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秋の水辺のカマキリの自殺願望=脳をコントロールする寄生虫の恐怖

天野和利時事通信社・昆虫記者
秋の水辺で見かけるカマキリの大半は寄生虫に脳を支配され自殺願望を抱いているi

 秋になると、なぜか水路脇の金網などでカマキリの姿を見ることが多くなる。不思議な光景だが、このカマキリたち(なぜかハラビロカマキリが多い)のほぼほぼ全部が入水自殺を考えているという、恐ろしい事実を知る者は少ない。

 金網につかまっていたら、餌のバッタや蝶を捕まえることはできない。それなのになぜ、カマキリたちはそこに居るのか。カマキリたちは、水に飛び込みたくてたまらないのだ。本来水浴びなどしないカマキリがなぜ、水を恋しがるのか。それはハリガネムシという寄生虫によって思考回路を書き換えられてしまったからだ。

何となく思いつめた表情のハラビロカマキリ。この金網の下はかなり流れの速い水路。
何となく思いつめた表情のハラビロカマキリ。この金網の下はかなり流れの速い水路。

カマキリを捕まえてみると案の定ハリガネムシに寄生されていた
カマキリを捕まえてみると案の定ハリガネムシに寄生されていた

ハリガネムシの長さは40センチほどだった。こんなのがお腹の中にいたらら、それは苦しいだろう
ハリガネムシの長さは40センチほどだった。こんなのがお腹の中にいたらら、それは苦しいだろう

 ハリガネムシは基本的には水生生物なのだが、なぜか活発な成長期を陸上の肉食昆虫の腹の中で過ごす。

 ハリガネムシの一生は次のような過程をたどる。水中で交尾→水中で産卵→孵化後の小さな幼生が、水の中で暮らすユスリカ、カゲロウなどの幼虫に食べられ、その消化管内で休眠→ユスリカ、カゲロウなどが大量に羽化し地上に拡散→ユスリカ、カゲロウがカマキリ、カマドウマなどの肉食昆虫に捕食される→肉食昆虫の消化管の中でハリガネムシの幼生が目覚め、2、3カ月かけて大きく成長する。

 ここで問題になるのが、どうやって陸上の肉食昆虫の体内から水中に移動するかだ。その方法は、カマキリなどの脳をコントロールして入水自殺させるという信じがたいものだ。

 水に飛び込んだカマキリのお尻から、まさに針金のようなハリガネムシが脱出し、本来の水中生活に戻っていくのである。

 その後のカマキリは大型の魚に食べられたり、溺れ死んだりするのだろう。岸に這い上がれたとしても、脳が変になっているので、また水に飛び込むのかもしれない。

水辺の草の上で苦しそうなポーズのカマキリ。この腹の様子は絶対にハリガネムシに寄生されている
水辺の草の上で苦しそうなポーズのカマキリ。この腹の様子は絶対にハリガネムシに寄生されている

やっぱり出てきたハリガネムシ
やっぱり出てきたハリガネムシ

地上では知恵の輪のように丸まってしまうことが多いハリガネムシ
地上では知恵の輪のように丸まってしまうことが多いハリガネムシ

 そんなカマキリを毎年昆虫記者は救出している。水辺のカマキリを捕まえて、腹を圧迫すると、危険を感じたハリガネムシが尻穴から出てくる。ハリガネムシは水中に、カマキリは草原に放してやると、何だか良いことをした気分になる。その後カマキリが再び入水自殺を図っても、それは昆虫記者の知ったことではない。

今年も先日、ハリガネムシに寄生されたカマキリを救出。左の小川に飛び込もうとしていた
今年も先日、ハリガネムシに寄生されたカマキリを救出。左の小川に飛び込もうとしていた

今回のハリガネムシは、カマキリが小さかったためか小型だった
今回のハリガネムシは、カマキリが小さかったためか小型だった

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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