マダラニジュウシトリバ(旧名ニジュウシトリバ)という蛾の羽毛のような翅を拡大して見た時、昆虫記者の脳裏に、名曲「魅せられて」を歌うジュディー・オングさんの姿が浮かんだ。オングさんが孔雀の飾り羽のような衣装を広げてこの曲を歌い、レコード大賞を取ったのは、もう40年以上前のことだ。

 オングさんの衣装が孔雀なら、「ニジュウシトリバは孔雀に似ている」と言った方が、若い人には分かりやすいかもしれない。しかし、孔雀が広げる美しい羽は、尾の飾り羽であり、翼ではない。それに対してオングさんの衣装はまさに翼であり、ニジュウシトリバの翅も翼なのだ。

 ニジュウシトリバの翅を拡大すると、左右の上翅と下翅がそれぞれ6本、計24本の鳥のフェザー(羽毛、羽根)のようなものでできていることが分かる。それゆえに、名前が、二十四鳥羽(ニジュウシトリバ)となった。名づけ親が誰かは知らないが、きっとこの小さな蛾の翅を、細かく観察してから、自信を持ってこの名を付けたのだろう。

こんな翅でもちゃんと飛べるニジュウシトリバ
こんな翅でもちゃんと飛べるニジュウシトリバ

 成虫で越冬する蛾なので、冬場に公園のトイレなどで見つかることも多いようだ。もしトイレで見つけたら、用を足すついでに、羽根の数を数えてみるのもいいだろう。今回見つけたのもやっぱりトイレ。昆虫記者は転んでもたたでは起きない。トイレに入ってもただでは出てこない。

公園のトイレの天井近くにいたニジュウシトリバ。用を足す時は忘れず周囲の虫をチェック
公園のトイレの天井近くにいたニジュウシトリバ。用を足す時は忘れず周囲の虫をチェック

 ニジュウシトリバの観察は、「羽」と「羽根」の違いの勉強にもなる。羽は本来、ウィング(翼)のことらしい。羽根はフェザー(羽を構成する1本1本数えられる部分。羽毛)なのだという。だから「はねペン」は羽ペンでなくて、羽根ペン。ニジュウシトリバの翅(昆虫の場合は羽でなく翅が正式らしい)を構成している24本の部分は、この羽根だ。

拡大してみると1本1本の羽根がよく分かる
拡大してみると1本1本の羽根がよく分かる

 ちなみにウィンド・イズ・ブローイング・フロム・エイジアンという「魅せられて」のサビの部分は、 「アジアから風が吹いている」という意味だと思っている人が意外と多いが、映画「エーゲ海に捧ぐ」のCMソングなので、エイジアンは「aegean」、つまりエーゲ海のこと。

 色々と勉強になる、ニジュウシトリバである。

(写真は過去記事も含め、特記しない限りすべて筆者撮影)