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ストップいじめ!女性弁護士による「いじめ予防」の提言

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
「ストップいじめ!ナビ」弁護士チームの真下麻里子さん

7月上旬、岩手県でいじめと思われる理由で自殺したという報道が全国に広がりました。数年前、いじめによる自殺が大きく報道されたことをきっかけに「いじめ防止対策推進法」が成立してもなお、このような心苦しい状況が続くのはどうしてでしょうか。2012年から活動を開始する、「ストップいじめ!ナビ」の活動を紹介しながら、いじめやいじめ自殺を防ぐためにできることを考えていきます。

前回の記事はこちらから。

【岩手中2いじめ自殺】ジャーナリスト、NPO、弁護士、LGBT当事者・・いじめ対策の取り組みを紹介

弁護士たちが中心となって「いじめ予防活動」

「ストップいじめ!ナビ」弁護士チームの真下麻里子さんにお話を伺いました。

明智 では、まず自己紹介をお願いします。

真下 私は教育学部出身の弁護士です。以前より教育問題・いじめ問題に関心があったため、弁護士1年目から「ストップいじめ!ナビ」の活動に参加しています。

「ストップいじめ!ナビ」の弁護士は、いじめ予防活動に力を入れています。啓発活動としてのいじめ予防授業のほか、学校に対していじめを予防するための体制作りに関するアドバイスなども行っています。

明智 岩手県矢巾町で、中学2年生の男子生徒が電車にひかれて亡くなるという事故が起きました。報道によれば、この事故はいじめを苦にした自殺だったとみられています。それについては、どのように考えていますか?

真下 もし報道が事実であるとすれば、大変悲しい事件です。これまでいじめ問題は繰り返し社会問題として大きく取り上げられ、2013年9月にはいじめ予防体制を強化するための法律も施行されました。

今回の事故を機に各自治体・各学校において法律の求めるいじめ予防体制は構築されてきたのか、また、その体制はきちんと機能しているのかを改めて見直す必要があると私たちは考えます。

2013年に制定された「いじめ防止対策推進法」について

「いじめ予防授業」の様子
「いじめ予防授業」の様子

明智 「いじめ防止対策推進法」について説明をお願いします。

真下 「いじめ防止対策推進法」は、2011年に起きた大津市の中学2年生いじめ自殺事件を契機として2013年に制定された法律です。

同法は、これまでいじめに対する対応が事後的なものであったこと、また個々の教職員が問題を抱えこんでしまい関係各機関の連携が十分に取られていなかったことへの反省などから、いじめの「予防」に重きを置き以下のような体制を構築することを求めています。

(1)いじめ防止基本方針の策定(法13条)

各学校は、それぞれのいじめに対する取り組みを表した「いじめ防止基本方針」(学校いじめ防止基本方針)を定めなければなりません。基本方針には、いじめの防止方法、早期発見方法、発生後の対処方法等を具体的に定める必要があります。これにより、それらの対策が適切に実行されているか、また定めた対策が本当に実効的であるかを適宜検証することができるようになります。これにより学校のいじめ対策が可視化されるようになりました。

学校の基本方針は学校のウェブサイト等で公表することとされていますので、ご自身の関係する学校がどのような姿勢でいじめに取り組んでいるのかを確認してみるのもよいかもしれません。

(2)常設の対策組織の設置(法22条)

各学校には、いじめの予防を実効的に行うため、いじめ問題を取り扱う常設の組織を学校内に作ることが義務付けられています。この組織には学校におけるいじめ対策の中核・拠点として機能することが期待されており、具体的には「予防対策の検討・実施」、「いじめのささいな兆候や懸念を含め、あらゆるいじめに関する情報の集約」、「基本方針や計画の見直しといった機能」が求められています。

この組織の大きな特徴は「学校の複数の教職員」とは別に、「専門的な知識を有する者その他の関係者」をメンバーとすることを求めた点です。学校のいじめ対策が閉鎖的になることを防ぐため心理や福祉、法律や医療の専門家や地域住民といった外部者を、いじめ対策の中枢となる組織に組み込むことを求めているのです。

