効果のない化学兵器攻撃、意味のない報復ミサイル攻撃:シリア情勢2018(4)

(提供:SANA/ロイター/アフロ)

「東グータ地方制圧、打ち砕かれた「革命」の幻想」の続き)

 ダマスカス郊外県東グータ地方での戦闘が収束しようとしていたまさにその時、またしても「あの事件」が起きた――化学兵器疑惑事件である。

介入の好機、深入りを回避する口実

 化学兵器は、米国がシリア情勢に介入する好機を与える一方で、内戦への深入りを回避する口実となってきたアジェンダだ。

 2013年8月に東西グータ地方で発生したサリン・ガス使用疑惑事件は、化学兵器を「ゲーム・チャンジャー」と位置づけていたバラク・オバマ前米政権が軍事介入をちらつかせ、シリア政府に圧力をかけることを可能とした。シリア政府は、ロシアとの協議の末、一貫して否定してきた化学兵器の保有(使用ではなく、あくまでも保有)を認め、化学兵器禁止条約(CWC)に加盟することで、攻撃を回避した。化学兵器禁止機関(OPCW)は2015年1月、シリアで化学兵器が全廃されたことを確認した。

 その一方、「独裁」打倒のために敢行されるかに思われてきた米国の軍事介入は、これを機に、体制転換を伴わない懲罰攻撃へとグレード・ダウンした。事件後に採択された国連安保理決議第2118号(S/RES/2118 (2013))を起点に、ロシアとともに国連主催のジュネーブ会議の共同議長国となった米国は、正統性を失ったとしていたシリア政府と反体制派の和平協議を仲介していった。

 なお、東西グータ地方での事件は、2013年12月に国連調査団が発表した最終報告書で「地対地ロケット弾にサリン・ガスと思われる有毒ガスが装填され、住民に対して使用された」と結論づけられた。だが、調査団は化学兵器使用の実行犯を特定する権限を持たなかったため、シリア政府は追及を免れた。

 その後、シリア政府、反体制派双方による塩素ガスの使用が問題視されるようになると、国連は2015年3月、米・ロシアの合意に基づき安保理決議第2209号(S/RES/2209 (2015))を採択、塩素ガスの使用も禁止、国連とOPCWの合同査察機構(JIM)を設置し、シリア国内での調査と責任追及を行うことを決定した。

 JIMは2016年8月に提出した報告書で、調査対象となった9件の事件のうち3件でシリア軍による塩素ガス使用を確認したと結論づけた。だが、オバマ前政権は「塩素そのものは歴史的に化学兵器には挙げられない」と述べ、シリア政府側による使用を「レッド・ライン」としないとの立場を示し、行動に訴えなかった。

関与するフリをするための好機にして口実

 ドナルド・トランプ米政権にとっても、化学兵器は好機であり、口実だった。2017年4月4日のイドリブ県ハーン・シャイフーン市でサリン・ガス使用疑惑事件が起きると、同月6日にミサイル攻撃を敢行したのだ。

 59発ものトマホーク巡航ミサイルが使用された攻撃では、ヒムス県中部のシャイーラート航空基地が標的となった。だが、シリア政府の化学兵器開発・使用能力を奪うとのトランプ政権の勇ましい発言とは裏腹に、基地は1日足らずで復旧、また有毒化学物質や関連装備の存在(そして破壊)も確認されなかった。

 存在感を示すことで関与するフリをし、実際にはシリア政府の存廃を不問にしていく――トランプ政権に熟慮されたシリア政策があるとは思えないが、その前後の言動を踏まえるとこう解釈できるだろう。

 JIMは2017年10月26日、国連安保理に報告書を提出し、ハーン・シャイフーン市で「化学物質による空爆が行われた」と結論づけ、シリア政府の犯行を断じた。ロシアとシリア政府は、現地で実査を行わずに作成された報告書の内容を拒否した。とりわけ、ロシアは責任も追及しようとする欧米諸国に強く反発した。ロシアは10月24日と11月17日、JIMの任期延長を求める国連安保理決議案に、中立性が担保されていないとして拒否権を発動し、化学兵器問題に事実上の幕引きを計った。

