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W杯日本代表の高齢化?不安に感じるジェネレーションバランスを欠いたメンバー選考

安藤隆人サッカージャーナリスト、作家
ロシアW杯メンバー23人を発表する西野朗・日本代表監督(写真:ロイター/アフロ)

日本サッカー高齢化の危機―。

5月31日にロシアW杯に挑む23人のメンバーが発表され、そのラインナップを見た時、そう思いたくなるものだった。

前置きをすると、もちろん今回選ばれた23人のメンバー全員を心からリスペクトしているし、彼らの血のにじむような努力があったからこそ、この23枠の狭き門をくぐり抜けることが出来た。

しかし、サッカーは今回のロシアW杯ですべてが決まったり、これで終わるわけではない。サッカーはW杯が終わった後も続いていくのだ。今大会が終われば、次の大会に向けての競争が始まる。それはどのスポーツでも、どの年代でも世の常だ。

つまり、目先のことだけを考えていれば良いのではなく、そこには『継続性』や『発展性』が求められていく。W杯も4年に1度開催され、ロシアが終われば次は4年後の2022年カタールW杯が来る。その前にその出場権を得るための長きアジア予選が待っている。世界最大の祭典が終われば、間髪入れずに次なる戦いが容赦なくスタートする。

今回のメンバーを見て、西野朗監督が繰り返し強調したように、ポジションバランスは非常にとれているように思う。複数のポジションをこなせる、「ポリバレント」(西野監督)な選手を選び、それぞれのポジションにバックアップメンバーを選んで、4バックでも3バックでも対応出来るようにした。

しかし、それはロシアW杯に向けて『2次元的な視野』であり、その先を見た『3次的な視野』は大きく欠けているように見えた。ここでいう3次的な視野とは、次のW杯、さらに次の次のW杯を見越したメンバー選考のことである。

ここで今回の西野ジャパンのメンバーの年代的なカテゴライズを見て欲しい。

◎6月19日のW杯初戦のコロンビア戦時点での年齢

1:10代→0人

2:20〜23歳→中村航輔(23歳)、植田直通(23歳)

3:24〜26歳(次のW杯に30歳以下)→、武藤嘉紀(25歳)、昌子源(25歳)、大島僚太(25歳)、遠藤航(25歳)、宇佐美貴史(26歳)、柴崎岳(26歳)

4:27〜29歳(次のW杯に30歳より上)→山口螢(27歳)、酒井高徳(27歳)、原口元気(27歳)、酒井宏樹(28歳)、大迫勇也(28歳)、香川真司(29歳)、吉田麻也(29歳)

5:30〜35(次のW杯がやや厳しい年代)→乾貴士(30歳)、長友佑都(31歳)、槙野智章(31歳)、東口順昭(32歳)、岡崎慎司(32歳)、本田圭佑(32歳)、長谷部誠(34歳)、川島永嗣(35歳)

ここでまず注目をして欲しいのが、最年少が中村で23歳。フィールドプレーヤーでは植田の23歳と、次のW杯で24〜26歳という脂が乗って来た時期を迎える選手が1人もいないということ。さらに言えば2020年の東京五輪世代もおらず、中村と植田が27歳になる次のカタール大会には、26歳以下でW杯を経験している選手がゼロになる。

さらに上に注目して欲しい。この5つのカテゴライズの中で、次のW杯では34〜39歳と年齢的に出場が難しい年代が、最多の8人の選手という配分になった。

日本のエースと言える本田、そしてずっと日本を引っ張って来たストライカーである岡崎、日本の10番である香川が「キャリアで最後のW杯になるかもしれない」と位置づけたように、次のW杯に出場する可能性は高くはない。

もちろんベテランの経験はチームにとって必要不可欠であり、チームの安定を考えると彼らはいて欲しい存在であることは間違いない。ここで言いたいのは、彼らがどうこうではなく、あくまで『年齢的なバランスが悪すぎる』という点に尽きる。

