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はやぶさ2、タッチダウンから始まる2つのリュウグウの「答え合わせ」

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
タッチダウン直後のはやぶさ2による画像と津田雄一PM。撮影:秋山文野
2月22日07:30ごろ(機上時刻)はやぶさ2がタッチダウン直後に航法カメラで撮影した画像。クレジット:JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研
2月22日07:30ごろ(機上時刻)はやぶさ2がタッチダウン直後に航法カメラで撮影した画像。クレジット:JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研

2019年2月22日午前、JAXAの小惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウへの最初のタッチダウン(接地)に成功した。14年前、はやぶさ初号機による小惑星イトカワへのタッチダウンの際には、採集用の弾丸が発射されなかったという不運に見舞われた。今回のはやぶさ2第1回タッチダウンでは、用意された手順がすべて実行されたこと、探査機から送られてきたデータで火薬を使った部分で温度の上昇が確認されたことから、弾丸の発射は行われタッチダウンは成功と考えられる。

成功の一報から3時間後、はやぶさ2がタッチダウンの直後に航法カメラで撮影した画像が公開された。リュウグウでは事前に期待されていた砂の多い場所が見つからず、岩だらけのリュウグウの表面に隙間を縫うようにして精密な着陸を成功させたはやぶさ2だが、画像には探査機が上昇中に舞い上がった砂が写っている。まるで離れていく探査機に乙姫が投げかけた衣のようだ。

津田雄一プロジェクトマネージャによれば、「スラスター(小型のエンジン)の噴射あるいはサンプラーホーンでひっかけて巻き上げたものか、(砂が)上昇中に探査機と一緒についてきている。ゴツゴツして岩だらけとはいっても、このぐらいの粒子の舞い上がりはあったといえる」と見解を示した。

この画像に写ったものをめぐって、早速サイエンティストの間で議論が始まっているという。吉川真ミッションマネージャによれば、画像に写っている砂粒の形や大きさ、探査機の下で黒く見えている部分が、リュウグウを構成する岩石の硬さや密度などの手がかりになるというのだ。津田プロマネによれば、「タッチダウンの際、第一に想定されていたサンプラーホーンが曲がったことではなく、姿勢が傾いたことを検知して接地を確認し弾丸が発射された。想定の1番目ではなく2番目というのは、何か意味するところがあると思う。それは、サイエンスにとって非常に重要である硬さかもしれない。そういう情報がわかったというのが得るものがあった」と述べている。

プロジェクタイル発射実験で使われた、リュウグウの表面を模擬したターゲット  クレジット:JAXA/東京大
プロジェクタイル発射実験で使われた、リュウグウの表面を模擬したターゲット クレジット:JAXA/東京大

タッチダウン実施の前、2018年の12月に、はやぶさ2チームは地球で4年間保管されていた実物と同じサンプラーホーン(サンプル採取装置)を使い、弾丸発射試験を行っている。このときターゲットになったのは単なる岩ではなく、材質、形状ともにリュウグウに似せて作った岩石だ。「実験室の中の模擬リュウグウ」といえるもので、東京大学の宮本秀昭教授らのチームが制作した。岩石の形状は、2018年9月にはやぶさ2からリュウグウへ向けて投下された2台の探査ロボット、MINERVA-II1のローバー1Aとローバー1Bが撮影したリュウグウ表面の精細な画像を参考に作られた。

MINERVA-II1 Rover-1Aが撮影したリュウグウ表面の写真  クレジット:JAXA
MINERVA-II1 Rover-1Aが撮影したリュウグウ表面の写真 クレジット:JAXA
MINERVA-II1 Rover-1Aが撮影したリュウグウ表面の写真  クレジット:JAXA
MINERVA-II1 Rover-1Aが撮影したリュウグウ表面の写真 クレジット:JAXA

久保田孝研究総主幹によると、「リュウグウの模擬地形を作って弾丸を撃つ試験は、空気があり、重力の違いもあるところで行った。材質は同じ炭素系だが完全に同じではないという違いがあるとはいえ、地上で弾丸を発射すると、かなり穴もあいて広がるということがわかった。真空で重力が小さいところならばこういうふうに舞い上がる、ということがある程度は想像できると思っている。地上の実験もかなりいい線いっていたのかなと思う」という。

リュウグウの表面から離れるはやぶさ2と共に舞い上がった砂には、タッチダウンというはやぶさ2の挙動そのものから小惑星を知る手がかりが含まれている。はやぶさ2がこれまで集めた科学的データをもとに遠く離れた地球の実験室に小さな模擬リュウグウを作り、その確かさをまたはやぶさ2が確かめる。壮大な答え合わせは、順調ならばあと2回できるはずだ。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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