日欧水星探査機「ベピコロンボ」打ち上げ予定のアリアン5ロケットとは? 赤道直下のギアナから宇宙へ。

水星探査機「ベピコロンボ」を搭載するアリアン5ロケット。撮影:秋山文野

2018年10月20日(日本時間)、日本のJAXAと欧州宇宙機関(ESA)が共同で開発した国際水星探査計画「BepiColombo(ベピコロンボ)」の2機の探査機、「みお」と「MPO」が水星周回軌道を目指し、大型ロケット「アリアン5」に搭載されて打ち上げられる。旅立ちの地は、南米のフランス領ギアナにある赤道直下のロケット射場ギアナ宇宙センターだ。ベピコロンボ打ち上げ前の9月にここで見ることができたアリアン5ロケット100機目の打ち上げと、日本とも関係が深い欧州のロケット打ち上げビジネスを紹介する。

フランスによるロケット開発の歴史は長く、ソ連とアメリカに続いて世界で3番目に人工衛星を自力で打ち上げた国だ。1968年にギアナ宇宙センターで初打ち上げを行ってから今年は50周年記念にあたる。

ギアナ宇宙センターでロケット打ち上げのオペレーションを担っているのは、フランスの民間企業アリアンスペースだ。ベピコロンボのような科学衛星や探査機だけでなく、通信放送衛星などの商業オペレーターから衛星を預かって打ち上げる、宇宙ビジネス市場を世界で初めて開拓した先駆者でもある。

「Ariane 5(アリアン5)」ロケットは、アリアンシリーズの5世代目となる主力ロケットだ。全高50.5メートル、直径は5.4メートル。1996年に初打ち上げを行い、失敗もあったものの2003年以降は連続して80機以上成功している。通信放送衛星や気象衛星など、高度約3万6000キロメートルの静止軌道に向けて10トンの打ち上げ能力を持っている。アリアン5で日本からの依頼で打ち上げた衛星も多く、記念すべき100機目に搭載されていたのも、日本のスカパーJSAT社とインテルサット社が共同運用する通信衛星「Horizons 3e」だ。

3つのロケットを打ち上げるギアナ宇宙センター。新型に向けてリニューアルも。

ギアナ宇宙センターでは、見学者向けに射場ツアーを開催し、ジャングルを切り開いてぽっかりと現れる宇宙センターの奥まで専任のおもてなしスタッフがじっくりと案内してくれる。センターでは現在、アリアン5のほかにソ連時代に開発されて導入された中型ロケット「ソユーズ」、イタリア開発による全高29.9メートルの小型ロケット「ヴェガ」の3種類を運用している。加えて、2020年から打ち上げ能力を増強した主力ロケットの後継機「アリアン6」を導入する予定で、射点設備の建設の真っ最中だ。

アリアン6模型と建設中の発射台。撮影:秋山文野
アリアン6模型と建設中の発射台。撮影:秋山文野

アリアン6の射点建設現場では、全高63メートルのロケットを立てる発射台と、打ち上げ時の噴射を逃がす煙道の工事中だった。現行の主力ロケット・アリアン5はロケットの全段を垂直に立てて組み上げて衛星を搭載した上で、組み立て棟から2キロメートル以上もレールの上を移動するという方式を取っている。総重量780トンのロケットが静々と射点まで移動していく光景は、巨大建造物好きにはたまらない壮大さだ。だが、それはロケットの第1段を横に寝かせると歪みが出てしまうという事情から生まれた苦肉の策だった。すべて立てたままのオペレーションは複雑でコストもかかる。

左から発射台と煙道。右手の空間にはロケット組み立て棟ができる予定。撮影:秋山文野
左から発射台と煙道。右手の空間にはロケット組み立て棟ができる予定。撮影:秋山文野

新型のアリアン6は、アリアン5までに積み上げた経験をコストダウンに活かし、ロケットを横に寝かせた状態で作り置きができる。組み立て棟は発射台に近く、数百メートル移動して発射台で立てればよい。射場の光景は変わるかもしれないが、現状では3種類のロケットをすべて合わせて年間10~12回のところ、新型ロケットならば導入から3年後にはアリアン6のみで年間11回の打ち上げが見込まれている。

アリアン5、ヴェガ共通の打ち上げ準備センター。撮影:秋山文野
アリアン5、ヴェガ共通の打ち上げ準備センター。撮影:秋山文野
打ち上げ準備センター内部。右手モニターには、この日に打ち上げ予定のアリアン5メインエンジンの状態が映っている。撮影:秋山文野
打ち上げ準備センター内部。右手モニターには、この日に打ち上げ予定のアリアン5メインエンジンの状態が映っている。撮影:秋山文野

新旧ロケットの交代の場から続いて向かったのは、アリアン5とヴェガロケットの機体を監視するセンターと、そこからほど近いアリアン5の組み立て棟。まさか打ち上げ当日に入れるとは思わないような場所だ。アリアンスペースはあくまでもオープンで、発射台に据えられたアリアン5ロケットのエンジンを監視するモニターや補助ブースターの燃料などを惜しげもなく見せてくれる。組み立て棟では次に打ち上げられるアリアン5ロケット、つまりベピコロンボ探査機を搭載する機体が準備中だった。

