メディア自身が「ゲートキーパー」になるという意識を--荻上チキ氏が「いじめ報道」に対して要望

いじめ問題に取り組むNPO法人「ストップいじめ!ナビ」は2月5日に報道関係者を対象にした勉強会を東京都内で開催しました。

本記事では、同団体の代表理事で評論家の荻上チキ氏が、現在のいじめ報道に対してメディア側に要望した内容についてお伝えしていきます。

前半の記事はこちらから。

メディアが子どもたちの「命綱」にもなるし、「凶器」にもなる--荻上チキ氏が「いじめ報道」に対して要望

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以下、荻上チキ氏の発言をお伝えします。

いじめ報道に対する3つのガイドライン

これらの議論は、いじめにも当てはまります。そこで「ストップいじめ!ナビ」では、いじめ報道に対するガイドラインを作りました。今日はその議論の、さわりだけを紹介します。

まずは3つの原則を報道に対して守って欲しいというお願いを各メディアに対して行っています。

その1。「子どもたちへの影響を配慮した報道をしてください」。子どもたちもテレビを見るわけです。ワイドショーは基本的に大人が大人に向けて語っているので、子どもが見ることを想定していません。でもそういった番組も不登校の児童が見ることもあるわけです。そうした番組に、たとえば相談先の連絡先が載っていたらどうでしょうか。

今のままでは、「いじめを受けていた人はこうした記録をつけて死ねば復讐になるんだよ」ということばかりが伝えられています。今の学校はこんなに酷いということを発信し続けることによって、不登校の児童がその番組を見たらますます行く気を無くしていくということがあります。つまり、この報道によって子どもへの影響をどうもたらすのかということを意識して欲しい。

その2。「関係者への影響に配慮した報道をしてください」。番組や報道をみている学校関係者や行政関係者に対し、どんなメッセージを届けたいのか。単に叩きたいのか、それとも動いてほしいのか。その辺りを意識して欲しいということです。

その3。「社会への影響に配慮した報道をしてください」。見ている人に、どんな感覚を抱いてほしいのか。一緒に叩きましょうと、犯人探しをするのか。それとも具体的にこうしたアクションをすればいじめは減りますよという方向に誘導したいのか。どういったところにメッセージを発信して、何のために機能を果たしたいのかということを意識して欲しいということを伝えています。

「命綱」と「凶器」という話もしましょう。具体的に「ストップいじめ!ナビ」がいじめに対する問題の報じ方としてお願いしてるのが、最悪の状況から脱することが可能であるというメッセージを報じること。いじめ解決の具体的な手段を報じるということ。ひどい事例ばかりではなく、いじめが発生した場合の解決事例を伝えることなどがあります。しかし実際には、いじめに関して自殺した児童のケース、学校が酷かったケースなどが報じられることがいじめに関する報道の99%だと思います。でも、こういったやり方でいじめが解決しました、この学校はこの試みでいじめを減らしましたといった成功例に関する報道がほとんどないのが現状です。

だから普段からいじめに対するポジティブな事例や取り組みも積極的に取り上げてくれないかとお願いしています。

また、いじめ報道の際には、いざいじめに関して悩んだ時はどうすればいいのかという支援先や連絡先、相談先を紹介して欲しいのです。テレビであれば、数秒のスーパーでもいい。アナウンサーの一言でもいい。新聞であれば、2、3行の枠内でもいい。できれば、いろいろな研究データやどうすればいじめ環境を改善することができるのかなどを紹介して欲しい。そしてさっきのガイドラインのようなものを守って欲しいというお願いをしています。

メディアが「命綱」の役割を果たすためには

いじめ報道の際に避けるべきこととして、たとえばいじめ自殺や復讐など、極端な手段を美化しないこと。それから加害者叩きということにあまりに集中しない。加害者を叩くということは、確かに簡単な報道ではありますが、いじめ対策にはほとんど役に立たないどころか、現場では逆効果になります。

それから過剰なメディアスクラムを行わないでください。その学校の環境がより悪化するし、いじめ自殺があるとその学校はなんとか普段の授業を行えるように回復しようとするんですけど、その回復をメディア自体が遅らせるということがあってしまうので、そうした影響に対しては配慮して欲しいです。

