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大手企業は同性婚を認めて、意味があるのですか?

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
同性婚で福利厚生って?(写真:アフロ)

■同性カップルへの福利厚生って?

先週18日に毎日新聞が以下のような報道していて、Yahoo!トピックスにもピックアップされていました。

パナソニックは社内ルールを変更し、4月から同性カップルを結婚に相当する関係と認める方針を固めた。社員の行動指針も見直し、「LGBT」(性的少数者)を差別しない姿勢を明確化する。社内から要望があったほか、同社が国際オリンピック委員会(IOC)の最高位スポンサーで、五輪憲章が「性的指向による差別禁止」を掲げていることも後押しした。国内の企業では先進的な取り組みで、他企業に広がる可能性がある。

出典:パナソニック 同性婚、社内規定で容認 4月から

この【トピックス記事】Facebookコメント欄では、くだらない否定コメントから、たしかにその視点は重要だなと思うものまで、たくさんの賛否の意見がありました。また、記事では、パナソニックの他に日本IBM、レナウンの事例も紹介しています。

私は、CSR(企業の社会的責任)という領域が専門なのですが、まさにこのLGBT対応はCSR実務でも非常にホットなテーマとなっております。もちろん、この傾向は日本だけではなく、世界中のトレンドとしてです。

本記事では、パナソニックだけ大々的に取り上げられたけど、他の企業の対応状況ってどうなの?という部分を解説したいと思います。

■日本企業の最新LGBT対応動向

1,000社以上の企業のCSR関連データが掲載されている「CSR企業総覧2016 第11回CSR調査」(東洋経済新報社)によれば、「LGBTへの対応の基本方針」という設問で、「あり」(173社)、「なし」(563社)、「作成中」(33社)となっております。2015年の調査段階では、多くの企業で基本方針がないようです。また、方針作成中という企業は数十社程度で、2016年内に一気に対応が広がるということはなさそうです。

LGBTへの取組み」という設問では、「行なっている」(146社)、「行なっていない」(596社)、「今後予定」(55社)、という回答状況だそうです。現段階で実施予定がない企業が多くて気になります。

比較的近い設問の「人権尊重・差別禁止の方針」という項目では、「あり」(757社)、「なし」(168社)となっていますので、直近でLGBT対応も700〜800社程度までは、今年以降で基本方針の設定まではいけそうですね。ただし、それでも数年かかることが予想されます。実際にCSR担当者の方にヒアリングしても、早急な対応は困難という企業が多い印象です。

加えて気になるのが、企業のLGBT対応の取組みは「福利厚生」で止まっている事例が多い気がします。当事者となる従業員としては、まずは権利行使できるし良いことだと思いますが、コストとしての福利厚生ではなく、企業の人事戦略として価値創造につながる方向に持って行ければベストですが…。現実的には、なかなか難しそうですね。

例えば、LGBT対応の副次的効果として、今回のパナソニックさんの事例は「PR効果」(レピュテーション向上効果)もあるでしょう。国内では先進的な取組みであり、こうやって様々なメディアが取り上げたわけでして、広告費換算すれば…なんて話もあります。

ダイバーシティ(多様な価値観)の推進によって、社内外にポジティブなインパクトを出すことも不可能ではありません。企業の人事およびCSR担当者には、来年度の具体的施策として取り入れていただきたい考え方です。

■LGBT対応事例

LGBT対応事例、LGBT対応のメリット・デメリット、ダイバーシティ戦略など、企業とLGBTの関係性について興味がある方は別の記事にまとめているので、ご興味があればチェックしてみてください。

日本企業のLGBT対応と人権問題

ダイバーシティ経営の本質は、ダイバーシティそのものにはない

LGBT該当者は約8%-CSRはどこまで許容できるのか

AppleのCSR推進とティム・クックCEOの「100人のもっとも影響力のある人々」

日本人の1割近くがLGBTといわれる社会ですので、友人・知人にLGBTの方がいないという人はただ単に“知らない”もしくは“見えていない”だけですね。すぐそばにいるんです。人口的には、もはやマイノリティでもないようなボリュームです。今回のニュースから改めて、同じ人間としてその存在に敬意と配慮をすべきなのかもしれません。

■他社へのインパクトは大きい

しかし、こういう新聞系メディアでも「LGBTに“対応”する」って書くんですよね。

障害者に対応する。外国人に対応する。間違っている表現ではないもの、今まで“普通の人たち”とは別の枠組みの人たちをどうにかしますよ、というイメージがあり、差異を明確にすることで改めて差別化するようなイメージを含むこの表現が嫌いです。何かよい表現を誰か発明してくれないだろうか。それとも私が知らないだけなのか…。

何はともあれ、今回のように話題になり、大手企業・上場企業の人事、経営戦略、CSRなどの部門の方がLGBT支援に動くきっかけとなったのは喜ばしいことです。これらのパナソニックの施策によって、他社はどう動くのか。引き続きウォッチしていきます。

Panasonic|CSR・環境

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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