1:0人→2:2人→3:6人→4:7人→5:8人。一番上の人数が多く、年代が下がれば下がるほど、人数が少なくなっていく。これはまさに日本の高齢化のグラフと同じで、サッカー日本代表においても高齢化が進んでいると言って良い。

現時点で中堅どころで、次のW杯で30歳以下の選手(3のカテゴリー)は6人だが、この6人の内訳は25歳が4人、26歳が2人と、この年代の一番若い24歳が1人もいない。さらにこの6人でレギュラーがほぼ確定しているような選手はいない。

つまり植田と中村以外は、次のW杯で29歳と30歳となっている。そして、選出回数にも注目しよう。5のカテゴリーで初選出は乾、槙野、東口のみで、ほかの5人全員が今回で3回目の選出となった。つまりこの5人は、前々回の2010年南アフリカW杯のときは川島以外2、3のカテゴリーに入っていた。

4の年代を見ても、原口以外の山口、酒井高、酒井宏、大迫、香川、吉田の6人が前回の2014年ブラジルW杯を経験しており、彼らも当時は2と3のカテゴリーに入っていた。

つまりW杯経験者が軸となって、そこから若き新戦力や遅れて来た戦力が融合することで、目の前のW杯と将来のW杯の2軸を捉えた継続強化がなされる。

今回のメンバー構成はジェネレーションバランスという観点からすると疑問が残った。次のカタールW杯でW杯経験者が2、3のカテゴリーではゼロになり、4のカテゴリーでは僅か6人となる。もちろん若い新戦力が沢山台頭し、一気に世代交代が成功すれば良いが、それはあくまで賭けになる。段階的なヴィジョンがそこにないと、ただの運任せになってしまう危険性がある。

もちろん何度も言うが、選ばれた選手すべてをリスペクトしているし、西野監督がロシアW杯を勝ち抜くために『絶対に必要』として選んだメンバーであることは尊重されるべきだ。

しかし、目先の結果だけ追い求めていいのだろうか。日本サッカーというものの継続強化という観点が欠けているような気がしてならない。

これが単なる取り越し苦労で終われば良いが、今回のラインナップを見て抱いた不安は簡単に消えるものではない。

最後に参考までに前々回、前回の日本代表の年齢編成は以下の通り。

南アフリカ大会

1:なし

2:森本貴幸(22歳)、内田(22歳)、長友(23歳)、本田(23歳)、岡崎(24歳)

3:矢野貴章(26歳)、長谷部(26歳)

4:今野泰幸(27歳)、川島(27歳)、阿部勇樹(28歳)、駒野友一(28歳)、岩政大樹(28歳)、大久保嘉人(28歳)、田中マルクス闘莉王(29歳)、松井大輔(29歳)、中村憲剛(29歳)

5:遠藤保仁(30歳)、稲本潤一(30歳)、玉田圭司(30歳)、中村俊輔(31歳)、中澤佑二(32歳)、川口能活(34歳)、楢崎正剛(34歳)

ブラジル大会

1:なし

2:酒井高(23歳)、山口(23歳)

3:清武弘嗣(24歳)、柿谷曜一朗(24歳)、大迫(24歳)、齋藤学(24歳)、香川(25歳)、吉田(25歳)、権田修一(25歳)、内田篤人(26歳)

4:本田(27歳)、長友(27歳)、森重真人(27歳)、西川周作(27歳)、岡崎(28歳)、青山敏弘(28歳)、伊野波雅彦(28歳)

5:長谷部(30歳)、川島(31歳)、今野泰幸(31歳)、大久保嘉人(32歳)、遠藤保仁(34歳)

サッカージャーナリスト、作家

1978年2月9日生。岐阜県出身。大学卒業後5年半務めた銀行を辞め、単身上京しフリーサッカージャーナリストに。ユース年代を中心に日本全国、世界40カ国を取材。2013年5月〜1年間週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』連載。Number Webで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。全国で月1回ペースで講演会を行う。著作は10作。19年に白血病から復活したJリーガー早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』を出版。2021年3月にはサッカー日本代表のストライカー鈴木武蔵の差別とアイデンディティの葛藤を描いた『ムサシと武蔵』を出版。

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