 その後、国連安保理では2018年2月、シリア国内での化学兵器使用問題に対処するための会合が開かれ、ロシアがJIMに代わる新たな調査機関の設置を提案した。これに対して、米英仏は、JIMの調査結果を無に帰すものだと強く反発した。いずれも自分たちに都合が良いかたちで調査を進め、都合の良い結果を得ようとして足を引っ張り合った。

次から次に浮上する使用疑惑

 2018年に入り、東グータ地方に対するロシア・シリア両軍の攻撃が激化すると、化学兵器使用が再び騒がれるようになった。1月13、22日、2月1、26日、3月6日には東グータ地方(ドゥーマー市、ハラスター市)で、2月4日にはイドリブ県サラーキブ市で、シリア軍が塩素ガスを装填した砲弾・爆弾で攻撃を行い、住民が呼吸困難などの症状を訴えたとの情報が流れた。

 シリア軍が化学兵器を使用したと証言したのは、反体制派支配地域で医療救援活動を行っているというホワイト・ヘルメットやシリア米医療協会(SAMS)などだった。いずれも、欧米諸国の支援を受け、これまでにシリア軍に不利な証言を行ってきたことで知られていた。米国は、レックス・ティラーソン米国務長官が1月23日、「シリア政府がおそらく化学兵器を再び使用した」と断定、ジェームズ・マティス米国防長官も2月2日、「現場で活動するNGOや戦闘員が、サリン・ガスが使用されてきたと言っている…。我々がどのように対応するか見てきたはずだ」と述べ、再び懲罰攻撃に踏み切る可能性を示唆した(「シリアのアサド政権は「まだ」化学兵器を使っているのか、そして「また」使うのか?」を参照)。

 疑惑はこれだけに留まらなかった。東グータ地方と並行して戦闘が激化していたアレッポ県アフリーン郡でも化学兵器の使用が報告された。トルコ軍とともに戦闘に参加していた「オリーブの枝」作戦司令室(自由シリア軍)は2月6日に緊急声明を出し、「民主統一党(PYD)のテロ民兵(人民防衛隊(YPG)のこと)」がアフリーン郡ブルブル区シャイフ・ハッルーズ村にある拠点が、塩素ガスを装填した迫撃砲の攻撃を受け、20人が負傷したと発表した。一方、16日には、トルコ軍が、塩素ガスと思われる有毒ガスを装填した砲弾を用いて、アフリーン郡シャイフ・ハディード区マズィーナ村を砲撃、民間人6人が呼吸困難などの症状を訴えてアフリーン市内の病院に搬送されたと伝えられた(「シリアで今度はトルコ軍が化学兵器攻撃か?:化学兵器を使うことの「効果」、使われることの「旨み」」を参照)。

 疑惑の目を向けられた当事者たちは、当然のことながら関与を否定した。シリア政府は「米国はシリア軍の戦果を快く思っていない。だから、シリア軍が化学兵器を使用しているという嘘の情報を流している」と一蹴、米英の支援を受けるホワイト・ヘルメットがシャーム解放機構やラフマーン軍団とともに行った「劇場」だと反論した。YPG、トルコ政府も然りだった。

 真偽は定かでない。だが、シリアで化学兵器や有毒ガスが使用される度に再認識されるのは、使用する側にとっての軍事的、政治的な「効果の低さ」と、被害者となって、敵を貶める好機を得ることができる側(犠牲者となる民間人ではなく、彼らを代弁すると主張する紛争当事者)の「旨み」だった。

東グータ地方での最後の事件

 東グータ地方で最後となる化学兵器疑惑事件は、実に微妙なタイミングで発生した。

 ドゥーマー市で抵抗を続けてきたイスラーム軍は4月1日に停戦を受け入れ、戦闘員とその家族の退去が開始された。だが5日に退去を拒否する一部のメンバーの妨害によって作業は中断を余儀なくされた。事態に対処するため、ロシア・シリア両軍は7日に攻撃を再開、戦闘はイスラーム軍が改めて停戦に応じた8日まで続いた(「東グータ地方制圧、打ち砕かれた「革命」の幻想」を参照)。

