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外出できないGWは、自宅前でファーストクラス車中泊を。防災訓練を兼ねて雨の日体験がおススメの理由。

あんどうりすアウトドア防災ガイド  リスク対策.com名誉顧問 
出典 イラストAC 雨の車中泊イメージ

車中泊が人気です

 コロナ禍で車中泊が人気ですね。アウトドア好きの我が家では、夫がモータージャーナリストでもあるので、2002年に山と渓谷社のSkierに、「冬の車中泊とテント泊は、どちらが寒くなるか」という内容の記事を書いていて、車中泊体験&普及歴だけは長いです。 

 そして、思うのは、車中泊人気は、この20年間の中でもダントツです。人気に驚きつつも仲間が増えて嬉しく思っています。

 ただし、防災の情報発信をしている私としては、車中泊は大きな声でおススメできなかった経緯があります。熊本地震の災害関連死の死者数に車中泊経験者が多かったのが理由です。それがなぜなのかも含めて、それでも、今、楽しく車中泊を練習しておく意義と、自宅前や雨の日がおススメの理由をお伝えします。

熊本地震で多かった車中泊の選択

出典 内閣府の「熊本地震被災者アンケートの分析結果に基づく熊本地震における住民の避難理由と避難期間 」
出典 内閣府の「熊本地震被災者アンケートの分析結果に基づく熊本地震における住民の避難理由と避難期間 」

 内閣府の「熊本地震被災者アンケートの分析結果に基づく熊本地震における住民の避難理由と避難期間 」には、

 自宅被害やインフラ被害がなかった避難者(869人)のうち、約6割(528人)が「自動車の中」に最も長く避難した。

とあり、自宅やインフラに被害がなくても車中泊された方が約6割いたことがわかっています。中には1ヶ月以上という方もいました。

出典 イラストAC
出典 イラストAC

 熊本地震では震度7の地震が立て続けに起こっただけでなく、余震も頻発していました。そして、避難所の天井が落下して使えなかったり、トイレが使えない状態になるなど落ち着いて過ごせる場所とはいえなかった避難所や避難場所がありました。

 毎日新聞が車中泊をしている50人にアンケートをした結果が、2016年4月26日の記事で書かれていて、車中泊をした理由として、屋内が怖い避難所のストレス子どもやペットなど、避難所の利用を遠慮していることがあげられています。

 毎日新聞が熊本地震の被災地で車中泊をする避難者50人にアンケートしたところ、車中泊を続ける理由(複数回答)について、最多の19人が「屋内が怖いから」と余震への恐怖を挙げた。プライバシーのない避難所のストレスを挙げる人も15人おり、子どもやペットがいるために避難所の利用を遠慮している人も14人いた。(引用 毎日新聞2016年4月26日)

 当時の、乳幼児をかかえる親たちの声については、熊本地震から5年 もう「ミルクvs母乳」で対立させたり呪いをかけないで!誤情報も多いので情報更新を という記事で、熊本地震では長周期地震動階級が4であったためマンションでの被害も多かったことについては、熊本地震の時、マンションで転倒等があった防災グッズは?賃借人でも家具固定OKにするための国の動きありで記載していますので、詳しくはそちらを参考にしてください。

 車中泊を選ばざるを得なかった状況にあったのが、熊本地震でした。

車中泊に関連する災害関連死が3割

資料作成 あんどうりす 熊本市HP 地域力市民力を生かした車中泊対策より資料作成
資料作成 あんどうりす 熊本市HP 地域力市民力を生かした車中泊対策より資料作成

 このように、熊本地震では、やむなく車中泊を選択された方が多くいた一方で、災害関連死とされた中で車中泊をされていた方が3割近くいたことも問題視されていました(2017年の段階)。

 中でも一番問題視されたのが、エコノミークラス症候群です。

2016年4月19日の段階の産経新聞記事でも、「車中泊が最も危険。3連泊以上続くと血栓できやすい」 エコノミー症候群で3人が意識不明」と報道されており、4月14日と16日の地震の3日後の19日にすでに重症者が出ていることがわかります。

出典 厚生労働省 エコノミークラス症候群予防のためにリーフレット 
出典 厚生労働省 エコノミークラス症候群予防のためにリーフレット 

 そのため、厚生労働省が災害時の車中泊者のためにリーフレットを配布したり、2016年の内閣府の避難所運営ガイドラインから、車中泊対策として弾性ストッキングの配布を勧めてきました。

コロナ禍で被災した時の国や自治体の車中泊対応

 災害時の車中泊にはリスクがあるので、今まで国や自治体は積極的に推奨はしていませんでした。「平成30年(2018年)5月25日九都県市首脳会議 大規模地震における車中泊による避難者への対応について」の中には、「車中泊避難は健康被害など極めて深刻な問題があり九都県市として推奨すべきでない」という言葉もあったほどです。

