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輸入車唯一のフルハイブリッド、ルノー「アルカナ」は、既存のどのハイブリッドシステムとも異なる楽しさだ

安藤眞自動車ジャーナリスト(元開発者)
クーペスタイルが美しいアルカナ(撮影筆者)

 ハイブリッド車といえば、すっかり日本のお家芸となっていますが、システムはほぼ2種類に収れんしています。トヨタが遊星歯車を使用した独自のシステムを使用している以外は、エンジンで発電機を回してその電力で走る「シリーズ式」と呼ばれるシステムが主流。日産、ホンダ、三菱、ダイハツが、このシステムを採用しています。

 シリーズ式は、走行速度に関わらず、エンジンを最高効率点で回して発電に徹することで燃費を良くするシステムですが、弱点は高速走行であまり燃費が伸びないこと。高速走行時に要求される駆動力は、エンジンの最高効率点に近くなりますが、そんなときでも発電しながら走るため、電気に変換するロスが生まれてしまうのです。

 そこを改善するために、エンジンと出力軸を直結するクラッチを付けているのが、ホンダと三菱のシステムですが、直結ということは、ギヤ比は4速相当になり、高速走行にはまだ少し低め。電気に変換するロスはなくなっても、今度はエンジンの最高効率点から遠ざかってしまいます。

 ならば直結クラッチの代わりに、マニュアルトランスミッションと同様のギヤボックスを付け、要求される駆動力に合わせて変速できるようにしてしまえば、というのが、ルノーが独自に開発した「E-TECH HYBRID」というシステムです。要求駆動力やバッテリー残量に応じて、エンジンとモーターの分担バランスを最適化できるという点ではトヨタ方式と似ていますが、トヨタがそれを連続無段階に行えるのに対し、E-TECH HYBRID のエンジン側の変速段数は4段、モーター側にも2段の変速機が付いており、両者の組み合わせで分担率を段階的にコントロールします。

 ちなみにエンジン側の減速比は、1速が同社の7速トランスミッション(EDC)の2速より少しハイギヤで、4速がEDCの6速相当のギヤ比になっていますから、高速走行でも最高効率点が使えそうです。

右側が駆動用モーターで、その左上が発電機。さらに左に4速ギヤボックスがあり、フライホイールを経てエンジンにつながります。(Renaultのサイトより)
右側が駆動用モーターで、その左上が発電機。さらに左に4速ギヤボックスがあり、フライホイールを経てエンジンにつながります。(Renaultのサイトより)

 バッテリーにはリチウムイオン電池を使用しており、総電力量は1.2kWh。ホンダ・ヴェゼルの1.0kWhより大きく、日産・キックスe-POWERの1.5kWhより小さいですが、普通に発進すればモーターだけで走り出し、急加速しなければ65km/h程度まではエンジンはかかりませんから、「電動感」はe-POWERに近いイメージです。

 バッテリーが減ってくるとエンジンが始動しますが、存在感をひたすら隠そうとしているe-POWERに較べ、エンジンの主張は強めです。しかしエンジンと駆動軸は固定ギヤ比でつながってますから、速度と無関係に回転数が変わるということはなく、有段式AT(DCT含む)と同様のダイレクトな加速感が得られます。

 「ちょっと回転数が上がりすぎかな」と思ったら、アクセルペダルをメリハリ良く戻せばシフトアップするところも、有段式AT同様です。ただしギヤ比が離れ気味なので、登り坂では、すぐに元のギヤにダウンシフトしてしまいがち。ギヤ段数が6速あれば、もっと自在に変速できて楽しそうに思えましたが、そうなるとシフト機構がもう1セット必要になるので、コストや搭載性の点で問題が出てくるかも知れません。

 とはいえ、アクセル操作で変速が誘え、エンジンによるダイレクトな駆動感が味わえるのは、トヨタ方式にもシリーズ式にもない楽しさです。国産ハイブリッドは、ドライバーの意図とは無関係にシステムが最高効率を求めて勝手に動いている感じがありますが、E-TECH HYBRID はドライバーの操作にある程度まではクルマが応えてくれるという点で、自分で操っている楽しさが味わえます。

アルカナのエンジンルーム。エンジン本体は、日産のHR16型をベースとした1.6L直列4気筒です。(撮影筆者)
アルカナのエンジンルーム。エンジン本体は、日産のHR16型をベースとした1.6L直列4気筒です。(撮影筆者)

 試乗の起点は静岡県御殿場市だったので、東名高速に乗って裾野方面に向かいましたが、合流時や追い越し時には最大トルク205Nmのモーターがアシストしてくれるので、電動車らしい爽快な加速感が味わえました。

 裾野ICで降りた後は十里木高原方面に向かい、自衛隊の演習場の間を通り、籠坂峠を越えて山中湖に抜ける山岳ルートを走行。登り坂が続く場面では、エンジン主体で走っているようなダイレクトさが感じられ、峠道もなかなか楽しく走ることができました。「国産のハイブリッド車は、運転に対話感がない」と感じているかたは、ぜひ試乗してみることをお勧めします。

 山道を楽しんだ後は、エネルギー回生を意識しながら出発点へと戻ります。といっても、電動ブースターを使った回生協調ブレーキなので、少し丁寧にブレーキ操作をする程度で、バッテリーの残量計はすぐにいっぱいまで戻りました。

 約70kmを1時間半ぐらいかけて走ったドライブで、燃費計の数値は4.3L/100km。日本流に直すと約23.3km/Lです。市街地走行メインではトヨタ方式にはかなわないかも知れませんが、高速走行時には増速ギヤを持っている分、遜色のない燃費が出る可能性もあります。

試乗した際の燃費は23.3km/L。車重1470kgのSUVとしては、良い数値ではないでしょうか。ガソリンはプレミアムになりますが、これだけ走れば、それほど大きな負担増にはなりませんね。(撮影筆者)
試乗した際の燃費は23.3km/L。車重1470kgのSUVとしては、良い数値ではないでしょうか。ガソリンはプレミアムになりますが、これだけ走れば、それほど大きな負担増にはなりませんね。(撮影筆者)

 現在のところ、E-TECH HYBRID システムを搭載するのはアルカナだけですが、オーソドックスなSUVのキャプチャーや、コンパクトハッチバックのルーテシアにも導入が予定されているとのこと。ルーテシアに搭載されて価格が300万円少々になったら、国産ハイブリッド車キラーになるかも知れません。

自動車ジャーナリスト(元開発者)

国内自動車メーカー設計部門に約5年間勤務した後、地域タブロイド新聞でジャーナリスト活動を開始。同時に自動車雑誌にも寄稿を始め、難しい技術を分かりやすく解説した記事が好評となる。環境技術には1990年代から取り組み、ディーゼルNOx法改正を審議した第151通常国会では参考人として意見陳述を行ったほか、ドイツ車メーカーの環境報告書日本語版の翻訳査読なども担当。道路行政に関しても、国会に質問主意書を提出するなど、積極的に関わっている。自動車技術会会員。

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