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半導体不足でクルマの納期が大幅遅延! 半導体が足りないと、なぜクルマが作れなくなるのか?

安藤眞自動車ジャーナリスト(元開発者)
(写真:show999/イメージマート)

 世界的な半導体不足を受けて、自動車メーカーの多くが一部工場で生産の休止を発表しました。そうなれば供給も滞りますから、納期も遅れ、人気車だと半年以上、そうでないクルマでも3〜4ヶ月待たされるケースが出てきています。

 半導体というと、IT機器というイメージが強いと思いますが、なぜ半導体が足りないと、クルマが作れなくなるのでしょうか。

そもそも”半導体”って何?

 まず、「そもそも半導体とは何か」というところからお話ししましょう。半導体とは字の通り、半分だけ電気を通す物質です。

 電気をよく通す物質を「良導体」、電気をほとんど通さない物質を「絶縁体」と言います。前者の代表は、電線に使われる銅やアルミ、後者の代表は陶器やゴムです。でも、世の中にはへそ曲がりな物質があって、普段は電気をほとんど通さないけれど、温度が高くなったり、特定の元素が少し混じったり、性質の異なる物質と貼り合わせたりすることで、電気の流れが良くなるものがあります。それが半導体で、代表的なものはシリコンです。

 こうした特性の物質を貼り合わせ、電気を一方向にしか流れなくしたのがダイオード、電流を増幅できるようにしたのがトランジスタ、それをさらに複雑高度化して電子回路を構成したのが、ICやLSIと呼ばれる集積回路です。

半導体を使ったもっともベーシックな電子部品がダイオード。それに発光する性質を持たせたのが、発光ダイオード(LED)です。最近は軽自動車でも、メーターやスイッチ類の照明にはLEDが使われています。
半導体を使ったもっともベーシックな電子部品がダイオード。それに発光する性質を持たせたのが、発光ダイオード(LED)です。最近は軽自動車でも、メーターやスイッチ類の照明にはLEDが使われています。

半導体は、クルマのどこに使われているのか。

 では、半導体はクルマのどこに使われているのでしょうか?

 たとえば昔のクルマは、アクセルペダルからワイヤーが延びており、それがスロットルバルブを機械的に開閉していました(自転車のブレーキと同じです)。ところが今では、アクセルペダルにセンサーが付いており、その電気信号をもとに、モーターでスロットルバルブを開け閉めしたり、燃料の噴射量を調整したりするようになっています。それを制御するECU(Electronic Control Unit)は、いわば「小さなコンピューター」。LSIが必須ですから、半導体がなければ作ることができません。

 しかもエンジンだけでなく、電気で制御するもののほとんどにECUが使われています。たとえばパワーウインドウやワイパー、衝突軽減ブレーキなどの安全装置もECUで制御していますから、半導体がなければ動かすことができません。LED(発光ダイオード)にも半導体が必要ですから、メーターやスイッチの照明もできなくなります。

ハイブリッド車のインバーターにも、数多くの半導体が使われています。
ハイブリッド車のインバーターにも、数多くの半導体が使われています。

 こうした部品がひとつ欠けただけで、完成車として売ることはできなくなりますから、半導体不足は自動車産業にとって、非常に深刻な問題なのです。

どうして半導体が足りなくなった?

 ところで、なぜ半導体が足りなくなったのでしょうか?

 第一の要因は、新型コロナウィルスの蔓延です。新型コロナウィルスの蔓延によって経済が停滞すると予測されたため、需要が少なくなると考えた半導体メーカーが、減産したり、設備投資を抑制したりしたのです。ところが予想に反し、巣ごもり生活によるIT機器の需要増や、不特定多数と接触しない移動手段としてクルマの販売が好転したため、半導体の奪い合いが起こったのです。

 しかも運の悪いことに、昨年から今年にかけて、国産半導体メーカー大手の旭化成エレクトロニクスとルネサスエレクトロニクスの工場で火災が相次ぎ、供給不足に拍車をかけてしまいました。

 そうした中で、かねてから半導体メーカーと密接なパイプを持っていたIT機器メーカーは、どうにか供給が確保できましたが、そうでなかった自動車メーカーの多くは、より深刻なダメージを被ってしまったというわけです。

半導体不足は、いつになったら解消する?

 半導体メーカーが単純に供給を絞っただけなら、既存設備の再稼働で対応できますが、需要も増えているので、生産設備を増強する必要があります。ところが現在の需要は「コロナ特需」的な側面も考えられるため、迂闊に投資してしまうと、特需後に過剰な生産設備を抱えることになります。しかも、半導体の製造装置にも半導体は必要ですから、投資は決断できても生産設備が調達できないという悪循環に陥っており、半導体不足が解消する時期を正確に予測することはできないというのが実情です。

 楽観的な予測でも年内いっぱい、場合によっては1〜2年先になると見られており、混乱はもうしばらく続きそうです。近々クルマの買い換えを検討しているかたは、3〜4ヶ月の余裕を見込んで商談を開始すると良いのではないでしょうか。

自動車ジャーナリスト(元開発者)

国内自動車メーカー設計部門に約5年間勤務した後、地域タブロイド新聞でジャーナリスト活動を開始。同時に自動車雑誌にも寄稿を始め、難しい技術を分かりやすく解説した記事が好評となる。環境技術には1990年代から取り組み、ディーゼルNOx法改正を審議した第151通常国会では参考人として意見陳述を行ったほか、ドイツ車メーカーの環境報告書日本語版の翻訳査読なども担当。道路行政に関しても、国会に質問主意書を提出するなど、積極的に関わっている。自動車技術会会員。

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