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スペースX宇宙船、5月に有人初飛行へ。ボーイング宇宙船はソフトウェア問題のため大幅後退

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
Photo credit: SpaceX

2011年のスペースシャトル退役から9年、アメリカが開発した宇宙船による有人飛行の再開はスペースXのCrew Drago(クルードラゴン)宇宙船で実施されることになる見通しだ。米メディアArstechnicaの2月11日付記事によれば、初の有人飛行試験は5月7日打ち上げを目指しているという。ダグ・ハーレー宇宙飛行士、ボブ・ベンケン宇宙飛行士の2名が搭乗する。

スペースXは、NASAの商業有人宇宙輸送計画のもとで、国際宇宙ステーション(ISS)へ宇宙飛行士を送る宇宙船の開発を進めている。2019年3月に無人打ち上げ・ISSドッキング試験、2020年1月に宇宙船の緊急脱出試験を成功させ、開発の大きな目標をクリアした。最大のマイルストーンである宇宙飛行士が搭乗する打ち上げ試験に向けて準備が進められており、イーロン・マスクCEOの発言では「今年の4月以降(第2四半期)」との日程が示されていた。

NASAサイトでは、フロリダ州の射場に到着し、機体の電磁干渉試験(EMI)実施中のクルードラゴン宇宙船の画像が公開された。打ち上げ日は明示されていないものの、クルードラゴンの準備が進みつつある。

NASA ジョンソン宇宙センターのマーク・ガイヤー所長がArstechnicaに語ったところでは、5月7日の目標はまだ暫定的で、NASAのジム・ブライデンスタイン長官や有人宇宙部門の責任者全員が合意する必要がある。また、2月には宇宙船のパラシュートの試験が予定されており、試験結果を確認した上で判断する必要もある。

とはいえ、NASAにはできるかぎりクルードラゴンの有人飛行を急ぎたい事情もある。現在、ISSに滞在している3人のアメリカの宇宙飛行士のうち、ジェシカ・メイヤー宇宙飛行士とアンドリュー・モーガン宇宙飛行士は4月に帰還する予定だ。4月以降はクリス・キャシディ宇宙飛行士とロシアの2名が滞在することになる。ISSで実施する実験予定の遅延を避けるため、NASAはアメリカ人宇宙飛行士が1名しかいない期間を可能な限り短くしたい意向だ。

クルードラゴン宇宙船の有人試験飛行では、1週間程度ISSに滞在することが計画されていた。1月のクルードラゴン緊急脱出試験の後、ブライデンスタイン長官は「有人飛行をISS到着後すぐに帰還する短期ミッションとして行うか、または長期で実施するかこれから決定しなくてはならない」と延べ、3ヶ月の長期滞在ミッションとして実施する検討も行っていると明らかにした。

クルードラゴン搭乗のリハーサルを行うダグ・ハーレー宇宙飛行士(左)とボブ・ベンケン宇宙飛行士(右)。Image Credit: NASA/Bill Ingalls
クルードラゴン搭乗のリハーサルを行うダグ・ハーレー宇宙飛行士(左)とボブ・ベンケン宇宙飛行士(右)。Image Credit: NASA/Bill Ingalls

ハーレー、ベンケン宇宙飛行士がクルードラゴンの試験飛行からISS長期滞在を行う場合、追加の訓練が必要だ。特にベンケン宇宙飛行士は、スペースシャトル時代のEVA(船外活動)経験から時間が経っていることから、こうした訓練が必要になるという。

スターライナーのソフトウェア開発プロセスに問題

一方で、スペースXと共に有人宇宙船CST-100 Starlinter(スターライナー)を開発していたボーイングは、12月の飛行試験の解析結果から新たな不具合が報告された。

NASAの商業有人輸送プログラムサイト、および2月7日のNASA発表によれば、1月に実施されたスターライナー宇宙船の飛行試験の際、ミッション経過時間タイマーが正常な設定よりも11時間遅れていたため、宇宙船をISSにドッキングする軌道に乗せることができなかった。のみならず、帰還時にサービスモジュールをクルーが乗ったカプセルから切り離す制御プログラムにエラーがあった。飛行試験実行中にボーイングの運用チームが地上からプログラムのエラーを発見して正常なものに書き換えたため、実際には問題が起きなかったものの、潜在的にはスターライナー宇宙船が損傷する可能性もあったという。

問題はNASA内部の航空宇宙安全諮問委員会が指摘したものだ。クルーの安全に関わるソフトウェア問題があったことだけでなく、開発中に各種の試験を行っていたにもかかわらず、重大な問題が飛行試験時まで見つからなかったことが問題だとNASAは指摘している。

詳細な調査は2月末までかかるため、スターライナーが無人飛行試験をもう一度実行するかどうかの判断は今後になる。スターライナーの有人初飛行は2020年夏に予定されているが、状況が不透明なため2020年にISSへの宇宙飛行士輸送を担う役割はスペースXになる見通しだ。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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