刑法性犯罪改正におけるロビイングを実践するうえで、被害当事者たちが考えたアドボカシー戦略とは

(写真:ロイター/アフロ)

今回は市民アドボカシー連盟の正会員で、一般社団法人Spring代表理事の山本 潤さんより、被害当事者たちが「刑法性犯罪改正」に向けて実施したアドボカシー活動についてお話を伺いました。

明智 では、まず自己紹介をお願いします。

山本 一般社団法人Spring代表理事の山本 潤と申します。Springは性被害当事者らを中心としたロビイング団体になります。大体スタッフが25人ぐらいで、One Voiceのキャンペーンに参加している方は10~20人ぐらいです。2017年に設立して、刑法性犯罪改正に特化した団体として3年間活動をしてきました。

明智 ありがとうございます。それではさっそく刑法性犯罪改正について教えてもらえますか。

山本 もともとの始まりは2014年です。松島みどり法務大臣(当時)が就任時の記者会見で強盗より強姦の罪が軽いのがおかしいと言ってくれたんですね。そのとき性犯罪の強姦罪が3年、強盗罪が5年でした。そして、法務省の中で性犯罪の罰則に関する検討会が始まり、法務省の中で刑法性犯罪の議論が始まったという流れになります。

私自身は2015年の夏から、刑法性犯罪改正に関わるようになりました。それは、そのときの検討会の議論の中で、親子であっても同意がある性交はあり得るかもしれないとの議論がされたと聞いたからです。親から子への性交は性虐待なのに、法律家達にその認識がない。そこで、性暴力被害の実態を伝えるために任意団体を立ち上げました。

明智 刑法性犯罪改正のロビイングについてどのようなことをしてきましたか?

山本 2016年の秋から4団体でBelieveキャンペーンというキャンペーンを開始しました。キャンペーンを開始する中で約半年ロビイングをして、議員に面談をしてお話をするようになりました。

そのときに一番感じたのは、理解がある人は議員としても熱心になってくれますが、そうではない人はそういうことも仕方がないという態度だったことです。被害者支援団体はこれまでも、被害者への負担が大きいことや、なかなか起訴されない問題を訴えていましたが、性暴力ってそういうことだとスルーされる印象を受けました。

でも、私自身も自分の実父から13歳から20歳まで被害を受けた経験がある被害当事者で、他にも被害経験者がいて、被害者たちが国会議員会館に行って、自分自身が当事者であることを話してから雰囲気が変わったと思っています。最初は議員会館の部屋に行って面談をして、「そうなの、君たちこういうことしているの、ふうん。でも、そうは言っても、1個1個難しいよね」「上司などに被害に遭ったと言うけれども、会社の中はそういうこともあるよね」と言っていた議員が、「私自身も会社の中で被害を受けた当事者です」と伝えると、「え、そうなんですか」という感じですごく身を乗り出して話を聞くようになりました。少し変化を起こしていけたと思っています。

日本のロビイングやアドボカシー活動は一生懸命やってもなかなか成果が上がらないといわれる中で、どうしてBelieveキャンペーンが成功したのかという要因を内的要因と外的要因とに分けてメンバーが分析してくれました。内的要因は自分たちでコントロールできる範囲です。署名を集めたり、分かりやすい冊子を作ったり、いろいろなイベントをしたり、あとホームページを作って広報したりということをしていました。

外的要因としては、実際に被害当事者や支援者からエビデンスのある資料で要望し、共感してくれた議員が動いてくれたということがありました。またメディアも取り上げてくれるようになりました。あと、私たちも本当にロビイングが分からなくて、国会でどうすれば法務省が出した条文に関してある程度条件を付けられるのかというのも、議員に聞きながら話を進めていきました。

明智 国会議員へのロビイングで気を付けたこと、大事なことはなんですか?