しかし法律施行後、国の基本方針等で学校現場に従前からあった生徒指導委員会等で代えても差し支えないとされたため、多くの現場において外部者を組み込まないままになってしまっているのが実情です。今後は法の規定どおり、積極的に外部者を参加させていくことが望ましいでしょう。

(3)教職員に課された通報義務(法23条、34条)

学校の教職員には、いじめがあると思われる場合、学校への通報などの適切な処置をとることが義務付けられています。

しかし、いじめの発生に否定的な評価をすれば教職員がいじめを抱え込まざるを得なくなります。そこで学校は、いじめが発生した事実をもって教職員に対し、否定的な評価をするようなことがあってはなりません。学校は教職員がいじめに関する情報を組織に通報しやすい環境を整える必要があります。

(4)いじめ問題対策連絡協議会の設置(法14条)

いじめ問題への対応のために必要な場合、学校は教育委員会の附属機関(法14条3項)や、地方公共団体が設置するいじめ問題対策連絡協議会(法14条1項)、警察、各専門家などとの連携をとることも可能とされています。

いじめ予防体制の不備又は機能不全の可能性も

弁護士チーム
弁護士チーム

明智 今回のようないじめ自殺をどうすれば防げると思いますか?

真下 本件についての事実関係は明らかになっておらず、今後設置されるであろう第三者委員会(法28条)の調査を待つところですが、本件では学校側がいじめの存在を把握していなかったという報道もあります。 

このような報道を前提とすれば当該学校において、いじめ防止対策推進法の求める「いじめの兆候に気づいた教師が一人で抱え込まず、すぐに学校又はいじめ防止対策組織に報告・通報できる体制」が整っていたのかどうかを検証する必要があるでしょう。

また、一部報道では担任の教職員が学校に対し、被害者の少年がノートに記載したメッセージの存在を報告していなかったなどとも言われています。

この報道を前提とすれば多くの学校がそうであるように当該学校においても、いじめ防止対策推進法の趣旨、目的及び報告義務をはじめとする教職員の義務等に関し、現場の教職員に対する周知徹底が行われていなかった可能性があります。

このように、報道されている事実だけに着目してみても、本件は当該学校や地方公共団体のいじめ予防体制の不備又は機能不全を検証する必要性が極めて高く、本件を担任の教職員の個人的な資質や判断の問題としてのみ捉えるのは適切ではないと思われます。

私たちは第三者委員会により本件の真相究明はもちろんですが、かかるいじめ予防体制の不備又は機能不全の可能性についても検証されることを望みます。そうして初めて各学校のいじめ予防体制の構築に資すると考えるからです。

今後、二度と生徒がいじめを苦にして自殺するような悲しい事件が起きないようにするためにも、いじめの対策は予防が何より重要であるといういじめ防止対策推進法の趣旨を十分に生かしていくことが大切です。

「いじめ防止対策推進法」を適切に機能させるために

明智 今後の弁護士チームの取り組みについて教えてください。

真下 いじめ防止対策推進法が施行されてから2年弱が経ちます。現在のところ法が当初想定したような、いじめ予防のための組織が十分に機能しているとはいい難い状況にあると感じています。

たしかに人的リソース、予算等の点からも、いじめ予防のための対策は一朝一夕にできるものではありません。しかし、まずは法の目指す実効的ないじめ予防体制を構築し、教員がいじめの存在する可能性に気づいた際に、すぐに関係者間で情報を共有できるような学校の環境を整備することが重要です。こうした環境整備は現場で尽力されている多くの学校教員を、負担や不安から解放することにつながります。

「ストップいじめ!ナビ」弁護士チームは、今後も各学校と連携を図りながら、より実効性のあるいじめ予防体制の構築をサポートしていきます。

【弁護士チームの活動】

【弁護士チームによるいじめ予防授業】

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「ストップいじめ!ナビ」

情報サイト:今すぐ役立つ脱出策

一向に収まることのない「いじめ問題」に一石を投じようと2012年秋に活動を開始したNPO法人です。メンバーは、弁護士、ジャーナリスト、自殺対策専門家、性的マイノリティ活動家、子どもの専門電話活動、不登校やフリースクール活動に携わる人など、様々な分野の専門家。それぞれが持つノウハウや社会資源を結集させて「いじめ問題」への具体策を提示・実現させていこうとしています。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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