 しかし、コロナ禍になり、避難所・避難場所での感染も心配される中、車中泊のニーズも高まっていることから、内閣府の2020年「新型コロナウイルス感染症対策に配慮した避難所開設・運営訓練ガイドライン(第2版) について 」では、「やむをえず車両避難者(車中泊者)が増大するおそれから車中泊者対応業務が増加する」と記載され、現実問題として多く存在するであろう車中泊への対応の検討を始める段階になりました。 

 ただ、自治体がどう対応しているかはお住まいの地域によって異なります。毎日新聞の2021年4月14日「熊本地震5年 車中泊の場所、確保5市 避難対策に遅れ 全国47自治体」では、車中泊避難場所について「11市は、エコノミークラス症候群のリスクなどから『車中泊を推奨していない』を理由に挙げた。」ことが記載されています。まだまだ推奨されていない地域もあることには注意が必要です。

目指すはエコノミークラスではなくファーストクラス車中泊

 さて、災害時の車中泊は、エコノミークラス症候群や災害関連死が心配されているわけですが、災害時は、準備もままならぬ中、急ぎ積みこまれた荷物の隙間で寝ていたり、座ったまま寝ていたり、かろうじて車内で寝たという状況まで含めて、車で寝ていたらすべて「車中泊」と呼ばれています。

 しかし、アウトドア雑誌で何年も前から研究されてきた車中泊や最近のおしゃれな車中泊が目指しているものは、エコノミークラスではありません。むしろいかに快適に車中泊ができるのか、車中泊のファーストクラスを目指している訳です。 

資料作成 あんどうりす
資料作成 あんどうりす

 この点、居住のしやすさを追求したキャンピングカーや、ムービングハウスであれば、工夫しなくてもすぐにファーストクラスの車中泊ができます。

資料作成 あんどうりす 写真 北良株式会社
資料作成 あんどうりす 写真 北良株式会社

 一般車をファーストクラス車中泊にするために、そして、災害時のリスクを軽減するためには工夫が必要です。これについて、具体的な方法は、「避難にも使える車中泊のコツは「ばすだしで」〜マイ避難先のひとつとして車中泊を快適に」で詳しく書きましたので、そちらを参考にしてください。

資料作成 写真 あんどうりす
資料作成 写真 あんどうりす

 この「ばすだしで」のうち、災害時のエコノミークラス症候群対策に関わるものは、「す」の水平です。車内をフラットにして、いかにベッドと同じにできるかということです。そして、現在、様々なグッズや工夫がありますが、グッズ情報を調べるよりも前に知っておきたい重要な事があります。それは、車種と自分の体格による組み合わせの相性があるため、快適感は人によって異なるということです

フラットになり水平で寝る事ができるクルマ
フラットになり水平で寝る事ができるクルマ写真:アフロ

 そのため、結局は自分で実践してみないと快適にできるかどうかは分からないのです。 

 丸めた毛布や空気緩衝材で水平に近づけて快適になる人もいれば、板でベッド仕様になるものを自作して初めて快適になる方もいます。 

 いいグッズも多数でているのですが、使ってみたら、自分には合わなかったという不具合がでてきやすいのが車中泊です。不快を何度か繰り返し、修正しながらファーストクラス完成形を目指して行く事もあります。

 だから、始めて実践するのが災害時では、リスクが大きすぎます。災害時に車中泊の可能性があるのであれば、今のうちにまずは、一度やってみることがおススメなのです。

(2021年5月3日追記 「で」の「電気」について質問があったので以下、追記します。)

資料&写真 あんどうりす 左はバッテリーからの自作ポータブル電源 右は車内の写真 銀マットは寒い時期だったので断熱している
資料&写真 あんどうりす 左はバッテリーからの自作ポータブル電源 右は車内の写真 銀マットは寒い時期だったので断熱している

 「ばすだしで」の「で」、電気については、車中泊でポータブル電源を利用される方が増えました。ポータブル電源を使えば、車内がワークスペースにもなります。我が家は、バッテリーから自作したものと購入したポータブル電源があり、毎日使いながら実験しています。災害時の電源確保については大雪対策 防災の新常識、電源の確保はしていますか?発電機・クルマ給電・ポータブル電源、選ぶならどれ?で記載しました。ポータブル電源は、長期間放置すると使えなくなる事が多いので、メーカーの記載にそって一定の頻度で使用する必要があるので、車中泊はよい機会になります。

コロナ禍だからこそ、自宅前で車中泊

自宅前で車中泊イメージ写真
自宅前で車中泊イメージ写真写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 今はコロナ禍で、キャンプ場でさえも行く事が制限されている地域もあります。気軽に迷惑をかけずに、しかも親子で楽しめるのが自宅前での車中泊です。

