無償の衛星画像でビジネスを加速するデータプラットフォーム「Tellus」ベータ版提供開始

JAXAが運用中の「だいち2」からレーダー画像を提供。Credit: JAXA

2018年12月21日、さくらインターネットは、日本の地球観測衛星だいち(ALOS)、だいち2(ALOS2)などの衛星画像を無料で閲覧、ビジネスに利用できるデータプラットフォーム「Tellus(テルース)」のベータ版を公開した。今後はNECが開発した分解能0.5メートルの地球観測衛星ASNARO-1・2や欧州のレーダー衛星、気象庁の持つ約80年分の気象データなどを利用できるようになる。

Tellusベータ版の画面。だいち(ALOS)による東京都周辺の観測画像
Tellusベータ版の画面。だいち(ALOS)による東京都周辺の観測画像

2006年に打ち上げられたJAXAの地球観測衛星だいちは、カメラと同様の光学センサーで地表を2.5メートルの分解能、つまり1ピクセルが2.5メートルに相当する解像度で撮影することができ、レーダーによる観測機能も備えた高度な地球観測衛星だった。2011年に運用を終了するまで、東日本大震災の被災地を含む日本および世界の光学、レーダー画像を撮影し続けた。

世界ではこうした地球観測衛星が米欧を始め宇宙機関、民間を問わず多数運用されており、地球全体を毎日撮影し続けている。Googleマップなど無料で画像を閲覧できるWebサービスも多数ある。

だが、企業などが任意の場所、日時の衛星画像を利用しようと考えると大変な手間がかかった。希望するタイプの画像を撮影しているのはどの衛星なのか調べ、画像販売サイトを通じて撮像リクエストを出す。「シーン」と呼ばれる一定の領域を撮影した画像は数万円から十数万円と高額な上に、リクエストから入手まで数日かかる。衛星が狙った地点の上空を通過するのは数日に1回であることも多く、光学衛星の場合は夜間、悪天候の場合は撮影できない。レーダー画像の場合は、法的な制約によって海外の衛星データが提供されていないケースもあった。

経済産業省は、限られた研究機関などの利用に留まっていた衛星画像を、ITスキルを持った人が自由に利用でき、ビジネス創出のきっかけになることを目的に、「平成30年度政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備事業」により無償の衛星画像データ提供サイトの開始を決めた。2018年5月にさくらインターネットが委託先として、Tellusと命名された衛星画像データサイトの開発・運営を発表。およそ7ヶ月でベータ版公開を開始した。

Tellusベータ版はWebブラウザ上で衛星画像を閲覧、データを利用できるインターフェイスとなっている。衛星画像は人工衛星から降りてきたばかりの生データの段階から、衛星に搭載されたセンサー特有の歪みの補正など、基本的な下処理を行った状態で提供される。無償地図情報のオープンストリートマップや気温・雨量、植生、土地利用といったデータの重ね合わせもできるようになっている。

ALOS(だいち)のデータを植生別に処理した画像。
ALOS(だいち)のデータを植生別に処理した画像。

当初提供されるのは、日本が持つ地球観測衛星だいちによる光学・レーダー画像(AVNIR-S、PALSAR)、だいち2によるレーダー画像(PALSAR-2)だ。今後は衛星やセンサーの種類を増やし、NECが開発した分解能0.5メートルの光学衛星ASNARO-1、分解能1メートルのレーダー衛星ASNARO-2や、日本の気象衛星ひまわりの画像が利用できるようになる目標だという。NASAが持つTERRAや、欧州のレーダー衛星Sentinel-1(センチネル-1)の画像なども順次追加する方向で調整が進められている。1936年から気象庁が保管している気象観測記録をデジタル化したデータや、スマートフォンから取得した人の流れなど、衛星画像と組み合わせ可能なデータも順次追加されていく。

2018年3月6日、ASNARO-1が撮影した九州南部の霧島連山(新燃岳)。Credit: NEC
2018年3月6日、ASNARO-1が撮影した九州南部の霧島連山(新燃岳)。Credit: NEC

ベータ版では画像の閲覧や基本的なユーザーインターフェイスの確認ができ、2019年2月には正式版バージョン1を公開する予定だ。さくらインターネットが持つクラウド環境での処理能力を利用して、本格的な解析や衛星画像を利用したアプリケーション開発ができる統合開発環境になる。

打ち上げ前に公開されたNEC開発のASNARO-2。撮影:秋山文野
打ち上げ前に公開されたNEC開発のASNARO-2。撮影:秋山文野
2018年3月4日ASNARO-2 緊急テスト撮像で撮影された九州南部の霧島連山(新燃岳)。Credit: NEC
2018年3月4日ASNARO-2 緊急テスト撮像で撮影された九州南部の霧島連山(新燃岳)。Credit: NEC

衛星画像に「市場」はない?

世界で衛星画像が無償で利用できる衛星データプラットフォームには、Amazon.comによるEarth on AWS、オーストラリア公営のAustralian Geoscience Data Cube、欧州の地球観測衛星プログラム“Copernicus”によるDIASなどがある。ただし、利用できるデータは光学衛星では米国のLANDSATシリーズ(分解能30メートル程度)、欧州のSentinel-2(分解能10メートル)などが中心で、商用利用で求められる1メートル以下の高分解能の画像は教育用などに限られていた。Tellusも提供開始直後は10メートル程度の中分解能画像だが、ASNARO画像が利用できるようになれば高分解能画像を気軽に利用し、新たなビジネスを興すことができるようになる。

衛星画像が無償で利用できるようになることで何が生まれるのだろうか。そもそも、現在日本には衛星画像市場といわれるようなマーケットはまだほとんどないといえる。さくらインターネット xData Alliance Projectの山崎秀人シニアプロデューサーによれば、「衛星画像は測量、つまり土木の分野で利用されてきたもので、産業としての規模は数千万円から数億円程度だと思います。それ以外では、たとえば10シーン程度の画像を処理して差分を抽出して、経年変化を見て、地盤がどのように変化したのか、といったことを研究する。アウトプットは論文です」という。そこで、「ログインすれば衛星画像に触れるようにすれば、何億円もの初期投資が不要ですから、スタートアップでも使えます。大企業だけでなく、スタートアップがたくさん出てきて初めて、衛星画像は経済の領域へ入ってくると思います」との狙いだという。

利用しやすいプラットフォームを提供することに加えて、衛星画像を扱える技術者の拡大も必要だ。筆者は以前に地球観測衛星を開発運用する企業に対し、画像を解析できるデータサイエンティストが日本にどの程度存在するのか質問してみたことがある。「日本リモートセンシング学会の会員数が1000人前後であり、ほぼそれが衛星データサイエンティストのコミュニティ規模といえるのではないか」との答だった。

そこでさくらインターネットでは、協力企業xData AllianceのSIGNATEと共に、レーダー衛星画像から土砂崩れの領域をより高い精度で自動検出するアルゴリズムの開発を目指すコンテスト形式の「Tellus Satellite Challenge」を実施した。第1回コンテストでは、目視でも視認が難しい土砂崩れの領域を検出することに成功したという。第2回コンテストは、ASNARO-1の光学データを利用して2019年頭に行われる予定だ。

衛星画像は、入手の難しさや処理に必要なコンピューターの処理能力などのハードルがあることから、利用の拡大にはさまざまな公的支援が必要だ。Tellusという入手しやすさと処理能力を備えたプラットフォームができたことで、「まずは触ってみよう」という環境が整ったことになる。