 事件が起きたのは、戦闘終結の前日にあたる7日午後だった。ホワイト・ヘルメットとイスラーム軍は、ロシア・シリア両軍の総攻撃で、焼夷弾、「樽爆弾」、地対地ミサイルに加えて、塩素ガスが使用されたと発表した。ホワイト・ヘルメットは、住民1000人以上が呼吸困難を訴え、死者数は「把握できない」と発表、イスラーム軍の広報部門であるクマイト通信も、少なくとも75人が死亡したと報じた(ただし、死傷者数はその後、それぞれ40人以上、100人以上に「下方修正」された!)。また、こうした情報と合わせて、有毒物質を洗浄するとして水をかけられたり、酸素呼吸器や携帯酸素缶を口に当てたりしている子どもの映像や画像が、ホワイト・ヘルメットや反体制派のサイトを通じて拡散された。

 攻撃は、これまでの化学兵器・塩素ガス使用疑惑事件と同じように、二つの解釈のもとで語られた。

 第1の解釈は、反体制派や市民に屈服を強いる(ないしは根絶する)ため、シリア軍が塩素ガスを使用したというものだ。この解釈において、シリア政府やロシアが、攻撃に先立って「反体制派は欧米諸国の介入を促すため、シリア軍による化学兵器使用の事実を捏造しようとしている」と繰り返してきたことは、犯行に向けた周到な準備とみなされた。ハーン・シャイフーン市での化学兵器使用疑惑事件と米軍によるミサイル攻撃から約1年後というタイミングについては、欧米諸国が実効的な対応策を講じられないであろうことを見越して、その無力を嘲笑するために「復讐した」などと説明された。

 第2の解釈は、反体制派が劣勢を打開するために自作自演したというものだ。根拠は、圧倒的な優位に立つシリア軍が、欧米諸国の干渉を招きかねない塩素ガス使用に敢えて踏み切るはずないというものだった。また、退去を続ける住民を「人間の盾」として繋ぎ止められなくなった反体制派が、彼らを「処分」することで、国際社会から支持と同情を得ようとしたとの極論も散見された。事件発生のタイミングについても、ハーン・シャイフーン市での一件から1年を迎え、欧米諸国でシリア情勢への関心が高まることに合わせたものだと説明された。

二つの解釈を裏づける二つの証拠

 相反する二つの解釈を裏づける証拠もそれぞれ用意された。

 米政府高官は2月14日、被害者に瞳孔の収縮や中枢神経系の障害といった症状が見られたとしたうえで、塩素ガスだけでなく、サリンが使用された可能性もあると報道関係者に説明した。また攻撃は「樽爆弾」によるもので、事件発生時にヘリコプターが旋回、このことがシリア軍の関与を裏づけていると断じた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領も12日に「アサド政権が化学兵器を使用した証拠を握っている」と述べた。

 だが、こうした主張は謎に満ちていた。米英仏はどのようにサンプルを採取し、診断結果を得たのか、フランスが言う証拠とは何か、「樽爆弾」に化学兵器が装填されていたことはどのように確認されたのか、などである。こうした疑問に対して、ダナ・ホワイト国防総省報道官は14日、こう答えただけだった――「いろいろな情報があるが、それについて今は話したくない」。

 これに対し、ロシアとアサド政権は、事件が英国諜報機関の支援を受けたホワイト・ヘルメットによる捏造で、塩素ガスを含む化学兵器攻撃はそもそもなかったと反論した。とりわけ、シリア政府の支配下に入ったドゥーマー市に憲兵隊、技術者、記者を自由に送り込むことができるようになったロシアは、現場検証や住民の証言といった証拠を積み重ねるかたちで、ホワイト・ヘルメットが公開した映像が「化学兵器が使用された」とのデマでパニック状態に陥った住民を撮影したものだと主張した。4月26日には、シリア政府とともに、オランダのハーグにあるOPCW本部に、事件現場に居合わせたとする住民や医師を証人として招待し、加盟国に対する説明会を開き、自らの主張を裏づけていった。