 幸い、5月であれば、本州では夜、クルマで寝ていても暑くありません前述の記事の「断熱」でも書きましたが、熱しやすく冷めやすい鉄とガラスを多用しているクルマは、冬寒く、夏耐えがたいほどに暑くなります。冬や寒さ対策は、アウトドアの断熱テクで乗り切ることが可能ですが、夏は、窓を開けると防犯上の不安があり、エアコンを切った状態では、標高をあげるくらいしか(標高が100m上がると気温は概ね0、6度低くなります)よい対策がなかったりします。でも5月であれば、初めての方が、夜の車中泊を体験する時期としては最適です(日中は、気温20度になると車内は50度になるので、すでに危険な時期です)。

 また、自宅前なので、快適ではないと思ったらすぐに切り上げることも可能です。あくまでファーストクラス車中泊に近づけるためのステップだと割り切って、無理なく実践できます。

 車中泊で問題になるトイレについても、自宅を利用するので、ハードルが下がります。

ペットと車中泊も体験が大事

犬とクルマ イメージ写真
犬とクルマ イメージ写真写真:アフロ

 災害時のペットと車中泊では、ペットの首輪が車内のパーツにからまり事故が起こった話も被災地でお聞きしています。落ち着いた環境で一度試してみるのがよいと思います。 

 私は、過去に最大、犬3匹と一緒に車中泊していますが、そのうち1匹は、環境が変わるとお腹を壊しやすい子で特別な対応が必要でした。どうしても苦手な子もいると思います。

 日中は、車内が高温になるので、ペットと一緒に移動するにはどう対応すればよいかについても、事前の練習が大事だと思います。

雨の日の車中泊体験をおススメする理由

雨の日の車中泊体験
雨の日の車中泊体験提供:hichako/イメージマート

 さらに体験としておススメなのは、雨の日の車中泊です。

 雨の音で眠れなくなる人もいますので、自分のタイプを知るためにも事前に実践しておきたいです。

 でも、雨にはよいこともあって、明け方の温度が下がりにくいです。晴れの日の朝は放射冷却現象で、車内が冷え込み、温度差や防寒不足で体調を崩す事もありますが、雨の場合は、逆に寒いなら寒いままなので、対策がとりやすいです。

 そして、雨の日に特に練習しておいてほしいのは、クルマから家のトイレに行くまでのわずかな間、傘をさすべきか、性能のよいレインウエアを着て対応したほうがいいのか、長靴はどの場所に置いておくとスムーズに履けるかなど、雨ならではの諸問題への対応です。

 雨の日の車中泊体験が、災害時に初めてという事になってしまうと、濡れて体が冷えてしまったりして、ただでさえ疲労がたまっている災害時に命に関わるダメージを与えかねません。 

 ちなみに、レインウエアや傘は、防災用に準備しているものが、本当に使えるか、この雨の日の車中泊で検証してみることをおススメします。着脱しやすく、撥水性能や透湿防水性能の高アウトドア用レインウエアだと難なくできる事が、そのグッズだとできない、使えないというリスクを認識できるかもしれません。災害時に使えないことがわかっても手遅れなので、今、体験しておくことが大事です。レインウエアについては透湿防水素材レインウエアを使いこなして災害対策〜赤ちゃんにはファスナー合わせ技もで記事にしましたので、ご笑覧いただけれ幸いです。

 また、雨だと、車外に出たくなくなるので、もういっそのこと、トイレは車内でいいかもしれないと思う方もいるかもしれません。その場合、携帯トイレを車内で体験という防災訓練にもなります。ただ、匂い対策も含め、これは事前に研究も必要です。汚物の匂い対策について以下の動画も参考にしてください。

 (2021年5月3日追記 動画でも紹介している かんがえる.Labo代表の明保里美さんは、女性が車内で用を足す大変さを伝えてくれています。市販のものは、車内で使うのは難しいこともあるので、介護用パッドを使うテクを教えてくれました。介護用おむつを使った事はありますが、履き替えの手間があるので、着脱が楽なパッド利用は、女性にはよいアイデアですね。いずれにせよ慣れが必要なので、みなさまの体験談お待ちしています。)

マイファーストクラス車中泊をみつけよう

 以上、ぷち困難克服ミッションとして、自宅前での雨の日の車中泊は、子どもやペット、家族や自分にとって今後の対策を考えるよい経験になるのでないかと思います。

 コロナ禍でどこにも行けないのであれば、チャレンジを検討してみてください(もちろんその雨が災害クラスにならない前提で)。

 自分なりのファーストクラス車中泊の手順が災害前にわかっていれば、災害時の避難の手段をひとつ増やすことができます!

アウトドア防災ガイド  リスク対策.com名誉顧問 

FM西東京防災番組パーソナリティ 兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科 博士課程 女性防災ネットワーク東京呼びかけ人 阪神淡路大震災の経験とアウトドアスキルをいかした日常にも役立つ防災テクを、2003年から発信。子育てバックは、そのまま防災バックに使えるなど赤ちゃん防災の先駆けとなるアイデアを提唱。技だけなく仕組みと知恵が得られると好評で、口コミで講演が全国に広がる。企業広報誌、子育て雑誌などで防災記事を連載中。ゆるくて楽しい防災が好み。

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