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ジェフ・ベゾスとリチャード・ブランソン、宇宙旅行の切符を買うならどちらから?『宇宙旅行入門』でわかる

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
宇宙旅行の飛行経路 Image Credit: Virgin Galactic

これまでに、宇宙へ旅行に行った人物は7人以上いる。「宇宙旅行」の定義を、民間人が組織の業務としてではなく「宇宙に行きたい」と希望し、ツアーを購入した、という経験だとしてみよう。2001年からソユーズ宇宙船で民間人を7名、国際宇宙ステーションへと送り込んだスペース・アドベンチャー社のツアーは民間宇宙旅行の先駆けだ。

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2名の宇宙飛行士と共にISSへおもむき、1週間から10日程度の滞在ができるこのスペース・アドベンチャーのツアーは宇宙旅行の中でも超富裕層向けだ。費用は「搭乗宇宙機、または計画するミッション次第」として非公開だが、2000万~4000万米ドル(22億6400万~45億2800万円程度)とされる。

それよりももう少し手が届く宇宙旅行がいよいよ2019年から始まると見込まれている。ひとつは、マイクロソフト設立者のポール・アレン氏が開発に参加した機体を発展させた水平離着陸機「スペースシップツー(SS2)」による、高度100キロメートルへの弾道宇宙旅行だ。実業家リチャード・ブランソン氏設立のヴァージン・ギャラクティックが計画しているもので、搭乗費用は25万米ドル(約2850万円)となる。

同じく、弾道宇宙旅行を計画しているのが、Amazon.comの創業者であるジェフ・ベゾス氏が設立したブルー・オリジン社だ。ニュー・シェパード宇宙船を垂直に打ち上げ、数分間宇宙に滞在し、パラシュートで降下する方式だ。搭乗費用は20万~30万米ドルとみられ、SS2宇宙旅行より数百万円、費用が安い可能性がある。

宇宙旅行に多くの人の手が届く時代が到来し、ツアーを選ぶ立場になったとすれば、何を基準に選べばよいのだろうか? ヴァージン・ギャラクティックのSS2は2014年に試験機の飛行中に死傷事故を起こしている。だとすればニュー・シェパードかもしれないが、そもそもニュー・シェパードは有人飛行試験をまだ行っていない。この2つを選ぶヒントが『宇宙旅行入門』(東京大学出版会 2018年7月)にある。

宇宙旅行は国家のために危険なミッションに挑むのではなく、新しい経験を楽しむために行くものだ。この観点からすると、ブランソン氏のSS2とベゾス氏のニュー・シェパードは安全性と快適さの点から比較できる。

スペースシャトルやスペースシップツーのように水平に着陸する宇宙船は,滑空した後滑走路を使いタイヤの回転で安定を保ちつつ減速するので,リスクが線上に分散される.それに対し垂直着陸の場合そのリスクは,着陸の1点に集中するので,安全性が損なわれる可能性が高いといえよう.

第3章3節「宇宙旅行の安全性」より

出典:宇宙旅行入門

本書の編者は、1990年代から日本の宇宙旅行・再使用型宇宙船の構想を練ってきた日本ロケット協会の「観光丸」宇宙船に関わったパトリック・コリンズ教授、JAXA宇宙科学研究所の高野忠名誉教授。著者にはアニメ監督の富野由悠季氏、クラブツーリズム・スペースツアーズ社長の浅川恵司氏らが参加している。宇宙旅行の歴史、宇宙船とその安全性、経済効果、法制度まで多角的に論じている。宇宙旅行を選ぶなら? あるいは、宇宙旅行ビジネスにプレーヤーとして参加するならその将来性は? 日本には宇宙旅行向けの宇宙船は開発されているの? 宇宙旅行を超富裕層のものだけではなく、当事者として考えたい人のための入門書だ。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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