 こうしたなかで、メディアでの取材・報道合戦が過熱した。BBCは4月16日、事件現場の映像に映っていた少女にインタビュー(場所は不明)を行い、その様子を公開した。

出所:http://www.bbc.com/japanese/video-43779673
出所:http://www.bbc.com/japanese/video-43779673

 これに対し「ロシア24」も23日、同じ映像に映っていた少年にインタビューし、対抗した。同じ現場にいたにもかかわらず、二人の発言は、それぞれ米英仏とロシア・シリア政府の主張を忠実になぞったものだった。

不可解なホワイト・ヘルメットの言動

 だが、欧米諸国の解釈には明らかに無理があった。事件に関する情報そのものに不可解な点が多かったためだ。

 これらの情報のほとんどは、ホワイト・ヘルメットによって配信されていたが、大規模な攻撃だったにもかかわらず、なぜそれ以外の組織・個人、とりわけ住民が情報を発信しなかったのかが疑問視された。映像や画像についても、例えば、ホワイト・ヘルメットがツイッターで公開した、横たわって心電図の電極を取り付けられている子どもの写真は「電極の取りつけ方が間違っている」との批判を受けた。

 また犠牲者の遺体が存在しないとの指摘もなされた。これに関して、トルコに在住するホワイト・ヘルメット代表のラーイド・サーリフ氏はツイッターなどを通じてこう説明した。

我々はOPCWの事実調査団(FFM)に、化学兵器攻撃に関するすべての情報を提供した。そのなかには、犠牲者を埋葬した正確な場所も含まれている…。

遺体は、激しい爆撃が行われていたためにすぐに埋葬された。埋葬場所は証拠改ざんを防ぐために伏せられている…。遺体をできるだけ早く埋葬するのが優先事項だった。

出典:https://twitter.com/RaedAlSaleh3/status/987404812814835714

 だが、負傷者の救出や治療に手一杯で、身元確認する余裕すらなかったはずホワイト・ヘルメットが、遺体の埋葬に執着するのは不自然に思えた。

誠意を欠いた言動

 こうした主張をプロパガンダだと一蹴して、無知と思考停止に陥ることは簡単だろう。だが「フェイク・ニュースの常習犯」であるはずのロシアやシリア政府の解釈に説得力を与えたのは、その後の米国、そして英仏両国の誠意を欠いた言動だった。

 OPCWは4月10日、現地調査を行うと発表し、シリア政府とロシアがこれを支持すると、米英仏は、シリアでの化学兵器の使用実態の調査と責任追及を目的とした独立国際調査機関(UNIMI)を新たに設置するよう要求した。この試みは、米国が国連安保理に提出したUNIMI設置決議案の採決で、ロシアが2度(10日、15日)にわたって拒否権を発動したことで実現を見なかった。米英仏は、シリア政府の支配下に復帰したドゥーマー市でOPCWが調査を行えば、証拠の隠滅や捏造に巻き込まれかねないとしてUNIMI設置をめざしたと主張するが、OPCWが真実を突き止めることを妨害しようとしたと見ることもできた。

 とはいえ、ロシアとシリア政府もまた、英米仏とは変わらなかった。4月12日からシリア国内での調査を開始したOPCWは、事件現場や隣国(国名は明示せず)で環境サンプル、生物学的サンプルを収拾・分析、目撃者のインタビューを行い、7月6日に中間報告書を発表した。その内容は、以下の通りロシアやシリア政府の主張とは異なり、塩素ガスの使用を示唆していた。

OPCWが指定した実験施設で、優先順にサンプル分析を行った結果、有機リン系神経剤、あるいはその分解産物は、環境サンプルおよび被害者とされる検体から採取された血漿サンプルからは検出されなかった。2カ所で採取されたサンプルから、さまざまな有機塩素系化学物質が爆発物の残骸とともに発見され、分析が続けられている。これらの結果の意義を確定するためのFFMチームの作業は現在も継続中である。FFMチームは最終結論に達するまで作業を続ける。

出典:https://www.opcw.org/media-centre/news/2018/07/opcw-issues-fact-finding-mission-reports-chemical-weapons-use-allegations

