徹底抗戦を呼びかけるホワイト・ヘルメット/シリア情勢2017:「終わらない人道危機」のその後(11)

(写真:ロイター/アフロ)

「生き残りを賭けるロジャヴァ/シリア情勢2017:「終わらない人道危機」のその後(10)」の続き)

反体制派――シリア内戦において実態把握がもっとも困難な主体(ないしは概念)だ。

他の国の政治や紛争において反体制派が一つでないのと同様、シリアの反体制派も一枚岩ではなく、異なるイデオロギーや目標を持つ雑多な組織・個人からなっている。だが、シリア内戦においては、他の当事者が、各々の基準や思惑に基づいて、反体制派を「合法的な反体制派」と「テロリスト」に峻別し、排除・殲滅、あるいは懐柔しようとしてきた。そのことが反体制派の実態を把握困難なものとしてきたのである。

反体制派か、テロリストか?

国連主催の和平プロセスであるジュネーブ会議の枠組みにおいて、反体制派を峻別する基準は、イスラーム国、シャームの民のヌスラ戦線(現シャーム解放委員会)、そしてアル=カーイダ系組織との「つながりの有無」である。だが、この基準を字義通りに採用する当事者などいなかった。

シリア政府は、現行法に準じる政治主体のみを反体制派とみなし、外国(欧米諸国、サウジアラビア、トルコといった国々)の支援を受け、武力に訴えることに躊躇しない組織・個人を「テロリスト」と断定した。ロシア、イランもこうした峻別方法に準じた。

反体制派と総称される雑多な組織・個人は、概ねイスラーム国に対しては拒否の姿勢をとりつつも、ヌスラ戦線をはじめとするアル=カーイダ系組織と共闘し、表裏一体の関係をなした。筆者が「反体制派のスペクトラ」(拙稿『シリア情勢:終わらない人道危機(岩波新書新赤版1651)』岩波書店、2017年、pp.82-104を参照)と名づけた状況である。

1 反体制派のスペクトラ(出所:http://syriaarabspring.info/?p=23034)
1 反体制派のスペクトラ(出所:http://syriaarabspring.info/?p=23034)

米国、そして西欧諸国、サウジアラビア、トルコは、反体制派を「穏健な反体制派」(moderate opposition)と「過激派」に分けられると主張した。その基準は、過激なイスラーム主義に傾倒しているか否かという点にあった。だが「反体制派のスペクトラ」のなかで行われるこうした主張は、「民主化」支援の名のもとに「テロ支援」を促すことにつながった。拙稿「「穏健な反体制派」を切り捨てた米国/シリア情勢2017:「終わらない人道危機」のその後(5)」で述べた通り、「テロとの戦い」をシリア介入の根拠としてきたバラク・オバマ前米政権の「民主化」支援は、アル=カーイダ系組織を含むイスラーム過激派を支援する「マッチ・ポンプ」だった。

峻別基準の標準化

国際紛争としてのシリア内戦の終わりは、こうした峻別の基準が諸外国の間で「標準化」したことの結果でもあった。

アスタナ会議の保証国となったロシア、トルコ、イランは、自らの国益に沿って、政策遂行上、あるいは安全保障上の障害・脅威とならない組織・個人を反体制派とみなすというコンセンサスに達した。その一方、そうでない組織・個人は、アル=カーイダとつながりがあろうがなかろうが、「テロリスト」とされた(この点については、拙稿「シリア 弾圧に曝される市民に寄り添うフリをしてきた欧米諸国の無力と敗北」Newsweek日本版、2018年2月28日を参照されたい)。

ドナルド・トランプ政権下の米国にとって、イスラーム国と戦う協力部隊のみが反体制派で、それ以外は(アル=カーイダ系組織と共闘しているがゆえ)支援対象ではなくなった(拙稿「「穏健な反体制派」を切り捨てた米国/シリア情勢2017:「終わらない人道危機」のその後(5)」を参照)。

バラダー渓谷の戦い

こうしたなか、反体制派のスペクトラは混濁を続けた。2017年に入って、最初にそれが顕在化したのが、ダマスカス郊外県バラダー渓谷での戦いだった。

バラダー渓谷の戦いは、首都ダマスカス県で使用される水道水の70%あまりを供給してきたアイン・フィージャ町(ダマスカス郊外県)の水道施設が2016年12月22日に突如として稼働停止となったことが発端だった。その理由について、シリア政府側は、反体制派が汚染物質(灯油)を貯水槽や水路に流し込んだために水門を閉鎖したが、その後の戦闘で反体制派によって施設を占拠、破壊されたと主張した。対する反体制派は、バラダー渓谷に対するシリア軍の攻撃によって施設が破壊されたと反論した。

2 2017年1月のバラダー渓谷の勢力図(出所:http://syria.liveuamap.com/)
2 2017年1月のバラダー渓谷の勢力図(出所:http://syria.liveuamap.com/)
3 アイン・フィージャ市の水道施設(出所:SANA, January 29, 2017)
3 アイン・フィージャ市の水道施設(出所:SANA, January 29, 2017)

真相は闇のなかだ。だが、事実として確認し得るのは、水源奪還をめざすシリア軍や同盟部隊、とりわけレバノンのヒズブッラーが攻勢をかけるなか、施設を占拠する反体制派が復旧作業チーム受け入れの条件として、攻撃停止を要求したということだ。その結果、バラダー渓谷の住民が戦火に巻き込まれただけでなく、ダマスカス県で暮らす住民約550万人が深刻な水不足に見舞われたのだ。