打ち上げ当日日中のアリアン5射点とギアナ宇宙センター。撮影:秋山文野
打ち上げ当日日中のアリアン5射点とギアナ宇宙センター。撮影:秋山文野

宇宙センター全体の敷地は800平方キロメートル以上あり、東京23区よりも広い。打ち上げ管制センターは射点から10キロメートル以上離れていて、この場所で衛星オペレーターや衛星メーカーからの打ち上げ前プレゼンテーションが行われる。まさに打ち上げをコントロールするこの場所でこれから宇宙へ向かおうとしている衛星の詳細を聞くと、やはり文書で読むよりもその機能や打ち上げの各段階についてより印象が深いように思う。

打ち上げは最後まで気が抜けない。延期を覚悟して臨む。

打ち上げ当日昼ごろのアリアン5。射点にほど近い見学台から側面が見える。撮影:秋山文野
打ち上げ当日昼ごろのアリアン5。射点にほど近い見学台から側面が見える。撮影:秋山文野

1日のうち、どの時間帯に打ち上げが行われるかどうかは衛星次第だ。“ウインドウ”と呼ばれる、目的の軌道に入ることができる時間は決まっていて、数秒から1時間以上ある場合まで幅が広い。予定時刻ぴったりに打ち上げができなければその日は終了、ということもあるし、もう少し余裕が残されている場合もある。Horizons 3e衛星の場合は、現地で9月26日午後6時50分すぎから50分ほどだ。

日没後はアリアン5をライトアップ。撮影:秋山文野
日没後はアリアン5をライトアップ。撮影:秋山文野

打ち上げ当日は夕方に射場から5.1キロメートルの展望台に入り、そのときを待つ。日中に上空の風が強い懸念があったというが、予定の時間内にカウントダウンが始まった……と思ったらあと7分、機体や追跡管制のすべてを含むシステム全体が「GO」を確認して最終シーケンスを開始する、というところでカウントダウンがストップした。天候でも機体トラブルでもなく、追跡管制レーダーの不具合だという。

ウインドウ内に打ち上げは可能なのか? 居合わせた衛星の関係者からは、「なぜ事前にチェックしておかないんだ」とぼやきがもれる。新しい通信衛星によるビジネスの門出に水をさされたような気持ちになるのも無理もないことだ。日程が延期になると帰国せざるを得ない人もおり、大西洋を渡ってギアナまで来て打ち上げを見ずに帰るのかも……という恐怖に近い感情が湧き上がってくる。

なんとも気をもませることに、ウインドウがあと7分で終了という時間から7分前のカウントダウン再スタート。つまりあと1回でもカウントダウンがまた止まったら打ち上げ延期決定だ。

本当に幸いなことに、カウントダウンは止まらなかった。現地時間の9月26日午後7時38分01秒、第1段のバルカンエンジンに点火。100機目のアリアン5ロケットは2機の衛星を搭載し、大西洋に向かって東の空へ昇っていった。音と振動は大気に満ちていて、耳や肌に伝わる感覚だけではその源がわからない。だが目には噴射の光が見えており、知識が「あれが源だ」と教えてくれる。3つの感覚が脳で一致するという体験だ。

アリアン5のフライト番号VA243、100機目が成功。Image Credit: Arianespace
アリアン5のフライト番号VA243、100機目が成功。Image Credit: Arianespace

さてこれで安心して帰って……とはいかない。ロケットの仕事は、目的の軌道まで人工衛星を届けることだ。打ち上げから9分後にロケット第1段が切り離され、上段ステージのエンジンに点火する。25分29秒後には軌道投入が完了、28分19秒後にはHorizons 3e衛星を分離し、42分17秒後にアゼルバイジャンの衛星を分離。ここまですべて無事にすんで、やっと一区切りだ。

打ち上げ後は飛行経路や進展状況がモニター表示される。撮影:秋山文野
打ち上げ後は飛行経路や進展状況がモニター表示される。撮影:秋山文野

衛星関係者はそれがわかっているので、ロケットが視界から消えても気を抜けない。視線を空から打ち上げシーケンス中継モニターへと移動させて待ち続けている。オペレーターが衛星分離を告げると、モニター中の管制室でも見守る見学台でもやっと拍手がわいた。本当はさらに、衛星が太陽電池パドルを広げ、アンテナを展開して通信を始めるという最初の仕事も待っているのだが、さすがにここでは拍手したい。

衛星分離が無事に済んで、やっと関係者から拍手がおきる。撮影:秋山文野
衛星分離が無事に済んで、やっと関係者から拍手がおきる。撮影:秋山文野

こうして、世界の人工衛星ビジネスを支えるアリアン5ロケット100機目の打ち上げは無事に終わった。次回は、アリアンスペース社の新型ロケットのこれからについて紹介する。