 この内容に対して、ロシアとシリア政府は、欧米諸国の圧力がかかっていると疑義を呈し、認めようとはしなかった。

ミサイル攻撃

 OPCWは本稿執筆時点においても調査の最終報告を発表しておらず、真相は藪のなかだ。だが、結論を待たずして、米国は英仏と共にシリア政府に懲罰を科すべくミサイル攻撃に踏み切った。

 米国防総省や米欧州軍(EUCOM)によると、米軍は、紅海、アラビア湾、地中海に展開していた艦艇からトマホーク巡航ミサイル66発を、また戦略爆撃機からJASSM空対地ミサイル19発を化学兵器関連施設に向けて発射した。英仏軍も戦闘機および艦艇からミサイル20発を打ち込んだ。

 ダマスカス県バルザ区の化学兵器研究施設、ヒムス市近郊の化学兵器貯蔵施設、同じくヒムス市近郊の機器貯蔵施設および司令所の3カ所で、「数年分の研究開発データや特殊機器、化学兵器の原料となる物質」を破壊するなどの戦果があがった――米英仏は、こう主張して作戦成功を誇示した。

出所:SANA, April 14, 2018
出所:SANA, April 14, 2018

 だが、ロシアとシリア政府の発表は違った。シリア軍武装部隊総司令部は、ミサイルのほとんどを防空兵器によって撃破したと主張、バルザ区の施設は化学兵器関連施設ではなく、抗ガン剤などの研究開発を目的とする製薬化学研究所で、その被害も所内の施設1棟が破壊されただけと反論した。

 ロシア軍の発表はより詳細だった。セルゲイ・ルドスコイ参謀本部機動総局長は4月14日の記者会見で、シリア軍がS-200などの防空システムを駆使して、ミサイル71発を破壊したと発表した。標的についても、ダマスカス国際空港、ドゥマイル航空基地、ブライ(マルジュ・ルハイル)航空基地、ジャルマーナー市の施設(以上ダマスカス郊外県)、シャイーラート航空基地、ヒムス航空基地(以上ヒムス県)、マッザ航空基地、バルザ区の施設(以上ダマスカス県)が狙われたが、被弾したのは、マッザ航空基地(4発被弾)、ヒムス航空基地(3発被弾)、バルザ区の施設(ジャルマーナー市の施設と合わせて23発被弾)だけだったと主張した。

SNSの炎上に似た一件

 攻撃は、化学兵器使用に象徴されるシリア政府の非道を黙認しないとの意志によって正当化された。だが、それによって、シリア政府から化学兵器開発・使用能力を奪うことも、シリア軍の進軍を止めることもできないことは明白だった。

 マティス国防長官は作戦実施直後の記者会見で、攻撃が「現時点で1回限り」と述べ、軍事バランスを変化させるような大規模且つ中長期の介入は想定していないことを強調した。ジョセフ・ダンフォード米軍統合参謀本部議長も「ロシア軍の巻き添えが出ないよう攻撃目標を精査した」と述べた。米国防総省にいたっては「二次被害を回避するため、化学兵器は破壊しなかった」と言い切った。

 メディアでも、UAEの衛星テレビ局アラビーヤが15日、複数の米政府高官の話として、ロシアだけでなく、イラン関連の拠点も標的から外されたと伝えた。『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌も、米主導の有志連合が占領するヒムス県南東部のタンフ国境通行所一帯地域(55キロ地帯)で活動する反体制派が、攻撃に乗じてシリア軍を攻撃した場合、有志連合の支援は打ち切られる旨、事前(そして事後)通告されていたと報じた。

 東グータ地方での戦闘がロシア・シリア両軍の勝利をもって決着した2日後に行われたミサイル攻撃は、化学兵器使用を口実とした介入がシリア情勢に何らの影響も及ぼし得ないことへの癇癪(かんしゃく)にさえ見えた。

 化学兵器攻撃疑惑事件とそれに伴うミサイル攻撃は、SNSの炎上のように現状に何の変化ももたらさないまま、一過性のものとして終わった。欧米諸国(とりわけ米国)はこれを機に影響力(そして関与)をさらに低下させ、その支援を受けてきた反体制派も勢力を失っていった。

「シリア版「パレスチナ難民キャンプ戦争」の決着」続く)