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トヨタは253億円で圧倒的No1--なぜトヨタは社会貢献に熱心なのか

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
(写真:アフロ)

■社会貢献活動の意義

先日、東洋経済新報社より「最新!社会貢献支出の多い100社ランキング 1位トヨタ253億円、割合はファンケルが圧倒」という記事が発表されました。CSR(企業の社会的責任)関係者の間では毎年話題にはなるものの、トヨタが圧倒的No1すぎて、ランキングの面白みはありません。(それだけすごいということではありますが)

ただし、一般のビジネスパーソンは、その社会的インパクトの大きさがわからないかもしれません。これは馬鹿にしているわけではなく、専門的と言いますか、CSRや社会貢献という、事業とは別の側面での知識や視点が必要になるからです。

というわけで、あらためてトヨタという企業の社会的な側面について解説させていただきます。

■社会貢献支出額ランキング・トップ10社

1、トヨタ自動車(253億円)

2、JT(89億円)

3、日本電信電話(66億円)

4、サントリーホールディングス(56億円)

5、日本生命保険(55億円)

6、NTTドコモ(49億円)

7、キヤノン(41億円)

8、三井不動産(40億円)

9、三菱商事(38億円)

10、イオン(37億円)

最新!社会貢献支出の多い100社ランキング 1位トヨタ253億円、割合はファンケルが圧倒

このランキングは「社会貢献支出額」の評価軸です。トヨタが圧倒的であることは2位比べればわかっていただけると思います。ちなみにここでいう「社会貢献活動支出額」の定義は、「1、寄付金総額」(社会貢献を目的とした寄付金、現物寄与などの総額)と「2、その他社会貢献を目的とした各種事業への支出額」(実質的に社会貢献活動と認識している支出を含む)の合計とのこと。

ですのでトヨタも253億円全部を自治体やNPOなどに寄付しているわけではありません。とはいえ、さすがの金額ですね。上場企業でも規模の小さい企業の年商の何倍もの金額を社会貢献に投資するなんて…。

■トヨタの社会貢献活動

あらためてトヨタの社会貢献活動の定義を確認してみましょう。

トヨタは、「クルマづくりを通じて社会に貢献する」という理念を創業の原点としており、社会の発展に寄与できるように努めてきました。活動の取り組み分野としては、本業を通じた社会貢献に加え「環境」「交通安全」「人材育成」をグローバル重点3分野とし、それに各国各地域の社会ニーズに応じて「社会・文化」などの分野を加え、トヨタの持つ技術やノウハウといったリソーセスを活用しながら、積極的に活動を進めています。

出典:トヨタ|社会貢献活動への取り組みについて

トヨタはこのページで253億円の内訳を公開しています。グラフを見るに「人材育成」「社会・文化」の2大カテゴリで7〜8割の支出になっているようです。ちなみにホンダは割合が異なり「交通安全」「次世代育成」への社会貢献支出が多くなっています。(参照:ホンダ サステナビリティレポート 2016)自動車メーカーといっても、社会貢献への投資カテゴリが異なるのは興味深いですね。

トヨタは人材育成が軸
トヨタは人材育成が軸
ホンダは次世代育成が中心
ホンダは次世代育成が中心

■社会貢献活動による企業評価

トヨタがすごい点は、国内のインパクトが大きいだけではありません。世界的なCSR領域を評価項目にもつ企業ランキングでも日本勢として上位に食い込む、トップオブトップの企業なのです

まずは「'''世界で最も賞賛される企業2017'''」(World’s Most Admired Companies)から。このランキングは、コーン・フェリー・ヘイグループとフォーチュン社が作成し毎年発表されています。9つの審査項目(社会的責任、評判、経営管理、財務など)が評価項目となっており、完全なCSR関連のランキングというわけでもありませんが、重要な要素であるということで、ここで紹介されていただきます。日本企業は総合50位以内にトヨタ自動車(34位)がランクインしています。

次は「'''世界で最も高評価な企業2017'''」(The World’s Most Reputable Companies)です。このランキングは、レピュテーション・インスティテュート社が作成し毎年発表されています。7つの審査項目(製品・サービス、イノベーション、職場、統治、社会貢献、リーダーシップ、業績)に対する市民の評価を集計し、スコアを算出しランキング。CSR的には「統治」と「社会貢献(市民性)」が関わっています。「職場」も今やCSRのど真ん中ですね。トヨタは「34位」でした。自動車メーカーではホンダ「48位」日産「80位」となっています。

私どものCSR関連情報の開示レベルを調査した「CSRコンテンツ充実度調査 2017」でも、トヨタは3位であり、CSR領域の情報量やウェブコンテンツの充実度もトップクラスであることがわかります。情報開示は企業評価向上・企業価値向上のための超重要項目です。社会貢献をしているから良い企業というわけではありませんが、やはりブランド価値創出に社会貢献が貢献している可能性が非常に高いとも言えるでしょう。

極端な話、日本で“社会に最も優しい企業”の1社と言えるかもしれません。厳密にいうと「優しい」という単語は適切ではなくて、業界的には「ステークホルダーへの適切な配慮とエンゲージメントにより社会的責任を果たしている」ということです。それを簡単にいうと「社会に優しい」となります。一言でやさしいと言っても難しいですね。

もちろん、ステークホルダーへの配慮がトップクラスだったとしても、イコールで、不祥事が起きない、というわけではありません。CSR・社会貢献に先進的な取り組みをしていても大型不祥事を起こす企業は毎年います。もう一度いいます。残念ながら毎年のようにいます。CSRを中心とした世界的に評価が高い企業でも、財務的に苦しい展開のところもありますし、最近でいえば「労働関連の問題で書類送検されるレベルの企業」や「従業員と訴訟を何件も抱える企業」も現実的にあります。

何はともあれ、社会貢献活動が「社会に与えるインパクトもさることながら企業にリターンもあるらしい」程度の話はぜひ知っていただきたいと思います。

■CSR企業ランキング

1、富士フィルムホールディングス(2016年の順位、1位)

2、ブリヂストン(3)

3、KDDI(7)

4、コマツ(3)

4、NTTドコモ(5)

4、キヤノン(9)

7、富士ゼロックス(2)

8、デンソー(6)

9、リコー(8)

9、花王(18)

11、味の素(24)

12、コニカミノルタ(50)

13、NEC(10)

14、ホンダ(12)

15、ダイキン工業(13)

16、村田製作所(26)

17、日産自動車(11)

18、クボタ(14)

19、積水ハウス(26)

20、アサヒグループホールディングス(20)

最新版!「CSR企業ランキング」トップ700社 富士フイルム3年連続1位、ブリヂストン続く

他の指標も確認しておきましょう。紹介するのは国内唯一のCSR・社会貢献ランキングである「CSR企業ランキング2017」。トヨタは28位(昨年16位)でした。人材活用領域の点数が伸び悩みこの結果に。総合ランキングでは他の自動車メーカーに残念ながら負けています。来年に期待、というところでしょうか。

大手上場企業であれば、CSR・社会貢献に関するレポートを発行したりコーポレート・サイトで関連情報を発信している企業が増えています。とある調査では、上場企業の半分程度はコンテンツページを持っているそうです。あなたが贔屓にしているブランドや企業のコーポレートサイトをぜひチェックしてみてください。新しい側面を見つけることができるかもしれません。

私としては、素晴らしい活動をしている企業、リスクをとってチャレンジしている企業は、きちんと褒めるべきだと思います。こういうと、トヨタさんのステマと疑われますが取引関係はありませんのであしからず。

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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