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Appleが変えた“声にならなかった声”--iPadが自閉症の少年を変えたお話

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
グローバルトップ企業が、特定の社会課題を支援するのは珍しいこと

■Appleだからできる支援

先週の4月2日は「世界自閉症啓発デー」で、世界ではもちろん、日本でも様々なイベントやアクションが行なわれました。4月2〜8日は「発達障害啓発週間」とし、そして4月は「自閉症受容月間」とされています。

「世界自閉症啓発デー」とは、毎年4月2日を自閉症の啓発を目的とした記念日のこと。世界で自閉症を持つ人は2,000万人以上とも言われています。世界では100ヶ国以上で啓発イベントなどが行なわれるなど比較的大きな啓発記念日ですが、日本ではまだまだ知名度が低いのが現状です。

私もよい企業の事例があったらと(そのあたりが専門なので)、啓発に関する事例を探していた所、ありました。iPhoneで有名なApple社の事例です。

そこで今回は、世界自閉症啓発デーに合わせて発表された、Appleの取組み(動画)を紹介したいと思います。ある意味、AppleのCSR(企業の社会的責任)活動事例とも言えるかもしれません。

2016年の日本企業の事例は『92の企業・NPOが「多様性」訴える――世界自閉症啓発デー』というYahoo!ニュース記事がありますのでどうぞ。自閉症を含めた発達障害に関する情報は、政府広報オンラインの『発達障害って、なんだろう?』を参考にしてみてください。

■ディラン少年のストーリー

自閉症受容月間には、自閉症の人たちが歩むユニークな道への理解を深める取り組みが行われています。ディランは周囲の献身的な支えと、何年にもわたる努力、そしてiPadによって、他の人とコミュニケーションが取れるようになりました。その道のりを共に歩んできたディランとお母さん、セラピスト/コミュニケーションパートナーの声を聞いてください。(3分半)

自閉症受容月間には、ディランのような人たちのストーリーを広く知ってもらう取り組みが行われています。彼の言葉は、みんなの声が届くことが大切だと気づかせてくれます。(2分)

自閉症受容月間|Apple(日本語)

※動画内容はだいたい同じですが重複はあまりないので、お時間がある時にぜひ2本見ていただきたいです。

■ツールと努力で“伝えられる”こともある

動画の内容はこうです。16歳の少年ディランは、重度の症状であるとセラピストに認定される自閉症の子どもでした。言葉は話せない。でも、言いたいことがないわけではない。コミュニケーション・ツール(iPad)を使い、文字を通じて、他人とコミュニケーションを取れるようになったディラン。周囲の献身的な支えと本人の努力によって、彼の世界が動き始めたのですーー。

これは自閉症の方だけの課題ではありません。物理的に声が出せない方、著名な方でいえば、喉頭がんで声帯を全摘出した歌手で音楽プロデューサーのつんく♂氏などがいらっしゃいます。彼はテレビのあるトーク番組出演時に、パソコンを使って筆談形式で司会者とコミュニケーションをしたそうです。そう、彼もまた声を口から出すことは難しいものの、知能が低いわけでもなく、何も考えがないわけではないのはご存知の通りです。

iPadなどによるコミュニケーションが、すべてのコミュニケーションを代替できるとは思いませんが、世界トップ企業の1つでもあるApple社が自閉症啓発の時期に合わせて、このような取組みを紹介するあたり、さすがだなと思います。私は15年以上のAppleユーザーですが、贔屓ではなく事実です。

Appleは、実はApple創業者のスティーブ・ジョブズ氏がCEOをしていた時代は、このようなソーシャルアクションに積極的ではありませんでした。彼はCSR、チャリティなどにはあまり関心がなかったのです。しかし現在のティム・クックCEO体制のAppleは、環境を含めた社会問題などに積極的に関わっています。(参照:Apple新製品発表会の影の目玉!? リサイクルロボット「Liam」がイケメンすぎる

Appleは、全てのコンテンツを日本語にしているわけではないのに、自閉症啓発のムービーも、リサイクルロボットのムービーも日本語ローカライズされている点は素晴らしいことです。

動画は、人によっては感極まってしまう人もいるかもしれません。そのあたりも考慮して、ぜひ2〜3分ほどのムービーですのでご覧いただければと思います。

精神的・肉体的にハンディがある人たちは、世界中にいます。そして、現状、私はおかげさまで申し分ない健康体ではありますが、今日にでも、突発的な事件・事故でハンディを背負う可能性もあり、決して他人事とは思えません。

本記事をお読みいただいたあなたに対して、どこそこの自閉症支援のNPOに寄付をしろとまでは言いませんが、世の中には色んな人がいて、色んな課題があって、それでも行動を続ける個人・企業があるんだ、そういうことをまず知っていただければと思います。

ちなみに、Yahoo!では『Yahoo!ネット募金』という寄付サイトをやってますので、そちらで様々なNPOなどに寄付することができます。ご興味がある方はぜひどうぞ。

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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