このかゆみ、鼻水は花粉のせい?

5~6月はイネ科植物の花粉症シーズン(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

5月、6月は意外に花粉症のシーズンだ。これは、5月中旬から夏の代表的な花粉症の原因植物、カモガヤ、オオアワガエリ、ネズミホソムギなどイネ科植物の花粉の飛散時期を迎えるため。Twitterには#カモガヤ#花粉症のハッシュタグもあり、「目がかゆい」「くしゃみ、鼻水が出る」「肌がかゆい」などの症状を訴える人も珍しくない。

ところで「このかゆみは本当に花粉症が原因なのか」を確かめようとすると意外に難しい。主要な花粉症予報サービスはすでに終了している。スギ、ヒノキのシーズンが終わったあとに花粉症の情報を得ることは難しいのだ。

画像:筆者提供
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かろうじて東京都では情報がみつかる。福祉保健局は「東京都の花粉情報」サイトの中で「夏から秋の花粉」情報を提供している。千代田区の観測地点では5月初旬に1平方センチメートルあたり0個だったイネ科花粉の量は、5月13日から19日までの1週間で11.0個(やや多い)に急上昇。次の5月20日から26日の週には6.2個(少ない)に下がっている。スギ花粉のピーク時とは比べものにならないが、2月のスギ花粉飛びはじめの時期くらいにはイネ科花粉が飛んでいたことはうかがえる。

情報提供されているとはいえ、東京都のサイトにデータが掲載されるまでに1週間以上のタイムラグがある。今この瞬間に感じている症状が花粉症なのか、対策をどうすればよいのか、先週の花粉の個数情報で判断することは難しい。

これは、観測拠点で飛んできた花粉をキャッチし、顕微鏡で数えて数値を公表するという手法の限界でもある。患者数の多いスギ花粉の場合は、自動花粉計測器が花粉を認識しデータを出すことが可能だ。また、スギ花粉はスギ林から100キロメートルも遠くまで飛散し、12か所の都内花粉観測拠点でデータが得られる。だが夏の花粉症の原因になるカモガヤなどの草は200~300メートルほどしか花粉が飛ばない。仮にこの距離に合わせて花粉観測拠点を設置しようとすると、アメダス(17キロメートル間隔で設置)の100倍、全国13万か所もの拠点が必要になる計算だ。雨量計と違い、人の住んでいない地域に花粉観測拠点は不要だとすればもう少し数を減らせるかもしれないが、設置運用コストがかかりすぎる。

花粉症の症状を判別して適切な対策をするには、医療機関を受診しアレルギー検査の結果を元に治療を行うのが最もよい。だが、平日にすぐに病院へ行きたいと思っても難しい人はすくなくない。また判断に迷う場合もある。かゆみや鼻水といった症状が花粉から来ている場合は、窓をしめて家の中へ花粉の侵入を防ぎ、エアコンと空気清浄機をつける対策が有効だ。一方で、同じアレルギー症状がハウスダストから来ているとすれば、窓を開けて換気と掃除をしたほうがよい。同じ症状でも対応が正反対だが、原因がわからない場合どうすればよいのか。

アレルギー検査の例。カモガヤ、ブタクサよりもハウスダストにアレルギーがある。「ガ」など気がついていなかったアレルゲンも見つかる。画像:筆者提供
アレルギー検査の例。カモガヤ、ブタクサよりもハウスダストにアレルギーがある。「ガ」など気がついていなかったアレルゲンも見つかる。画像:筆者提供

Googleトレンドがその答になる、という調査結果がある。シーズンになって花粉が飛び始めると、世界各国で人々はGoogleで「花粉」「花粉症」「アレルギー」といった単語を検索し始める。地域の検索ボリュームの高まりを示すGoogleトレンドの変化から花粉症の兆候がわかるというものだ。気象データや衛星データから花粉症のピークとGoogleトレンドの変化を比較する研究が多数行われている。米ワシントン大学の研究者によれば、人口の多い14の都市で「花粉」というキーワードの検索ボリュームと研究機関の花粉飛散調査が1週間以内の誤差で一致するという。人口200万人以上の都市ならばかなり精度が高い。

Googleトレンドで1ヶ月間の花粉検索情報を調べる。画像:筆者提供
Googleトレンドで1ヶ月間の花粉検索情報を調べる。画像:筆者提供

Googleトレンドを使う方法には、不安定さもある。15カ国で秋の花粉症と原因植物「ブタクサ」のGoogleトレンド反映を調査した研究によれば、使われている言語の中で「ブタクサ」を意味する適切な単語選ばなければトレンドに現れないという。日本語でいえば、「ブタクサ」の代わりに「クワモドキ」で検索してしまうようなものだ。また、近年ロシアでは花粉症の患者が急増し、小さかったアレルギー対策薬市場が成長しつつあるという。こうした変化の時期には、検索結果の変化も大きいと考えられる。

もっと気軽に、使いやすく「今、なんの花粉症が来ているのか」調べられる方法はないものだろうか? 欧州は、人工衛星のデータを使ってそれを可能にした。フランス企業が開発したアプリに都市名を入力するだけでいつでも花粉症のリスクを調べることができる。

フランス語のみだがひと目で花粉情報がわかるMeteoPollen。画像:筆者提供
フランス語のみだがひと目で花粉情報がわかるMeteoPollen。画像:筆者提供

2018年、フランスの気象会社Weatherforceは「MeteoPollen」という無料アプリをリリースした。調べたい都市名(またはスマートフォンの位置情報)を入力するだけで、ヨモギ、カバノキ、イネ科、オリーブとフランスで一般的な4種類の花粉飛散情報がわかるというもの。表示は4段階でリスクが大きくなると緑から黄色、オレンジと表示が変化していく。気温や天気などの情報も表示される。花粉症患者が日本からフランスへ旅行する場合も利用できる。現在はフランス国内の情報だけだが、欧州すべての都市を対象にサービスを広げ、ブタクサのデータも追加する予定だという。

これは、欧州の全地球観測計画「Copernicus(コペルニクス)」で提供される衛星や気象データを使ったアプリだ。コペルニクス計画には「Copernicus Atmosphere Monitoring Service(コペルニクス大気観測サービス:CAMS)」という大気データを提供するプラットフォームがある。60種類の衛星搭載センサーや地上の気象観測施設からのデータを統合。温度や湿度、風速といった基本的な情報から、カバノキ、イネ科などの雑草、オリーブ、ブタクサという4種類の花粉飛散情報が閲覧できる。欧州の気象機関や企業はCAMSデータを利用してMeteoPollenのようなエンドユーザー向けのアプリやWebサービスを開発、配布できる。

日本では、黄砂が花粉症の症状を悪化させることが知られている。CAMSでは、花粉症に影響する二酸化窒素や二酸化硫黄といった大気汚染物質のデータを加えて、花粉のリスクを算出する数値モデルを作り上げている。MeteoPollenは、CAMSプラットフォームを使った製品の第一弾として2016年から開発された。CAMSのデータには、日本の温室効果ガス観測衛星「いぶき(GOSAT)」のデータも使用されている。

衛星という広域を低コストに調べられるツールを利用すれば、これまで地上のセンサー網では埋められなかった夏から秋の花粉症という問題を解決できる。2019年は、8~9月のブタクサアレルギーが日本を含む世界各国で増えるという予測もある。年内はともかく、近い将来にはせめて「この症状は花粉症なのか」で悩まずにすむようなツールを日本でも実現させたいものだ。