あと、イメージ映像やBGM、キャプション見出し等にネガティブさを過剰に付与しないとか、晒し行為に似たようなことをしない。あるいは統計の誤った利用を行わない。よく、「文科省の統計によれば過去最高」といったデータがよく取り上げられますが、あれは誤りです。あれは実際のいじめの「発生件数」ではありません。教師の「認知件数」ですらない。国への「報告件数」なんです。つまり、いじめの増減を論じるには不適切なデータで、実に無意味な数字です。ちなみに、各種統計を見る限り、いじめは増加してはいません。

そうした誤ったデータを使ったり、極端な事例を使ったりしない。テレビではワイドショーのコメンテーターが最近の子どもはいじめを行っていて、酷くて極端化していて、陰湿で昔のいじめはそんなことなかったという話がありますけれど、そんなことはありません。そうした極端な例ばかりを元に議論するのはミスリードになってしまいます。

ここでポジティブな報道の一例を紹介したいと思います。例えば、NHKの福祉番組を例に挙げてみましょう。ご覧いただいているのは、実際に放送されたある番組です。お分かりのように、たとえば自殺について特集する際に、この番組は心がけて自殺に関するURLなどを紹介しています。

たとえば発達障がいなら発達障がい。いじめならいじめ。アルコール依存症とか依存症に関しては依存症。という仕方で、さらに情報につながりたい方はこちらという形で付加情報を加えています。そのURLに実際にアクセスしてみると、たとえば自殺特集のページみたいなものがあって、色んな人の書き込みみたいなものがある。そうした書き込みをクリックしたりすると、「いのちと暮らしの相談ナビ」みたいなところがあって、具体的なNPOの連絡先みたいなものに具体的に繋がることができますよといったようなページ作りを設けていたりするわけです。

あと、「ストップいじめ!ナビ」が作ったサイトであるとか、法務省、文部科学省が用意しているホットラインの電話番号を番組のスーパーで少し流す。せめて記事の端っこに四角い3行くらい、2行くらいの枠でも良いので、そこに載せる。既に、こうした取り組みを、WHOの自殺ガイドラインだけでなく、様々なテーマで行っている番組はあるのです。

そうしたようなちょっとした枠を作ることで、「死ぬ以外の出口があるんだよ」「生きていれば出口にたどり着くよ」と伝える。記事を読んで単に陰鬱な気持ちにさせるだけでなく、さあ考えてくださいとか、議論を呼びそうだで済ませるのではなく、困った人に対して困ったときの連絡先というものを伝えるのもこれからの報道の役割、命綱の役割として期待したいです。

メディア自身が「ゲートキーパー」になるという意識を

自殺を防ぐ人のことを「ゲートキーパー」と呼んでいます。この「ゲートキーパー」に、メディア自身がなるんだという意識を、ぜひとも持ってください。メディアは、例えば政治に対しては公平であるべきだと思います。けれど、自殺に対してはむしろ積極的に「ゲートキーパー」としての役割を果たすんだという意識を、関係者は持って良いと思うのです。先ほど私たちが提案したガイドラインをたたき台に、自分たちの報道はどういう風に見直すことができるんだろう、そういう議論をぜひともしていただきたいなと思います。

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2016年3月5日(土)にSVP東京ネットワークミーティング

『繋がる力でいじめに向き合う~いじめを止めるオトナの役割』を開催!

日時:3月5日(土)16:00~19:00

会場:日本財団ビル 2階 AB大会議室

ゲスト:

●荻上チキさん(代表理事)須永祐慈さん(事務局長)

特定非営利活動法人 ストップいじめ!ナビ

●明智カイトさん

いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン代表

●朝倉景樹さん(シューレ大学スタッフ)

特定非営利活動法人 東京シューレ理事

●渡辺由美子さん

特定非営利活動法人 キッズドア理事長

●綾屋紗月さん

おとえもじて/東京大学先端科学技術研究センター

イベント詳細と、参加お申し込みはこちらから⇒

http://nwm79.peatix.com/

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NPO法人「ストップいじめ!ナビ」

「ストップいじめ!ナビ」は、一向におさまることのない「いじめ問題」に一石を投じようと、2012年秋に活動を開始したNPO法人です。様々な分野の専門家が集まり、それぞれが持つノウハウや社会資源を結集させて「いじめ問題」への具体策を提示・実現させていこうとしています。

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