山本 刑法性犯罪改正が終わって2017年7月ぐらいに議員へお礼の挨拶に伺ったとき、「何で私たちの訴えを聞いてくれたのですか」とお聞きしました。そのときに「君たちは素直だったよね。明るかったよね」ということを言われました。分からなかったから、いろいろ話を聞きながら進めたのですが、アドバイスを受け入れて動けたのが良かったと思います。駆け引きやバランスが必要なところは、素人では見えないので、熱心に訴え、タイミングも噛み合って突破したというのが、まず第1回の刑法性犯罪改正の発令になります。

ここで附則が付いたときからSpringを設立することになりました。あともう1つ素人ながらも成功した要因の1つに市民の力で社会を変えるCOJコミュニティ・オーガナイゼーションの手法を用いたということがあります。ゴール設定と関係性構築を行うこの手法を用いて活動を進めたのが、私たちとしては成功した1つの要因なのかと思っています。

明智 ロビイングを行ううえでどのような戦略を考えましたか。

山本 設立したときに考えたのは、まずやはり刑法性犯罪改正が大ゴールだろうということです。そして、そこに細かい設定をして、3年後に刑法性犯罪改正の見直しが始まると予測を立てました。そして、法務省の中で見直しを議論する検討委員会の委員が性暴力の実態を理解している人になると刑法改正が前進する、理解者を増やすという形のゴールを立てました。

初めはスタッフも10人、予算も5万4,000円でした。こういう問題を何とかしたいという方が集まって、少しずつ広がっていきました。

第一ターゲットについては、刑法性犯罪改正を実現させるために段階をクリアしていくことが大切だと考えました。まず法務大臣が検討会の開催をしないといけません。検討会を開催し、さらに法制審議会を開催し、そして国会に条文が出されて、承認されれば改正されるという流れを刑法は踏んでいきます。基本法になるので法務省で議論を始めてもらわないといけない。ただ、始めてもらうためにも一体誰がこの見直しを決めるのかというところを探すのに、国会議員に聞いて回ったり、法務省に話を聞いたりなど、そういうことが詳しそうな官僚の人に、どういう感じで誰が決めるのかと聞いていました。でも、なかなかわからなかったですね。

官僚にロビイングに行くのは結構難しいので、第二ターゲットの国会議員にロビイングに行き、いつもいろいろな議案がぶら下がっている国会で、議員に会って刑法改正をきちんとやってくださいと言い続けてプッシュしていきました。また世論を動かして社会がこの問題に関心を持っていることを示さなければ、なかなか前向きに議論されないということも分かりましたので、世論を盛り上げるために市民一人一人の声で刑法を改正しようというOne Voiceキャンペーンを立ち上げました。それが2018年です。

 

成功への戦略ですが、まずはインサイダー戦略です。内向きのほうをしっかりやるという意味で、ロビイングで議員や省庁の間に共感を広げ信頼関係を築きます。先ほども言ったように自分が参加している理由や、どう変えてほしいのかを具体的に届けることを大事にしています。そのときに今変えなければいけない理由を何で1年後でもなく、3年後でもなくて今なのかということも伝えます。

また、私たちは超党派で刑法性犯罪改正を進めてもらいたいと思っているので、党派関係なく面談に伺います。私たちは被害経験などを話すので、議員さんだけにお話しする形になることもあります。そして、議員から聞いた話も他には話さないでということは守ります。あと、国会終了時には面談時の写真を貼った手作りのお礼状を持って、お世話になった人へのお礼に行きます。これはけっこう喜ばれます。

アウトサイダー戦略は、性暴力被害の実態と刑法性犯罪改正というトピックを広げ、世論を高めることを目的にしています。性暴力へのより適正な対応を求める人々の声で無視できないパワーをつくることが大事です。

昨年は4件の無罪判決があり、その中には父が娘にレイプして、同意がない性交であると認められたにもかかわらず、無罪になったという事件もありました。市民感覚から見ても非常におかしい状況だったので、性暴力に抗議する人々の連帯が広まり、日本の47都道府県で花を持って性暴力に抗議する気持ちを伝えるという、フラワーデモという運動が起こりました。フラワーデモは別団体なのですが、フラワーデモでお話しさせてもらったり、情報交換したり連帯した運動をしています。

議論のポイントはこういう形になりますが、今始まっている刑事法検討会に押し込めるような形でこれからも動いていきたいというのが私たちの活動になります。