なぜ、初めての育児に奮闘する妻は、帰宅した夫にイライラするのか

(写真:アフロ)

Googleの検索窓に「旦那」と入れると、「嫌い」「イライラする」などとサジェストされる。ワンオブゼムの筆者としては戦慄するわけだが、検索結果に表示される内容はまちまちで、必ずしも夫をこきおろしているわけではない。

本稿では、そういった検索ニーズを分析し世の妻たちに擦り寄るわけでも、反論したいわけでもなく、嫌い・イライラの理由は十人十色だろうが、「(初めての)育児に奮闘する妻が、夫が帰ってくるとなぜイライラするのか」について考察し、問題提起をしたいと思っている。

なぜなら、当の本人が「なぜイライラするのかわからない」ケースが多いから、そして、そういった見逃してはいけないサインを知ることが非常に重要だからだ。

■ どのようなイライラなのか、なぜ理由がわからないのか

まず、筆者がどういう観点から考察するのかを説明すると、大規模Q&Aコミュニティを運営し、大量なデータを分析する中で得られた知見をもって、である。

育児関連カテゴリにおける女性の相談をテキストマイニングし、傾向を分析していたときのことだが、興味深い共通点があることに気づいた。30歳前後の、おそらく初めての育児をしているお母さんたちの相談で、「夫が帰ってくるとなぜかイライラしてしまう」という内容の相談が非常に多かったのだ。

そしてそれらは、どちらかというと夫を責めたり、不平不満をぶちまける種類のものではなく、なぜイライラするかわからないから、感情をコントロールできないから悩ましいというものだった。回答もまた特徴的で、こうしなさいという指示よりは、「私もそうだった」という先輩からの同調や慰めが多くを占めていた。

何が起きているかわからない当人にとって、多くのお母さんたちが同じ状況を体験しており、共感を得られたという意味では、Q&Aコミュニティに相談したのは正解だと言える。まず、自分だけではない、決しておかしいことではないとわかるだけでも、悩んでいる人にとっては心強い。 

そして、最も知りたいのは、夫が帰ってきたことが引き金になるのに、なぜイライラの理由がわからないのか、である。皆がわかりやすく同じ回答をしているわけではないが、自身の体験も加味して筆者なりに出した主な理由はこうだ。

育児を通してしか経験できない特殊な状況にどっぷり浸かっている中、全く違う状況の人間が現れるからである。

■ イライラの正体は何なのか

まず、赤ん坊はほとんど自分では何もできない。だから、四六時中面倒を見なければならない。

そりゃそうだと言われるかもしれないが、遊びにいけない、仕事ができないどころか、食事もお風呂も睡眠もトイレさえも自分の好きな時にできないということが、どれほどストレスになるか想像できるだろうか。

もちろん、妊娠してから出産するまで何カ月も準備期間はある。だが、子どもが生まれた瞬間から想像を絶する日々が始まるわけで、夫が育児休暇を取っていたり、親がサポートできる環境でない限りは、母子は長い時間二人きりであり、その間お母さんはほとんど自由がないと言える。

朝から晩まで仕事をして帰ってきたら、妻にイライラされる。夫からすれば「がんばっているのに冗談じゃない」「なぜ家に帰ったらこんなに居心地が悪いのか」という話かもしれない。偉そうに書いているが、筆者自身もそう感じていたように思う。情けない話だが、家に帰るとピリピリした空気が漂っていたから、なるべく顔を合わせないよう遅い時間に帰っていた時期があった。

さておき、この話は育児と仕事のどちらが大変か、愛があるのかないのかといった議論とは別物と理解する必要があるのだ。自分の意思で家を出て、仕事を通して何らかの形で社会と接点を持ち、帰ってくる。産休に入る前は当たり前だった日常が、今はかけ離れたところにある。

「うらやましい」という言葉で片付けられる状況ではないが、当たり前の日々を過ごしている存在がどこかうらやましく、妬ましく映るのだ。社畜だなんだといったところで、育児ほど自らの自由は奪われない。だから、夫のことが嫌い、憎いというわけでなくても、帰ってくると複雑な感情を抱いてしまう。

イライラの正体は、夫そのものへの感情ではなく(もちろん夫自身にも問題はあるだろうが)、自分の意思で行動できる存在への、ある種の妬ましさなのである。

■ 産後うつやマタニティブルーとは違うのか

イライラの正体が分かったところで、次に気をつけたいのが、産後うつやマタニティブルーの可能性も念頭に置くということだ。特に、産後うつに関しては非常に深刻な事態を引き起こしかねない。

