アスタナ会議5場外での米露の歩み寄り/シリア情勢2017:「終わらない人道危機」のその後(3)

(写真:ロイター/アフロ)

「緊張緩和地帯の成立/シリア情勢2017:「終わらない人道危機」のその後(2)」の続き)

アスタナ4会議での「緊張緩和地帯にかかる覚書」の合意は、ロシアとトルコ(そしてイラン)の結託の賜であり、米国は蚊帳の外に置かれていた。だが、このことは、シリア国内の停戦において米国が役割を果たさなかったことを意味しなかった。イスラーム国に対する「テロとの戦い」に注力し、シリア政府と反体制派の闘いへの関与を弱めていたドナルド・トランプ米政権ではあったが、緊張緩和地帯の設置・拡大をめざすロシアに歩み寄ることで、影響力を維持しようとしたのである。

アスタナ5会議の傍らで

アスタナ5会議は2017年7月4日と5日の2日間にわたって開催された。会合には、「緊張緩和地帯設置にかかる覚書」に異議を唱えたイスラーム軍のムハンマド・アッルーシュや南部戦線の代表が参加を拒否した。これに代わって、シリア軍事革命諸勢力代表団の団長は、アッルーシュに代わって、シャーム軍団のヤースィル・アブドゥッラヒームが務めた(ちなみに、10月末のアスタナ7会議以降、シリア軍事革命諸勢力代表団の団長は、シリア国民連合(シリア革命反体制勢力国民連立)傘下の暫定内閣のアフマド・トゥウマ首班が務めるようになった)。

このラウンドは、目に見える成果をもたらさなかった。だが、その直後に、ダルアー県とクナイトラ県からなる緊張緩和地帯第4ゾーンとそれに隣接するスワイダー県とダマスカス郊外県南東部での停戦が実現した。

これを主導したのは、ロシアと米国、そしてイスラエル、さらにアスタナ5会議に初めて代表を派遣したヨルダンだった。

緊張緩和地帯第4ゾーンでは、南部戦線、イスラーム軍、そしてシリアのアル=カーイダと目されるシャーム解放委員会、アル=カーイダの系譜を汲むシャーム自由人イスラーム運動がシリア軍への抵抗を続けていた。これらの組織は2月、シャーム解放委員会のイニシアチブのもと、「堅固な建造物(ブンヤーン・マルスース)」作戦司令室を結成し、ダルアー市マンシヤ地区への攻勢を強めた。

「堅固な建造物」作戦司令室に参加した組織は以下の通りである(*は南部戦線所属組織)。

  • シャーム自由人イスラーム運動、イスラーム軍、シャーム解放委員会、アンサール・フダー集団、3月18日師団*、砲兵連隊、工科連隊、ヒムス・ワリード旅団*、ヤルムーク軍、スンナの獅子師団、スンナ青年軍団、シャームの獅子旅団*、無所属集団、工科ミサイル連隊、南部統一旅団、ムラービトゥーン大隊、シリアの曉旅団、サラーフッディーン師団*、南部の鷹旅団、アンサール・スンナ大隊、ハウラーン砲兵、サービリーン旅団、使徒末裔旅団
1 「堅固な建造物」作戦司令室の声明(出所:https://www.enabbaladi.net/archives/131869)
1 「堅固な建造物」作戦司令室の声明(出所:https://www.enabbaladi.net/archives/131869)

一方、緊張緩和地帯第4ゾーンに隣接するスワイダー県とダマスカス郊外県南東部は、2016年3月以降ヒムス県タンフ国境通行所一帯を違法に占拠する米国など有志連合の支援を受ける武装集団が「ハマード浄化のために我らは馬具を備えし」作戦司令室、「土地は我らのものだ」作戦司令室、「自由シリア軍砂漠諸派」の名の下に糾合し、活動していた。

これらの地域を攻略するにあたって、シリア政府は、「同盟部隊」(al-Quwat al-Halifa、あるいは「同盟者部隊」(Quwat al-Hulafa’)、すなわちイラン・イスラーム革命防衛隊の支援を受ける外国人民兵(アフガン人からなるファーティミーユーン旅団、イラクの人民動員隊)やレバノンのヒズブッラーに大いに依存した(同盟部隊については拙稿「シリアの親政権民兵」『中東研究』第530号、2017年、pp. 22-44を参照)。だが、このことは、米国やイスラエル、さらにはヨルダンには、イランの勢力伸長に見えた。

事態に対処するため、有志連合は、2017年5月頃から度々、ダマスカス郊外県南東部、さらにはヒムス県南東部に進軍を図るシリア軍と同盟部隊に対する威嚇行動や爆撃を敢行してきた(なお、スワイダー県とダマスカス郊外県南東部での攻防については稿を改めて詳述したい)。

事態収拾に動くロシア

シリア南部で緊張が続くなか、事態収拾に動いたのはロシアだった。

7月7日、ロシアのヴラジミール・プーチン大統領とドナルド・トランプ米大統領が、G20(主要20カ国・地域首脳会議)が開催されていたドイツのハンブルグで初会談を行った。セルゲイ・ラヴロフ外務大臣、レックス・ティラーソン国務長官も同席したこの会談は、予定時間を超えて2時間強におよび、その間、いわゆる「ロシア・ゲート」疑惑、セイバー・セキュリティー問題などと合わせて、シリア情勢についても意見が交わされた。

