アリと言えば、働き者、規律正しい社会生活といった、品行方正な虫の印象がある。ディズニーの映画、バグズ・ライフなんかも、アリに対する好印象を強めている。

 しかし、すべてのアリが道徳的な生活を送っているわけではない。他の種類のアリの巣を乗っ取って、その巣の働きアリを好き勝手に使って子育てをするという、非人道的、非蟻道的なアリもいるのである。

 そんな悪者タイプのアリの代表がトゲアリだ。昆虫記者のように、虫を容姿で差別する不謹慎な虫好きにとって、大抵のアリは魅力的被写体ではない。しかし、そんな地味系容姿の日本のアリたちの中で、背中に立派な棘を持つトゲアリだけは非常に格好いいのである。そして、品行方正なアリの世界にあって、トゲアリは例外的なワルだ。格好いい無法者なのである。

先週撮影したトゲアリ。他のアリが巣にこもってしまう冬にもよく姿を見かける
先週撮影したトゲアリ。他のアリが巣にこもってしまう冬にもよく姿を見かける

まるで鎧を背負っているような姿だ
まるで鎧を背負っているような姿だ

 仮に今、トゲアリ(T族)がムネアカオオアリ(Ⅿ族)の巣を乗っ取ろうとしているとしよう。交尾を終えたT族の新女王は、Ⅿ族の働きアリに馬乗りになって、Ⅿ族の臭いを体に付ける。これはⅯ族の巣に侵入する際に、T族だとばれないようにするためだ。アリは臭いで仲間かどうかを識別するらしい。

 まんまとⅯ族の巣に潜り込んだT族の女王は、頃合いを見計らってⅯ族の女王を殺害。そしてⅯ族の女王になりすまして卵を産み、孵化した子供たちをⅯ族の働きアリに育てさせる。その巣のⅯ族は、女王がいないためやがて死に絶え、巣の中はT族の天下となり、乗っ取りが完了する。

ムネアカオオアリの巣。中央は女王で、後ろに卵が見える。トゲアリとよく似た色合いなので、巣の乗っ取りの標的になりやすいのかもしれない
ムネアカオオアリの巣。中央は女王で、後ろに卵が見える。トゲアリとよく似た色合いなので、巣の乗っ取りの標的になりやすいのかもしれない

リング上で相手を威嚇し合う悪役プロレスラーのような2匹のトゲアリ
リング上で相手を威嚇し合う悪役プロレスラーのような2匹のトゲアリ

 こんなアリの生態を研究している昆虫学者は、本当に偉いと思う。遊び半分で虫の写真を撮っている昆虫記者のような半端者は、そういう学者の爪の垢を煎じて飲むべきだ。

 こうしたトゲアリの行動は、どう見ても「乗っ取り」だが、昆虫学者の間では「一時的社会寄生」と呼ばれているらしい。乗っ取りが終わった後は、まっとうなアリらしい社会生活を送るので、過去の罪は見逃してほしいという感じだ。あまり褒められた生活態度ではないかもしれないが、品行方正な他のアリたちと比べ、トゲアリの方が人間的だと感じるのは、昆虫記者の中にワルの血が流れているからかもしれない。(写真は過去記事を含め特記しない限りすべて筆者撮影)