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子連れ再婚での子どもへの児童虐待、殺人事件から親権を考える。

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
(写真:アフロ)

現在の日本の民法では婚姻中は「共同親権」なのに、離婚後の親権は父親か母親のどちらか一方しか持つことができない「単独親権」が規定されています。

そして、親権者が再婚した場合、親権のない親の同意なく、子どもを親権者の再婚相手の養子に入れることもあります(代諾養子縁組)。その場合、裁判所では再婚夫婦から親権のない親への親権者変更の手続きができなくなります。

本田 隆史さん(仮名・40代)も離婚後に一人娘の親権を失い、子どもと会えないまま元妻が子連れ再婚したケースの一人です。

本田さんが離婚した理由は元妻が原因でした。元妻による暴言暴力に耐えきれなくなり、持ち家に妻子を残したまま実家に避難しました。その後、元妻とは離婚調停と面会交流調停を進めて離婚が成立し、親権を失っています。養育費は毎月5万円を支払い続けていましたが、これまでに子どもとの面会交流はできていません。

「今月に入って元妻の再婚を知りました。継父と娘が知らないうちに養子縁組までしていたことには驚きました。ずっと子どもとは会えていないのでとても心配しています。」と、本田さんはショックを受けていました。

子連れ再婚で子が養子縁組をすると共同親権

親権者の原則的な規定は民法第818条に記載があります。

民法 第八百十八条

成年に達しない子は、父母の親権に服する。

2  子が養子であるときは、養親の親権に服する。

3  親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

民法第818条第2項では養子が養親の親権に服することを規定しています。この規定に従うと、連れ子と養子縁組した養親が単独親権者となるため、実親は親権を失います。

ところが第3項で父母の婚姻中は共同親権を規定していて、これは実父母や養父母だけではなく、実父と養母あるいは実母と養父の婚姻中も含まれるので、実親と養親の共同親権となります。

しかし現状では、この養親が虐待などをする不適切な親であっても親権者の変更を申立てすることはできません。民法第819条第6項で規定された親権者の変更は父母の協議で行うことができず、家庭裁判所手続(調停・審判)が必須となりますが、親権者の変更は単独親権からの変更を予定しています。そのため、子連れ再婚と養子縁組で共同親権となった子どもの親権者変更申立ては受理されないのです。

これは子どもの利益のために親権者変更の必要がないと判断されるのではなく、法規定から申立ての要件を欠いている(民法が予定していない申立て)ためです。過去には親権者変更の申立てを認めたケースもあるみたいですが、多くが否定されており難しいようです。

非親権者の実親が抱える課題

このように、実親と養親の共同親権において、非親権者となった片方の実親には、親権者変更の手続が用意されていない他にも、解決困難な問題がいくつかあります。

■離婚で非親権者になると養子縁組への代諾権がない

子どもが15歳未満のとき親権者には養子縁組の代諾権があり、監護者には代諾への同意権があります。元配偶者とその再婚相手が共同親権に至る過程において、親権(代諾権)も監護権(同意権)もない実親は、元配偶者の再婚相手と子が養子縁組するのを止められません。知らない間に元配偶者が再婚して、知らない間に子と再婚相手の養子縁組がされてしまうと、大切な我が子の親権を、いつの間にか再婚相手に握られてしまうわけです。

■子どもとの触れ合いが極端に減る方向へ向かいやすい

元配偶者が再婚して、再婚相手と子どもが養子縁組すると、非親権者は血縁上の親、親権者である養親は法律上の親となり、父親または母親のどちらかが2人になります。この状況は、単に大人の事情でそうなっただけなのですが、子どもに大人の事情を押しつける結果となりますし、同性の2人の親を持たざるを得ない子どもの立場としても複雑です。したがって、実親と養親の新たな家庭環境で平穏に子が育つことを望み、非親権者とは事実上で縁を切るような要望が出てくることも少なくありません。

また、非親権者が分担してきた養育費においても、日常生活で子どもを監護する養親の扶養義務が優先されるとするのが通例ですから、減額または免除の方向になって非親権者の関わりが減るでしょう。さらに、非親権者と子の面会交流までも断ち切り、完全に非親権者を子育てから切り離そうとする動きも良く見られます。

■養子が不利益を受けているときの救済

元配偶者の再婚相手かつ養親が、養子に不利益を与えるケースのとき、非親権者の実親は子どもを救うことができるのでしょうか。

親権者に子どもが虐待されている、遺棄されているなど、非親権者が子どもの不利益を知ったとき、子どもを救済する方法として親権者の変更を思い付きますが、子どもが共同親権に服していると親権者変更の申立ては認められていません。また、子どもの連れ去り被害に遭った親は子どもとの連絡手段を絶たれており、そもそも子どもの不利益を知る機会さえないのが現状です。

子どもの連れ去り被害についての詳細はこちらの記事をご覧ください。

隠れた課題、断絶された親子たちについて考える。

親権がなくても実親として子どもを守りたい

父母が実親でも養親でも、婚姻中の父母による安定的な親権の共同行使は、子どもの福祉にとっては本来あるべき姿です。そのため離婚で非親権者になった実親としても、子が健やかに育ってくれるのなら、元配偶者とその再婚相手による共同親権を喜ぶべきなのでしょう。

しかし最近は子連れ再婚後に養父母や、ときには実親も一緒になって子どもを虐待したり、殺人事件にまで至るケースを報道などで目にする機会が増えてきています。親権喪失・親権停止審判という手段もありますが、非親権者である実親の親権が回復することはありません。家庭裁判所に選任された未成年後見人が親権を行使することになるので非親権者は子どもを守ることができないのです。

子の不利益になる共同親権行使が顕在化したときには、親権がなくても実親として子どもを守れるように現状の制度を変えていく必要があるのではないでしょうか。

参考文献:初めての調停

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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