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ホームレス支援の活動を通して、「無縁仏とホームレス」について考える(前半)

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

都内でホームレス支援を行う「山友会」という団体が、クラウドファンディングを使って「無縁仏となってしまうホームレスの人々が入れるお墓を建てたい!」というプロジェクトを行いました。

「山友会」の油井和徳さんに無縁仏となってしまうホームレスの人々の背景についてお話を伺います。

「無縁仏となってしまうホームレスの人々が入れるお墓を建てたい!」

ホームレスの人々は様々な事情によって家族や親族との縁が途絶えてしまっている

油井和徳さん
油井和徳さん

明智 では、まず自己紹介をお願いします。

油井 「山友会」という都内でホームレス支援を行うNPOで働いています。大学のゼミでNPOへのインターンシッププログラムに参加したことがきっかけで、働くようになりました。

明智 「山友会」とはどのような活動をしている団体ですか?

油井 「山友会」は東京都の台東区・荒川区をまたぐエリアにある通称「山谷地域」で、1984年から主にホームレス状態にある方をはじめ、生活困窮状態にある方々の支援を行っています。現在、無料診療、生活相談・支援、炊き出し・アウトリーチ、ケア付き宿泊施設といった4つの活動をしています。

無料診療では住所がないなどの事情で健康保険証を持てず、一般の医療機関を受診できない方を対象とした、無料の診療所を運営しています。診療はボランティアの医師の皆さんが、ローテーションで行っています。

生活相談・支援事業では健康問題や生活問題を抱えた方に対して、相談員が多様な支援を行っています。特に多いのは無料診療所を受診した患者さんの中で、専門的な治療が必要な方がいた場合、生活保護制度を始めとした福祉制度の利用を支援して、一般の医療機関に受診できるようにすることです。そのほかにも様々な生活問題に対して相談に応じています。

最近では患者さんや相談者の方が地域での暮らしに移られた後の支援のニーズも高くなっており、地域生活サポートという取り組みを行っています。ご自宅を訪問して安否確認や緊急時の対応を行ったり、一人で病院に行くことが出来ない方の受診に同行したり、介護が必要になったときのサービス利用手続きのお手伝いをしたり、医療機関や行政機関などをはじめとした関係機関との連絡調整を行ったりしています。

炊き出し・アウトリーチは主に路上生活状態にある方などが私たちの支援活動にアクセスできるよう、こちらから訪問して情報提供を行い、信頼関係づくりを行うことを目的としています。週二回、隅田川の河川敷周辺で行っています。

地域生活サポートのように地域での暮らしを支える取り組みを行っていますが、一人暮らしが難しくなった場合の住まいの選択肢として、ケア付き宿泊施設の運営を行っています。そこでは24時間スタッフが常駐し、生活の見守りや支援、医療機関、介護サービス事業所などとの連絡調整など多様な支援を行い、家族の代わりのような役割を担っています。

このように支援を通してホームレス状態にある方が人とのつながりを築き、コミュニティに参加できるようにと活動を行っていますが、亡くなった後は遺骨の引き取り手がおらず無縁仏となってしまう方が多いのです。

路上生活に至らないまでも生活困窮状態にある人たちもいる

ルボ・ジャンさん
ルボ・ジャンさん

明智 それで、「無縁仏となってしまうホームレスの人々が入れるお墓を建てたい!」というプロジェクトを思い付いたのですね。

油井 はい。山友会では年配のホームレスの人々のことを親しみを込めて「おじさん」と呼んでいますが、代表のルボ・ジャンは「おじさん」達の多くが無縁仏となってしまう光景を多く目の当たりにしてきて、

「おじさん達は、亡くなっても誰も迎えに来ない。亡くなっても、仲間たちと過ごせたら、幸せじゃないか。」

と考えてきました。

ジャンはカナダから宣教師として来日したそうです。知人に誘われ山谷でのボランティア活動に参加するようになったのですが、そのときに出会った山谷で生きる人々の孤独さを感じ、またそれでもたくましく生きる姿に深く感じ入り、一人の人間として彼らと共に生きていくことを覚悟し30年近く活動に取り組んできました。

ジャンのそうした想いから生まれたこのプロジェクトは、多くの方々のご共感とご協力によって、お墓の建立費用255万円が集まりました。そして、かねてから協力関係のあった近隣のお寺のご厚意で、そのお寺にお墓を建立することが出来ました。

明智 最近ではネットカフェ難民や家出少女のことなどが取り上げられていますが、油井さんたちが支援の対象としている「ホームレス」というのはどのような人たちを指していますか?

油井 国内において、「ホームレス」とは、「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」つまり、路上生活状態にある人々のことと定義されています。この定義をもとに考えると、生活保護を受給して簡易宿泊所に暮らす方や、ネットカフェ難民状態にある方などは含まれなくなります。しかし、私たちは、どのような生活状態であっても、生活に困っているのであれば支援が必要だと考えています。

ホームレス問題の状況は2003年には全国で25,000人以上のホームレス状態にある方がいたとされますが、民間支援団体の取り組みをはじめ、行政の路上生活者対策もあって、最近では約6,000人にまで減少しました。(※ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査) 厚生労働省2015年4月)

いわゆるホームレス状態にある方の人数だけ見ると問題が解決に近づいているように思えますが、ネットカフェ難民のように不安定な住まいの状態におかれている方のような、路上生活に至らないまでも生活困窮状態にある方の存在が社会的に可視化されづらくなっているように思えます。

(つづく)

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山友会

東京都の台東区・荒川区をまたぐエリアにある通称「山谷地域」で、1984年から無料診療、生活相談、炊き出し・路上訪問、宿泊支援などのホームレス支援活動を行っている団体。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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