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虫好きにとっての銀一(ギンイチ)って何。

天野和利時事通信社・昆虫記者
虫好きにとってのギンイチは銀座1丁目ではなくギンイチモンジセセリ

 銀一(ギンイチ)って何。銀座1丁目?銀河特急1号?虫好きにとってのギンイチは、言わずと知れた(一般人は誰も知らない)銀一文字(ギンイチモンジ)セセリだ。セセリという蝶の仲間は、ほとんどが地味で、蛾だと思われていることもあるほど。ギンイチモンジセセリもさして美しくはない。翅の表側はほぼ黒一色だ。

 しかし、春に発生する春型に限って、翅の裏側に銀色の一本線がくっきりと刻み込まれている。これが虫好きの目で見ると、なかなかに粋なのである。

4月中旬、荒川河川敷のススキ原で出会ったギンイチモンジセセリ
4月中旬、荒川河川敷のススキ原で出会ったギンイチモンジセセリ

4月上旬、多摩川河川敷のススキ原で出会ったギンイチモンジセセリ
4月上旬、多摩川河川敷のススキ原で出会ったギンイチモンジセセリ

 幼虫はススキなどイネ科の草を食べる。これはイチモンジセセリ、チャバネセセリなど、どこにでもくさるほどいる超地味なセセリと同じだ。それなのになぜかギンイチモンジセセリの発生場所は局所的だ。それでも、東京近郊なら多摩川や荒川の河川敷に、ギンイチモンジセセリを見られる場所が、まだ幾つか残されている。

ギンイチモンジセセリの翅の表側は黒一色
ギンイチモンジセセリの翅の表側は黒一色

 春型よりは、夏型の方が多いようなので、夏に探せばいいと思いがちだが、夏型は、翅の裏側全体が白っぽくなるので、名前の由来である銀色の一本線がほとんど見えない。

ギンイチモンジセセリの夏型は、翅裏の銀の線がほとんど見えない。
ギンイチモンジセセリの夏型は、翅裏の銀の線がほとんど見えない。

 つまり、夏型はギンイチであってギンイチでない。だから、猛暑の夏の河川敷で、わざわざギンイチモンジセセリを探す人は、まずいない。たまたまギンイチを見かけても「なんだ、ギンイチか」という感じで、写真も撮らずに通り過ぎてしまう虫好きも多いだろう。完全な容姿差別だが、ギンイチにとっては、自然写真家気取りの昆虫記者に追い回されるわずらわしさがない分、夏は気楽な季節かもしれない。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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