ホワイト・ヘルメットとアル=カーイダ系組織

バラダー渓谷での戦いは、2016年12月のアレッポ市東部での戦闘終結を機にロシア、トルコ、イランが、アスタナ会議の開催に向けて結託を強めようとする動きに逆行していた。トルコは、反体制派にシリア軍と停戦するよう圧力を強めたが、アル=カーイダの系譜を汲む組織、すなわち停戦プロセスから排除されていたシャーム・ファトフ戦線(旧シャームの民のヌスラ戦線、現シャーム解放委員会)とアスタナ会議への参加を拒否したシャーム自由人イスラーム運動(現シリア解放戦線)はこれを拒否した。

こうしたなか、反体制派のスペクトラの混濁ぶりを示す現象も起きた。ホワイト・ヘルメットを筆頭とする「市民」団体による徹底抗戦の呼びかけである。

ホワイト・ヘルメットは、ロシア・シリア両軍の無差別攻撃の被害者を救出する組織として、欧米諸国で注目を浴びてきた。2016年4月には、米開発NGO連合体のインターアクションの人道賞を、9月にはスウェーデンのライト・ライブリフッド賞を受賞し、10月にはノーベル平和賞候補にノミネートされた。また、ホワイト・ヘルメットの活動を題材とし、2016年9月半ばに公開されたNetflixの「ホワイト・ヘルメット:シリアの民間防衛隊」は2017年2月、第89回アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞を受賞、もう一つのドキュメンタリー映画「アレッポ 最後の男たち」も、2017年9月から11月にかけて開催された国連UNHCR難民映画祭2017の映画作品の一つに選ばれた。さらに10月には、英国の月刊婦人雑誌『グッド・ハウスキーピング』の「今年の女性」に選ばれた。

4 ホワイト・ヘルメット(出所:https://www.whitehelmets.org/en)
4 ホワイト・ヘルメット(出所:https://www.whitehelmets.org/en)

ホワイト・ヘルメットは何を主唱したか?

その一方、ホワイト・ヘルメットをめぐっては、「美容整形したシャーム解放委員会」だとする批判(ないしはプロパガンダ)も散見される。こうした指摘の真偽は、拙稿「「ホワイト・ヘルメット」をめぐる賛否。彼らは何者なのか?」(Newsweek日本版、2016年10月21日)で筆者自身の意見を述べたので、ここでは掘り下げない。

だが、バラダー渓谷での戦いでのホワイト・ヘルメットの言動は異彩を放っており、彼らが人命救助を主たる任務としていることを踏まえると、首を傾げざるを得なかった。

ホワイト・ヘルメットは、2016年12月30日の声明で、国際社会がアイン・フィージャ町へのシリア軍の攻撃を停止させれば、「復旧作業チームを受け入れるために行動する」と発表し、水道施設を政治的・軍事的な「盾」として利用する構えを示した。

5 ホワイト・ヘルメットなど「市民」団体による2016年12月30日の声明(出所:http://syriaarabspring.info/?p=34199)
5 ホワイト・ヘルメットなど「市民」団体による2016年12月30日の声明(出所:http://syriaarabspring.info/?p=34199)

また、2017年1月15日の声明では、アスタナ会議への参加を準備する反体制派に停戦を破棄するよう呼びかけた。ちなみに、ホワイト・ヘルメットとともに声明に署名した「市民」団体は、バラダー渓谷および周辺地域救済委員会、バラダー渓谷医療委員会、バラダー渓谷メディア委員会、バラダー渓谷地元評議会、バラダー慈善機構、バラダー救援機構だった。

6 ホワイト・ヘルメットなど「市民」団体による2017年1月15日の声明(出所:http://syriaarabspring.info/?p=34577)
6 ホワイト・ヘルメットなど「市民」団体による2017年1月15日の声明(出所:http://syriaarabspring.info/?p=34577)

国際紛争としてのシリア内戦の終わりの前兆

バラダー渓谷の戦いは、ドイツ大使館の仲介により、1月19日にシリア政府と地元の反体制派が停戦合意をかわし、同月28日に発効することで決着した。合意の骨子は以下の通りだ:

  • シリア政府が水道施設修復のための作業チームをアイン・フィージャ町に派遣する。
  • バラダー渓谷残留を希望する戦闘員は武器を棄てて当局に投降する。
  • 投降を拒否する戦闘員とその家族は6ヶ月以内にイドリブ県方面に退去する。
7 バラダー渓谷を退去し、イドリブ県に到着した戦闘員とその家族(Kull-na Shuraka’, February 30, 2017)
7 バラダー渓谷を退去し、イドリブ県に到着した戦闘員とその家族(Kull-na Shuraka’, February 30, 2017)

欧米諸国や日本のメディアでほとんど注目を浴びなかったこの戦いは、反体制派が生活インフラを盾としてあからさまに利用した点、「市民」団体が戦闘継続を主唱した点で、シリア内戦をめぐる勧善懲悪では説明不能だった。だが、それはシリア内戦を規定してきたさまざまなパラダイムが、意味をなさなくなっていたことの証で、それが国際紛争としてのシリア内戦を終わりへと向かわせることになった。

続く