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ブルー・オリジン、ジェフ・ベゾスら4名が高度100キロメートルを超える有人初宇宙飛行を達成

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
出典:Blue Origin中継映像より

2021年7月21日、日本時間午後10時すぎ、米Amazonの元CEOジェフ・ベゾス氏が設立した宇宙開発企業Blue Origin(ブルー・オリジン)は、同社の弾道飛行型宇宙システム「New Shepard(ニュー・シェパード)」で初の有人飛行を実施した。クルー・カプセル(宇宙船)はベゾス氏ら4人の搭乗者を高度100キロメートル超の宇宙の入り口まで運び、無事に帰還した。

出典:Blue Origin中継映像より
出典:Blue Origin中継映像より

ニュー・シェパードは、ブルー・オリジンが開発する弾道飛行型の再使用ロケットシステム。6人搭乗可能なクルー・カプセル(宇宙船)と独自開発のBE-3ロケット部分から構成され、テキサス州の射場で高度約100キロメートルの宇宙まで繰り返し飛行できる。2015年から打ち上げ試験を開始し、これまで15回の試験飛行と無重力実験を行ってきた。ニュー・シェパードの名前は、アメリカ初の有人宇宙飛行を達成したアラン・シェパード宇宙飛行士にちなんでいるが、乗客が搭乗する初飛行は1969年にアポロ11号が世界初の月面着陸に成功したのと同じ、7月20日に行われた。

初有人飛行では、4名が搭乗した。ジェフ・ベゾス氏と弟のマーク・ベゾス氏のほか、1960年代に女性の宇宙飛行士候補として訓練を受けたものの、訓練プログラム中断のため宇宙飛行士選抜の機会を得られなかったパイロット、ウォリー・ファンクさんが82歳という最高齢の宇宙飛行記録更新を目指して参加した。6月に約30億円で初飛行の権利をオークションで落札した人物は搭乗機会を見送り、18歳の大学生オリバー・ディーメンさんが最年少の宇宙飛行記録更新を目指して加わった。

オリバー・ディーメンさん(左)とウォリー・ファンクさん(右)出典:Blue Origin中継映像より
オリバー・ディーメンさん(左)とウォリー・ファンクさん(右)出典:Blue Origin中継映像より

テキサス州西部のブルー・オリジン射場では、打ち上げおよそ30分前から4名のクルーがファンクさんを先頭に歩いてクルーアクセスタワーの階段を上り、宇宙船に搭乗した。宇宙船は「世界の宇宙船で最も窓が大きい」ことを誇っており、搭乗者は宇宙から地球を見下ろす光景を楽しめるという。

出典:Blue Origin中継映像より
出典:Blue Origin中継映像より

現地は晴れた20日朝の飛行となった。打ち上げは予定時刻の15分前に中断されたものの、すぐに再開。7分ほど遅れての打ち上げとなった。

出典:Blue Origin中継映像より
出典:Blue Origin中継映像より

打ち上げからおよそ4分、ニュー・シェパードは35万1210フィート(約107キロメートル)の最高高度に達した。国際的に宇宙の境界線とされる高度100キロメートルのカーマン・ラインを超え、数分間の無重力体験と宇宙からの眺めを搭乗者に提供して、下降に転じた。ブルー・オリジンの発表によれば、記録は対地高度で105キロメートル、海面高度で107キロメートル、飛行時間は10分10秒だった。

出典:Blue Origin中継映像より
出典:Blue Origin中継映像より

出典:Blue Origin中継映像より
出典:Blue Origin中継映像より

7月11日に弾道宇宙飛行に成功したヴァージン・ギャラクティックのUSS ユニティ宇宙船は有翼の宇宙船が滑空して着陸する方式だが、ニュー・シェパードはパラシュートで地上に着陸する方式だ。ブースター(ロケット)が射点に着陸するのに対し、宇宙船は射点に近い地表にそのまま着陸する。無事に着陸したニュー・シェパードのクルーカプセルの元へスタッフが駆けつけ、無事に帰還した4名を出迎えた。ウォリー・ファンクさんは「アストロノート」の声と共に出迎えられ、およそ60年越しの宇宙飛行達成となった。

出典:Blue Origin中継映像より
出典:Blue Origin中継映像より

ニュー・シェパードはこれまでにも無重力実験機器を搭載した無人飛行を行っていた。今回の有人飛行達成で、ブルー・オリジンは商業飛行を無事に開始できることとなった。年内にあと2回の飛行を予定しているという。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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