産後うつは、急激なホルモンバランスの変化や育児におけるストレスで引き起こされると言われるが、原因も症状もさまざまで、イライラや悲しみ、不安、倦怠感などがあっても、それが病気によるものなのか否か、判別が難しい。

国立成育医療研究センターによると、初産における産後うつは出産から2週間後をピークに1カ月後くらいまで高リスクであるというが、里帰り出産をした場合、出産の前後1カ月ほど実家でサポートを受けていたため平気だったものの、夫のもとに戻ったら…ということもある。

先述した「夫が帰ってきたときのイライラ」だったものが、違った種類のイライラへと姿を変え、産後うつへと発展してしまうかもしれない。

つまり、この感情はよくあるもので問題ない、この状態は深刻だと自己判断することは危険であるし、夫をはじめ周囲の人間が正確に把握することは難しいわけで、まずはとにかく何かがおかしいと自覚すること、気付くことが重要なのである。

そして、親としての資質云々ではなく、産後うつは抗いがたい「病気」であることを知る必要がある。自分の子どもはかわいい、愛すべき存在なのだと自分に言い聞かせても、どうしてもそう思えない。大いに絶望し、自分は母親失格だと思い込んでしまう。事実、このような不幸な状態に陥る母親は少なくない。

だからこそ、他人事ではなく誰にでも起こりえることだと認識し、事前にアンテナを張っておく必要がある。仮に本人が大丈夫、がんばるからと言っていたとしても、大丈夫じゃないよ、がんばらなくていい、と言えることが大切なのだ。

ただ、それでもやはり、最良の答えを導き出すことは簡単ではない。産後に精神的なケアまでをしてくれる産院は稀だろうし、心療内科を受診するという選択肢にもなかなか辿り着けないかもしれない。

また、未病、予防、正しい知識の収集、早期発見が重要ですと言ってみたところで、それができたら苦労しないし、準備をしていても産後うつになってしまうことはある。専門的な知識を有する女医さんから「本気で子どもと心中することを考えた」という体験談を聞いてから、それは確信に変わった。

では、育児という初めての体験を通してどうして良いかわからなくなったとき、私たちには何ができるのだろうか。

■ 不都合な現実から目をそらさないことが大切

夫にイライラするのはなぜかという出だしから産後うつまで話が飛躍してしまったが、論点としては同じだ。つまり、今起きていることがたとえ不都合な現実であっても、目をそらさないことが大切なのである。

良き母であろう、良き妻であろうと思っているのに、うまくいかない、夫に当たってしまう。妻は変わってしまった、どうやってサポートすればいいのかわからない。仮にそうなってしまったとしても、それ自体は仕方のないことだし、「こんなはずじゃなかった」と思考停止していても物事は好転しない。

先述の通り、筆者の場合はたまたま事なきを得ただけで、夫婦で何かを乗り越えた、解決したとは言い難い。その意味では、反省の意を込めてこの記事を書いているし、反面教師にしてほしいと思っている。

では、どうすればいいのか。親に頼る? それも一つの解決法かもしれない。かかりつけの産婦人科、心療内科、精神科などを受診する、これも正しい選択だ。

もしくは、まずは自治体の保健センターや精神保健福祉センターに行って相談するのも良いし、「子育て・女性健康支援センター」などの助産師による電話相談を利用しても良いだろう。

電話に抵抗がある、子どもがいると集中して話せないというならば、スマホで手軽に使えるオンライン健康相談サービスを利用したり、コミュニティサイトで同じ悩みを持つ人/乗り越えた人とつながるのも良いかもしれない。

必要な情報源は一つではないし、とにかく自分の中で「正解」を決めつけず選択肢を複数持っておくことが重要だ。

まず、今感じていること、起きていることを自覚する。そして、自分が悪いのだからと抑えこまず、また、そんなはずはないと拒絶もしない。こんなことがあるのかと知る、でも「これは○○だ」と決めつけない。頼れる人、ものを探して、使う。

妊娠、出産、育児を控えている方には、ぜひこのアプローチを試してほしいと思う。そして最後に、繰り返しにはなるが、現実から目をそらすことなく、できるだけ夫婦で話し合い、共に問題に向き合うことが何より大切であると付け加えておきたい。

◎参考

妊娠・出産に伴ううつ病の症状と治療 - e-ヘルスネット - 厚生労働省

全国の精神保健福祉センター一覧

「子育て・女性健康支援センター」一覧