリアでロシア軍との戦闘が発生するのを阻止してきたし、今もこうした努力を続けている」と述べるとともに、「我々が望んでいるのは、(シリアの)体制が停戦を遵守することだ」と述べた。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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