『ハヤート』(7月8日付)などによると、両首脳はこの会談で、(1)緊張緩和地域第4ゾーンの停戦に向けてロシアと米国が協業すること、(2)ゴラン高原(クナイトラ県)の兵力引き離し地帯のシリア領側に幅40キロの「安全ベルト」を設置し、同地からイラン・イスラーム革命防衛隊の支援を受ける外国人民兵やヒズブッラーを退去させ、その進駐を認めないこと、(3)シリア政府を退陣させないこと、を合意した。

この合意は、シリア政府(6月17日にシリア軍がシリア南部での戦闘停止を宣言)だけでなく、イスラエル、ヨルダンにも受け入れられ、7月9日正午に緊張緩和地帯第4ゾーンを含むシリア南部で停戦が発効した。南部戦線は同日に声明を出し、憤りを露わにしたが、「堅固な建造物」作戦司令室は19日、停戦に応じる意思を示した。

ロシアは7月下旬、ダルアー県のダルアー市マンシヤ地区、サハーリー地区、カニーヤ村、ダイル・バフト村、サナマイン市、スワイダー県のムジャイミル村、バルド村、サアラ航空基地などに検問所2カ所、監視所10カ所を設置し、憲兵隊約400人を駐留させた。また、ロシア国防省は8月23日に声明を出し、シリア南部での停戦を監視するための米・ロシア合同センターをヨルダンの首都アンマンに設置したと発表した。

一方、同盟部隊は、ダルアー市一帯や兵力引き離し地帯沿いの地域から撤退した。だが、彼らが撤退したのは、ブルー・ラインから約20キロ以内の地域だけだった。このことが、イスラエルによるシリアへの越境攻撃を頻発化させるとともに、ダマスカス郊外県南西部でのシリア軍と反体制派の戦闘を激化させることにつながった(この点についても、稿を改めて詳説したい)。

2 2017年7月末の兵力引き離し地帯一帯の勢力図(出所:http://syria.liveuamap.com/en/time/31.07.2017)
2 2017年7月末の兵力引き離し地帯一帯の勢力図(出所:http://syria.liveuamap.com/en/time/31.07.2017)

第2、3ゾーンで停戦発効

ロシアと米国は8月2日にも、ヒムス県北部の緊張緩和地帯第2ゾーンでの戦闘を停止させるために新たな停戦合意を交わした。これを仲介したのは、シリア・ガド潮流のアフマド・ウワイヤーン・ジャルバー代表だった。

3 アフマド・ウワイヤーン・ジャルバー(出所:http://www.alghadalsoury.com/2017/08/05/)
3 アフマド・ウワイヤーン・ジャルバー(出所:http://www.alghadalsoury.com/2017/08/05/)

ジャルバーは、シリア国民連合の元代表で、エジプトを拠点に活動を継続、ロシア、トルコ、湾岸アラブ諸国とのチャンネルを有していた。彼はまた、米国の支援を受けて、ダイル・ザウル県出身の部族の子息からなるシリア・エリート軍という民兵組織を結成し、シリア民主軍(西クルディスタン移行期民政局人民防衛隊主体の武装連合体)とともに、同県やラッカ県でイスラーム国に対する戦いを主導した。

ヒムス県北部で活動を続ける武装集団は、祖国解放運動、ラスタン革命指導評議会、ガントゥー作戦司令室、トルコマン末裔連合、革命古参国民連合といった武装集団が停戦受諾を拒否した。だが、緊張緩和地帯第4ゾーンと同様、同地での戦闘は収束していった。ロシア軍は8月4日、第2ゾーンのダール・カビーラ村近郊に憲兵隊を進駐させた。また9月半ばには、シリア政府支配下のタイバト・イマーム市などハマー県北部地域にも進駐した。

一方、ダマスカス郊外県東グータ地方の緊張緩和地帯第3ゾーンは、第4ゾーンと合わせて、7月22日にロシアと米国が停戦に合意し、24日にロシアが同地に検問所2カ所、監視ポスト4カ所を設置、憲兵隊を駐留させた。だが、ラフマーン軍団、イスラーム軍は、シャーム自由人イスラーム運動やシャーム解放委員会とともに、停戦を拒否し、戦闘を続けた。

米国は何を得たか?

米国はこれら一連の停戦合意によって得るものがなかったようにも見える。なぜなら、これ以降、米国は、スワイダー県東部やダマスカス郊外県南東部で活動を続けてきた武装集団を切り捨てるかのように、徐々に支援を減少させていったからだ。だが、この間、米国が主導する有志連合が、シリア、イラク、ヨルダン国境の結節点に近い戦略的要衝のタンフ国境通行所(ヒムス県南東部)一帯に対する不法占拠を続け、その状態は現在もなお続いている。

4 シリア地図(出所:筆者作成)
4 シリア地図(出所:筆者作成)

これに関して、『ハヤート』(9月12日付)は複数の観測筋の話として、米国がロシアとの間で「支配地域の交換」が合意された結果だと伝えた。交換された支配地域がどこかは明らかにされていない。だが、7月7日の米国・ロシア首脳会談の結果、ロシアが緊張緩和地帯第4ゾーンを含むシリア南部における影響力を確かなものとし、米国がシリア・イラク国境地帯を確保したことは誰の目からも明らかだ。

続く