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普通の人たちが政治家を目指すために「なにもやらない選挙」を宣言!:維新の党 小田理恵子川崎市議会議員

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
(小田理恵子×明智カイト)

今年4月の統一地方選挙で「なにもやらない選挙」を宣言して当選した小田理恵子川崎市議会議員に、現在の選挙制度の不備や使いづらい点などについてお聞きしました。

自治体の置かれている厳しい状況や根深い問題の数々を知り政治の世界へ

明智 では、まず自己紹介をお願いします。

小田 維新の党所属の川崎市議会議員(2期目)で、選挙区は川崎市幸区です。1971年10月25日、長野県生まれです。大学卒業後は都内のIT企業や、コンサルティング会社に勤務しました。2005年より富士通で人事系のシステム企画、制度設計に従事した後に、同社を退職して2011年の川崎市議会議員選挙に立候補し初当選しました。

もともと私は民間企業で会社員として働き普通の生活を送ってきました。選挙には必ず行くけれど、政治にはそれほど興味も無く「遠い世界」であると思っていました。

しかし、仕事で自治体相手のプロジェクトに従事した事がきっかけで、地方自治に興味を持ち色々調べるようになりました。そこで日本の自治体の置かれている厳しい状況や根深い問題の数々を知り、この国の将来に危機感を感じて『何とかしないと!』との想いから勢いで会社を辞めて選挙に出てしまい、そのまま当選して、今も市議をやっています。『普通の人視点』をモットーに議員活動を行っています。

わかりづらいうえに、政策を伝えるのが難しい今の選挙制度

明智 ありがとうございます。それでは、さっそく「なにもやらない選挙」についてお聞きしていきますが、その前に現在の選挙制度の不満や使いづらい点などについて教えてください。

小田 やはり現在の公職選挙法は、何がよくて、何がダメなのか本当にわかりづらいのです。たとえば、選挙期間中は自分の名前どころか名前を類推できるような、のぼり旗などを立てるだけで違反ですし、国政選挙ではビラを配れますが地方選挙ではビラを配っていけないなど候補者から見ても複雑でとても難解です。

そして一番の問題点は選挙期間中に候補者が有権者に対して自分の考えや政策を伝える手段が非常に限定されていることです。候補者が政策を伝えることが可能なのは「街頭演説」「個人演説会」「選挙広報」くらいでしょうか。しかし街頭演説や選挙公報では伝えられる情報量は非常に少ないですし、個人演説会も場所や回数が制限されている上、とても一般の人が気軽に行けるような雰囲気ではないです。そもそも演説会がどこで行われているか一般の方は知りませんし。

今はネット選挙が解禁され、ネット上で政策を訴えることが可能になりましたが、有権者に広く政策を伝える手段としては、現段階では「将来有効かもしれない」という程度の位置づけです。今の選挙のやり方では結局、有権者はどの候補者の掲げる政策が良いのかわからない、つまり人物や政策本位で投票の判断ができていないのです。

また、選挙に立候補すること自体ハードルが高いと言えます。地盤も組織も持たない人間が選挙に立候補して当選するためには、最低でも半年くらい前から活動を始めていないと厳しいです。朝晩は駅などに立ち、日中は各戸や団体・組織を訪問して回るのです。となると仕事との両立は難しいですよね。ですから会社勤めの方が立候補を決意した場合、1年~半年前には会社を辞めるケースが殆どです。

また、多額の資金が必要です。国政選挙では最低1000万円、平均して2000万程度は必要だと聞いていますし、地方議員選挙でも200万円以上はかかります。私の場合は、「なにもやらない選挙」ですから、選挙資金はポスターを除けば20万円かかっていませんが。

このように、選挙に出るためには、仕事は辞めなければならない上に多額の資金が必要で、もし落選すれば借金を抱えた無職となってしまいます。非常にハイリスクなのです。

あと、とにかく政治の世界は『ドブ板』なんですよね。

明智 『ドブ板』ってなんですか?

小田 かつての選挙活動では、候補者や運動員が有権者に会うために民家を一軒ずつ回りました。その際、各家の前の側溝(ドブ)を塞ぐ板を渡り、家人に会って支持を訴えたことが『ドブ板選挙』の由来です。現在の公職選挙法では戸別訪問を禁止しているため、小規模施設での集会や、徒歩で街頭を回り通行人に握手を求める等、選挙区の人に広く支持を訴える方法が行われています。

普段から候補者や議員は地元のお祭りや葬式などへ足繁く出席して、顔と名前を売っていくのです。でも、それって政策の良し悪しとは全然関係のないことですよね。

私は政治家になってみて感じたことは、議会の中での人間構成が偏っているということです。政治家のほとんどは元秘書、二世、地主、特定組織の代表者ばかりです。政治の世界こそ多様な人材が揃っているべきなのに。だからいろいろなところから政治家を出すべきだと思いました。

そのためにも私は、お金がかからずリスクの少ない、普通の人でもできる選挙のやり方を確立したかったのです。本当にこのままでは日本の民主主義が崩壊してしまうという危機感を抱いています。

「なにもやらない選挙」を宣言

明智 それでは「なにもやらない選挙」について教えてください。

小田 一般的な選挙では「当たり前に実行する」とされている事を行わなかったのです。何をしなかったのかというと、

・選挙カーを使わない

・選挙事務所を置かない

・選挙はがきを出さない

・電話での投票依頼を行わない

・街頭演説を行わない

です。そうなると、殆どやることが無いですよね。だから何もやらない選挙(笑)。

選挙前から「何もやらない」を公言し、実際その通りに過ごしましたので、選挙期間中も選挙後も周囲からは「何もやらないなんて」と、かなりバッシングも受けました。しかし選挙は、自分の政策や実現したいビジョンを訴える場であるべきです。そう考えた場合に、上記は政策を訴える手段にはなりません。だから一切やりませんでした。・・・まあ、街頭演説だけは政策の訴えに有効ですが、「何もしない」を主張するため今回は敢えて行いませんでした。

なにもやらないことで選挙期間中は精神的にすごく怖かったし不安定にもなりました。しかし、今の政治状況を打破するためには生半可なことをしていたらダメだと言い聞かせ、ぐっと我慢しました。これらの活動が当選には影響しないことを証明し、将来的には選挙期間中に討論会や有権者との政策談義が活発に行われる場となることを目指したかったからです。

そうしていかなければ、様々な背景を持つ人間が選挙に立候補することも当選することもできないですから。組織票だけで当選し組織の利益ばかりを追求する議員が圧倒的多数を占める今の状況を変えるため、しがらみのない良い候補者を政治の世界にどんどん送り出さなければ今の政治不信は払しょくなどできません。

今回の選挙では辛くも当選することができましたが、ギリギリの当選だったため、私の選挙活動のあり方に対する主張は、説得力が弱くなってしまいました。とは言え、川崎市内の同じ党からの候補者が私以外は全員落選した中での当選であったことから、一定の評価と注目はされました。

これは私にとって大きな第一歩です。政治家は、より良い仕組みをつくることが役目だと考えています。そのような意味でも、選挙によって良い候補者を選べるような仕組みづくりを一人で目指しているのです。

(つづく)

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小田理恵子(おだ・りえこ)

1971年生まれ、長野県出身。明治大学法学部卒業。長らく民間企業に勤めていたが自治体の行政改革プロジェクトに従事したことを契機に川崎市議会議員に転身。現在二期目。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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