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孤立死の背景には何があるのか?「社会的孤立」の解決に向けた取り組みについて調べました。

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

内閣府の「平成21年度 高齢者の地域におけるライフスタイルに関する調査結果(2009年)」によると、「孤独死(誰にも看取られることなく、亡くなったあとに発見される死)について、身近な問題だと感じますか」という質問に対して「非常に感じる」と回答した割合が16.6%、「まあまあ感じる」と回答した割合が26.3%でした。つまり高齢者の約4割が孤独死を身近に感じており、孤立死・孤独死についての関心や危機感が高まっています。今や孤立死や孤独死の問題は、社会全体の問題であると言えるでしょう。

孤立死の現状

図表1
図表1

東京都などのいくつかの自治体や都市再生機構(UR)では独自に孤立死・孤独死に関する統計を発表しています。(図表1)

死後発見されるまでの期間など、何をもって孤立死や孤独死とするかという定義や、都市の人口規模や対象者数・年齢がかなり異なるので単純に比較はできないのですが、東京都監察医務院の調査によると、平成18年の段階で東京23区では孤独死が3,395件発生しており、一日10人前後が孤独死していることになります。

また、ニッセイ基礎研究所の調査においては、東京都監察医務院による「東京都23区における孤独死の発生数」と人口動態統計を用いて、全国の65歳以上の高齢者の孤立死数を推計しています。

それによると、約27,000人の高齢者が死後2日以上経ってから発見された「孤立死」と推計できるそうです。

さらに、前述の東京都監察医務院の調査によると23区内では、中央値は確認できなかったのですが、男性は平均死後12日、女性は死後6日に発見されていると報告されています。

では、その孤立死はなぜ起きてしまうのでしょうか。今回は、その背景について探ってみたいと思います。

・単独世帯の増加

図表2
図表2

まず、単独(一人暮らし)世帯が増加していることが挙げられます。 今では実に、日本人の4人に1人が単独世帯であるといいます。

さらに、65歳以上の一人暮らし高齢者は昭和55(1980)年には男性約19万人、女性約69万人でしたが、平成22(2010)年には男性約139万人、女性約341万人にまで増加しています。国立社会保障・人口問題研究所によると2035年には男性260万人、女性501万人にまで増加すると推計されています。(図表2)

・社会的孤立

図表3
図表3

次に挙げられるのが、社会的に孤立していることです。日本では「友人、同僚、その他の人」との交流が「全くない」あるいは「ほとんどない」と回答した人の割合が15.3%にのぼり、OECD加盟国20カ国の中で最も高い割合です。他国に比べると、家族以外の人々との交流が比較的少なく、一人暮らし世帯などが社会的孤立に陥りやすい状況にあることがわかります。(図表3)

社会的に孤立した人々はどれだけいるのか

それでは、そういった社会的に孤立した状況にある人はどれだけ存在するのでしょうか。

ニッセイ基礎研究所の「長寿時代の孤立予防に関する総合研究 報告書」では社会的孤立リスクを日常のコミュニケーション量から測定しており、それによると、ゆとり世代(23~25歳)は16.0%、団塊世代(39~42歳)は5.5%、75+世代(75~79歳)の5.0%が最もコミュニケーション量が少なく孤立リスクが高いとされるレベル5であったと報告しています。

この報告をもとにすると、日本の全人口のうち孤立リスクが高い状態にある人数が約1,004万人いると推計されるとも言われています。やや粗い試算ではありますが、これだけの人達が社会的に孤立してしまうリスクが高いという現状。自分の身に迫る問題として、より危機感を感じます。

孤立の要因は何なのか

まず、つながっている居場所の数が少ない、ことです。

自分にとっての“居場所”とは、何となく心地が良く、社会に結びついていると感じられる、そういったところです。これは具体的な場所に限定せず、オンライン上のものも含みます。コミュニティとも言い換えができると思います。

多くの日本人にとっては、職場や家庭にしか、社会との結びつきや人との絆を感じられるような居場所はないのではないでしょうか。そして、定年退職したり、失業したり、配偶者に先に旅立たれると、社会と接点があると感じられる居場所はなくなってしまうように思います。

次に、その居場所を作るための余裕が(過去に)持てていないことです。日々生きることに精一杯で、時間がない。何かをしようとおもってもお金が必要だが、お金もない。働く時間は長く、帰ったら夜遅く。週末も疲れ果てて寝て過ごす。

高齢者になり時間ができても、そこから何かをしようと思っても、何かを求めてもやり方がわからない。日本社会を覆っている“何かに忙しい”という空気が、居場所をつくったり、そこにつながったりする余裕を奪ってしまっているのではないでしょうか。

最後に、受け入れ先の居場所が少ないということです。ふと考えてみると、職場と家庭以外に社会との結びつきを持つことのできる場所はどこなのでしょうか。

社会的孤立問題への国の取り組み

最後に、孤立死や社会的孤立について国レベルではどのような対応が取られてきたのかを見てみたいと思います。

とくに高齢者の社会的孤立の問題に対しての取り組みとして、2008年には、厚生労働省において「高齢者等が一人でも安心して暮らせるコミュニティづくり推進会議」(「孤立死」ゼロを目指して)が開催され、「孤立死」予防型コミュニティづくりへの取り組みについて提言されています。

2011年には内閣府において、「社会的包摂(Social Inclusion)政策」の推進「一人ひとりを包摂する社会」特命チームが設置されました。この政策は高齢者の社会的孤立の問題に限らず、国民の中に潜在する社会的排除のリスクを回避することをねらいとした取り組みでした。この中で、「パーソナル・サポート・サービス」プロジェクトの推進、「社会的包摂ワンストップ相談支援事業」の推進が提言・試行されました。

また、厚生労働省は2009年~2011年にかけて「悲惨な孤立死、虐待などを1例も発生させない地域づくり」を目指した「安心生活創造事業」を、「地域福祉推進市町村」に指定された全国58の市区町村でモデル的に実施しました。

どれも孤立死や社会的孤立の問題を解決していく上では、大きな契機であったのでしょうが、断続的になってしまっている印象があります。

そのほかにも、全国の自治体ではさまざまな孤立死防止対策が行われています。

「孤立死防止対策取組事例」厚生労働省Webサイト

「社会的孤立」問題の解決に向けた取り組みの可能性

「社会的孤立」問題の解決に向けた取り組みについては孤立の問題にフラットに向き合い、孤立した人たちの居場所をつくっている「認定NPO法人 山友会」という団体があります。

昼間に山友会の事務所に行くと、無料診療や生活相談、昼食を待っている人だけでなく、何気なく集まっているような人もいます。集まった人同士で他愛のない話をしたり、特に何を話すでもなく時間を過ごしたり。山谷地域にはホームレス状態にある方だけでなく、アパートや簡易宿泊所に一人で暮らしている方もたくさんいます。

そしてその多くがご高齢の方です。高齢化や単身世帯化が進む日本の未来の縮図が山谷にはあるのかもしれません。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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