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【はやぶさ2地球帰還】はやぶさ2、分離後のカプセルを上空から観測

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
撮影:秋山文野

2020年12月6日未明、小惑星探査機はやぶさ2から分離された小惑星の表面サンプルが入っていると見られるカプセルがオーストラリア南部の砂漠地帯に着地する。前日の12月5日午後、はやぶさ2はカプセルを分離して地球を離れる軌道修正を行う予定だ。はやぶさ2とカプセルの分離からおよそ12時間後の6日午前2時半ごろ、探査機は地表に向かって落下しながら輝くカプセルを上空から撮影する予定だ。

左から津田雄一プロジェクトマネージャ、國中均宇宙科学研究所所長、吉川真ミッションマネージャ。撮影:秋山文野
左から津田雄一プロジェクトマネージャ、國中均宇宙科学研究所所長、吉川真ミッションマネージャ。撮影:秋山文野

帰還に先立つ12月4日午後、JAXA宇宙科学研究所ではやぶさ2プロジェクトチームの会見が行われた。登壇者は津田雄一プロジェクトマネージャ、國中均宇宙科学研究所所長、吉川真ミッションマネージャの3名。

12月5~6日のはやぶさ2の動き

津田PMによれば、12月1日に今秋から実施してきた地球帰還のための最後の軌道修正「TCM-4」を実施した。秒速4.6センチメートルと比較的小さな軌道制御であるものの、カプセル着地予定をオーストラリア南部、ウーメラ砂漠の着地予定地点で南東方向に33キロメートル移動させる効果があり、地球から174万キロメートル離れたところからカプセルの着地予定領域を150×100キロメートルの楕円の範囲まで追い込むことができたという。

はやぶさ2は、予定の地域に向かって直径1キロメートルのチューブ(回廊)を飛行しているような状況にある。極めて正確な飛行を実現するため、スラスタ(小型エンジン)の噴射や姿勢変更を抑えて探査機の進路のブレをなくす「外乱抑止モード」で慎重に飛行を続けてきた。それでも残るカプセル着地地点の不確実性は、運用ではままならない地上の風の影響によるものだという。

はやぶさ2帰還時のリエントリ(再突入)スケジュール。出典:JAXA 小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会資料
はやぶさ2帰還時のリエントリ(再突入)スケジュール。出典:JAXA 小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会資料

はやぶさ2プロジェクトチームは、12月5日朝から24時間連続して探査機を監視する運用を開始する。NASAの深宇宙アンテナ施設DSNではやぶさ2を追い続け、日本時間10時30分にカプセル分離のための運用を開始。11時15分には6年間温存されてきたカプセル内部の電源にが入り、パラシュート開傘などカプセルで必要な動作を開始できるようになる。12時59分にはカプセル分離に向けて正しい姿勢で大気圏再突入するための準備を開始する。最後に探査機の姿勢を10度傾け、14時13分に最後のカプセル分離姿勢を取って14時30分にはやぶさ2本体からカプセルを分離。分離後のはやぶさ2は大きな姿勢変更を行い、分離から1時間以上後の15時30分には姿勢を立て直し、18時まで3回に分けて地球を離脱するスラスタ噴射「TCM-5」を行う。

分離後のカプセルとはやぶさ2。出典:JAXA 小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会資料
分離後のカプセルとはやぶさ2。出典:JAXA 小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会資料

分離されたカプセルは、6日2時28分27秒から高度120キロメートルで大気圏に再突入する。22秒後の2時28分49秒以降は「火球フェーズ」といわれる大気圏再突入の熱でカプセルが発光し明るく見える段階に入る予定だ。満月よりは暗いものの、金星よりも明るいマイナス7等級より明るく見えると考えられ、はやぶさ2は高度数百キロメートルを飛行しながら、自身から分離されて間もないカプセルの撮影を試みる。

はやぶさ2、自身の成果を撮影

吉川ミッションマネージャによれば、カプセル撮影は探査機側面に取り付けられた航法カメラ「ONC-W2」を地球方向に向けて撮影する。「撮影は難しく、どのような写真になるか、やってみないとわからない」という。

カプセル分離という主要ミッション最後の大仕事を終えたばかりになるはずのはやぶさ2が、なぜこのような難しい撮影に挑むのか。津田PMは「分離したカプセルを撮影しようというきっかけは、カプセルを分離してTCM-5の後に何かできることはないか、『火球状態になっているカプセルを撮影できれば恰好いい』というところから始まっている。撮れれば何かしらの解析はできると思うが、かなり難しいことなのでどう写るか計算はしてみたものの読みにくい。本当に計算通り写るのか、ピンぼけしないか、まだわからない。そんな中でも、これまで研鑽を積んできたサイエンスチームと軌道計画チームが力を合わせたならばどこまでできるのか試す絶好の機会だと思っている。こういったチャンスがあると、はやぶさ2のチームには『やらないではいられない』という人たちが多い。やれることはやろうと思っている」と語り、ミッション最後の山場でも意気軒高なチームの様子をうかがわせた。

はやぶさ2から分離されたカプセルは、この後6日午前2時31分からパラシュートを開傘し、2時47分から57分ごろに着地すると見られる。地上ではJAXAによる回収班が着地予定地域を取り囲むように観測を行い、6日日中からの回収に向けてカプセルの位置の推定を行う予定だ。

一方、はやぶさ2本体は地球を離れて新たな小惑星探査「拡張ミッション」に向かう予定で、12月6日午前6時30分ごろから「さよなら地球」という光学航法カメラによる地球撮像を予定している。さらに12月7日以降は将来の深宇宙通信技術の獲得を目指し、LIDARによる地球-探査機間の光リンク実験を行うという。

はやぶさ2は、小惑星のサンプルの入ったカプセル地球帰還という最大のミッションを実施しつつ、新たな旅、新たな観測を進めていく。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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