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2018年は「副業元年」となり多くの企業で議論が進むでしょう

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
多忙な日々があなたをスキルアップさせるかも(写真:アフロ)

■副業はイノベーションを起こせるのか

連休明けの今日から2018年のお仕事が始まっている方も多いと思いますので、私から今年のトレンド予想を一つ紹介します。

結論から申しますと、今年は「副業解禁」が本格的に進むぞという話です。私の専門は「CSR(企業の社会的責任)経営」ですが、このカテゴリでも従業員の働き方改革というのは本丸であります。

副業に関する情報や報道は一昨年あたりから急激に増えた印象があります。これは気のせいではなく、現政府が推進している「働き方改革」の一環で議論が進んでいたからです。

さて、副業の解禁・推進は国策とはいえ、現状を正式に把握しているという方は少ないでしょう。そこで本記事では、副業に関する調査・統計を中心に紹介します。あなたの副業に関する意思決定の参考にしてみてください。

※本記事では副業に兼業・複業と呼ばれる働き方を便宜上含むものとします。

■統計データ紹介

では、副業に関する統計・調査などを紹介していきます。調査はすべて2017年の最新のものです。

◯働き方改革に関する企業の実態調査

兼業・副業に関する企業方針では、「現在認めていないが、(一定の懸念が解消されれば) 認めることを検討する」(36.9%)と、「現在認めていないし、今後も認めるつもりはない」 (35.9%)という意見が特に高い。

出典:働き方改革に関する企業の実態調査

この調査によれば、全体の約65%はすでに副業を認めているもしくは今後認めることを検討する、となっています。一部の頑なに変化を拒む企業以外では、懸念さえなくなれば認めなくはない、という姿勢のようです。

◯兼業・副業に対する企業の意識調査

1、兼業・副業を容認・推進している企業は全体の22.9%

2、兼業・副業の禁止理由は、「社員の過重労働の抑制」が55.7%と最も高い

3、兼業・副業の容認・推進理由は「特に禁止する理由がない」が68.7%と最も高い

出典:兼業・副業に対する企業の意識調査

容認している企業の主な理由は「特に禁止する理由がない」となっています。憲法や法律で禁止となってはいないし、今となっては政府が推進しているくらいですので、当然でしょう。逆に反対派の主な理由は「長時間労働を助長する」とのこと。反対派の意見もまったくその通りなのですが、「包丁は人を殺してしまう可能性があるから販売してはいけない」のような論理にも聞こえてしまいます。事業活動でゼロリスクは存在しません。リスクとうまくつきあいながら改善している姿勢もこれまた重要だと思います。

◯2017年度の雇用動向に関する企業の意識調査 副業・兼業はモチベーション向上や人材確保・定着で効果的

従業員の副業・兼業を認めることによる効果では、従業員の「定着率が向上した」が26.6%で最高。次いで、「従業員のモチベーションが高まった」「従業員のスキルが向上した(本業に貢献)」「多様な人材の活躍が推進できた」「継続雇用が増加した(リタイア後の再雇用など)」が続いた。従業員の副業・兼業を認めることで、労働意欲や人材確保・定着の面で効果的と捉えている

出典:雇用動向に関する企業の意識調査

世の中には副業をしたいと思うビジネスパーソンが一定数います。セクシャルマイノリティなどへの対応もそうですが、社内に一定数いるのがわかっているなら、その人たちのために対応する施策が必要なんじゃないの?ということでしょうか。このあたりの企業メリットを考えると「福利厚生」にも貢献しうることがわかります。

◯5,000名以上の正社員に聞く「副業」実態調査

88%の方が「副業に興味あり」。そのうち83%が「収入のため」。

現在も副業を続けている方は、38%。会社が副業禁止で止めたというコメントが多数。

副業が解禁されている会社は19%、禁止されている会社は44%。

出典:正社員に聞く「副業」実態調査

他の調査でも副業は「収入のため」というのがあるので、多くの人にとってはキャリア形成・スキルアップというよりは、より実利を獲得するための手段とする人が、現状としては多いという結果のようです。

◯副業(複業)の実態〜働き方改革意識調査

従業員の副業を禁止している(83.4%)

副業をしたい従業員(32.1%)

副業をする(したい)理由は収入を増やしたいから(84.9%)

出典:副業(複業)の実態

色々な理由があるとしても、リスクを極力減らしたい企業としてはまだまだ禁止しているところが多いようです。全体の3割もの人がしたい、といっているのに無視し続けるのは人事戦略上正しい選択なのかどうか…。

◯<大企業の正社員1,236名に聞いた、副業に関する意識調査>副業(社外での活動)禁止の企業は時代遅れ!?

副業(社外活動)している社員は約2割、1年以内に副業をやってみたい社員は約4割

副業に興味がない社員も「副業禁止の会社に魅力感じない」4割

出典:副業に関する意識調査

大企業の従業員だからという部分があるのかもしれませんが、従業員が自社に社会動向を考慮した施策の実施を求めるのは当然です。とはいえ、他の調査でもだいたい割合は同じなのですが、6〜7割の人は解禁になろうが当面は副業をしない意向のようです。

■副業からの起業/創業

ここまで副業に関する複数の調査・統計をみてきました。なんとなく国内動向を把握していただけたかと思います。本記事では、副業のもう一つの側面である「独立するための副業」についてもふれたいと思います。(これも広義の働き方改革であり政府が独立・起業を推奨しているため)

副業というと多くの方は、いわゆる“サラリーマン”をしながら空いた時間でビジネスをするイメージだと思います。しかし、善悪は別として、将来独立するための準備段階としての副業もあります。企業サイドというよりは独立起業を考えている個人の方には非常に興味深いであろう、統計・調査を紹介したいと思います。

◯兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言〜パラレルキャリア・ジャパンを目指して

従業員(就業者)側に着目して兼業・副業の実態をみると、全就業者のうち副業をしている就業者は約234 万人(3.6%)、副業を希望する就業者は約368 万人(5.7%) である一方で、従業員を雇用する企業(使用者)に着目して兼業・副業の実態をみると、兼業・副業に対し、引き続き多くの企業が就業規則等で原則禁止しているなど、慎重な姿勢がみられる。

出典:兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言

不勉強で恐縮ですが、この資料をみて「パラレルキャリア・ジャパン」なる概念を知りました。政府は副業推進派なので、そのエビデンスもそちら方向ではあるものの非常に興味深いレポートだと感じました。個人的には、企業が禁止しても法律で禁止されているわけではないので、してしまう人が100万人単位でいるならば、条件付きで認めていったほうがいいのではないかと考えています。

◯副業起業は失敗のリスクを小さくする―「起業と起業意識に関する調査」(2016年度)より

副業起業者は起業家の27.5%を占める。

副業として起業し、助走期間を経て専業に移行することで、起業における失敗のリスクを低下させられる。

出典:起業と起業意識に関する調査

独立・起業は、いくつかの統計があるものの「法人廃業率(10年)」は90%以上と言われています。つまりほぼすべての企業は“近い将来に廃業する”のです。たしか1年目でも3割が事実上の廃業という数字だったと思います。それだけ不確実性の高いスタイルなので、助走があったほうがいいのは当然といえば当然かと。

私は「サステナビリティ(持続可能性)経営」も専門なので、いかに“生き残れるのか”について企業の支援をしているわけですが、将来のイグジット(IPOやバイアウト)をスケールするビジネスモデルでの副業でも、小規模事業者としてニッチなスモールビジネスを継続的にするビジネスモデルであっても、副業からスタートするのには大賛成です。

私が今年独立して丸10年(11年目)となりましたが、最初に勢いで独立してしまい困ったことが多々あったので、私が独立支援をするときは、この方法がベストかもしれないと身をもって感じています。

■副業の課題

当然、物事は「リスクと機会」があるもので、副業においても課題はあります。副業の制度や議論が盛り上がってきたからといって必ずしなければならないというものでもありません。

よく言われる課題は、前述の副業関連の調査からもわかるとおり「総労働時間が長くなることの弊害(残業代支払、慢性的疲労、など)」や「競合業種での副業によるノウハウ流出・情報漏洩」などでしょう。

また経団連のように、ネガティブな態度の業界団体もあります。これは副業のデメリットが解決されないうちに、推進だけ議論されるのはおかしいという姿勢なのでしょう。これ自体は非難されるものではありませんが、「実施するデメリット」と「実施しないデメリット」をきちんと比較し、2018年には適切な対応をしていただきたいです。

■まとめ

今年の4月からは「障害者法定雇用率のアップ」「無期労働契約への転換(非正規の正社員化)」などもあり、まさに働き方改革全体が大きく動く年となるでしょう。また、多くの企業が参考にしている厚生労働省「モデル就業規則」も近々で改定が行われると発表されています。2018年は副業を中心とした働き方改革が一段と進む1年になりそうです。

企業のCSR活動として副業を推進するかしないかでいえば、推進するほうがより従業員というステークホルダーに対して社会的責任を果たしているといえるでしょう。企業サイドとして副業解禁には様々な理由がありますが、従業員サイドとしては、うまく活用したいものです。まずは自社の就業規定がどのようになっているか、そして、自分が副業をするとしたらどういうことをしたいのか妄想することから始めましょう。

このあたりはガチンコなライフデザインです。人生100年時代の現代において自分の働き方を今一度見直してみましょう。また企業のCSRや人事の担当者は、今年中に自社の立ち位置を非正規雇用者を含む全従業員に情報開示し、説明責任を果たす必要があるでしょう。

参考リンク

厚生労働省|モデル就業規則

首相官邸|働き方改革実現会議

経済産業省|兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集を取りまとめました

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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