学校の先生は働ぎ過ぎ!教師のワーク・ライフ・バランスとメンタルヘルスを考える

経済協力開発機構(OECD)は、日本を含む34カ国・地域の中学校教師の勤務状況に関する調査結果を公表しました。1週間当たりの勤務時間は日本が53.9時間と最も長く、授業以外にも部活動や事務作業に長い時間を使っていました。

教師たちの自らの指導力に対する自己評価は極めて低く、参加国・地域の平均を大きく下回っています。「仕事に忙殺されているうえ、自己評価も低い」という日本特有の教員像が浮かび上がりました。

国際教員指導環境調査:世界の中学、OECD調査 日本の教員、勤務時間最長 週53.9時間 部活、事務で(毎日新聞 2014年06月26日)

学校で子どもたちが質の高い教育を受けるためには、教師たちの労働環境を良くしていく必要があるのではないでしょうか。

ジェンダーの視点から教師のワーク・ライフ・バランスを考える

学校の中で女性教師の割合は小学校62.5%、中学校42.5%、高等学校30.7%ですが、その多くが定年まで働いています。女性の約7割が第1子出産後に離職しているのに対して、女性教師には職業を継続できる環境が整っているのでしょう。しかし、「家庭の事情のため」を理由に離職する女性教師の数は、男性教師に比べて多いという実態もあります。家庭生活での負担が、女性教師にかかっていることが推察できます。また、どの学校でも女性教師の割合が一定数あるにもかかわらず、女性校長の割合は小学校18.4%、中学校5.4%、高等学校5.7%であり、女性教師が管理職として活躍できていない現状があります。

このように、女性教師には男性教師とは異なる課題があると言われます。その一つは学校における女性の立場や役割、もう一つは女性教師にかかっている家庭生活の負担です。しかし、これらは女性教師だけの課題でしょうか。子育てや介護などの家庭生活は男女が協力して営むものです。また、職業人としての教師には、性別にかかわらず必要とされる力量があります。女性教師の課題は、必ずしも女性教師のみにかかわるものではなく、男性教師の課題とも言えます。

ここでは、教師のワーク・ライフ・バランスについて、ジェンダーと教育の視点から考えてみたいと思います。なぜなら、ワーク・ライフ・バランスは少子化対策の一環でもありますが、教職を継続していくうえで、女性教師にも男性教師にも大切な生き方だからです。

教師の仕事と家庭生活―具体例から―

ある教育研修会の発言から、教師のワーク・ライフ・バランスを見てみます。

Aさん:30代後半の女性教師

私には、保育所に通っている子どもが2人います。今回の研修は1泊2日ですが、夫に子どもの世話と家事を任せて参加しました。結婚したときからずっと家事を分担してきましたし、子どもが生まれてからは育児も分担してきましたから、まったく心配はしていません。夫は公務員です。教師になることが子どもの頃からの夢でした。毎日忙しいですが、教職はやりがいのある仕事なので、育児休業を活用して、夫と二人で子育てと仕事を両立しています。ずっと働き続けたいし、夫も賛成しています。

Bさん:50代後半女性教師

2人の子どもが成人し、義理の母と夫との生活になりましたので、安心して宿泊の研修に参加できました。子育て中は、義理の母と実家の母とに手伝ってもらいながら、仕事を続けてきました。夫も教師ですから私の仕事を理解してくれますが、私自身が男性教師の仕事の大変さをわかっているので、無理は言えませんでした。夫は部活や生徒指導、進路指導などでクタクタになって帰宅していましたから・・・。仕事と家庭の両立は大変でしたが、教師を続けてきて良かったと思っています。

Cさん:40代前半男性教師

教務主任と生徒指導、部活の指導もしていますので、とにかく忙しいです。やりがいもありますが、帰宅が10時を過ぎることはざらですから、子育ても家事も妻に任せきりです。子どもが思春期なので、妻は大変だと思います。子育ても含めて妻と話す時間が欲しいのですが・・・。男女共同参画と言われても、男性教師の長時間労働が変わらないかぎり、我が家での実現は難しいです。

これらの発言から、教師の家庭生活の一環を垣間見ることができます。発言には多忙な学校教育現場、教職はやりがいのある仕事という共通点もありますが、仕事と家庭生活のとの両立という視点からは違いも散見されます。その一つは女性教師間の世代による違いであり、もう一つは学校教育現場の性別役割分担と家庭生活との表裏一体という意味での性別による違いです。

それでは、ジェンダーとワーク・ライフ・バランスの視点から3人の発言を見てみます。Bさんは、夫である男性教師の仕事の大変さを理解できるがゆえに、家庭生活の負担を自ら引き受けています。とくに子育て中は、義理の母親と自分の母親の支援は受けていますが、夫に子育ての負担は求めていません。Cさんは、思春期の子どもを育てている妻を支援したいと思いながら、長時間労働のためにそれを果たせないでいます。

このように、教師の生活にもジェンダーが浸透していることがわかります。男性教師は仕事中心、女性教師は家庭中心という生活がなされており、ワーク・ライフ・バランスがとれているとは言えません。職場優先の雰囲気や固定的な性別役割分担意識が根強く残っている学校は、ジェンダーに基づいた職場になっているのです。

ところで、Aさんの教師生活は他の二人と異なっていました。Aさんは夫と家事育児を分担し、協力して家庭生活を維持していることから宿泊を伴う研修にも参加できています。このような家庭生活ができていれば、性別にかかわらず教師としての力量を身につけ、十分な教育実践を行うことができます。

では実際に、教職員の仕事と子育ての両立が達成されているかどうか育児休業の取得の数字から見てみます。育児休業の取得状況は「女性教職員の育児休業取得率」が98.9%であるのに対して、子どもの出生時やその前後に取得する「男性教職員の育児に係る休暇等取得率」は20.5%です。男性教職員の育児休業取得率に至っては、わずか2.9%です。その背景には、男性教職員が育児休暇や部分休業制度を知らないなど制度の周知が図られていないこと、職場優先の環境や固定的な性別役割分担意識、教職員の超過勤務状況が極めて厳しいことなどが挙げられます。

教師に求められるジェンダーの視点

あらためてジェンダーの視点で学校現場を見てみると、女性教師の立場の難しさが推察できます。「女性教師は家庭生活優先」という雰囲気が学校での教師の役割分担にも反映されることにより、「生徒指導や進路指導は、家庭生活を優先しなくてよい男性教師が担当する」という性別役割分担が行われています。その結果、男性教師には仕事上の過重な負担がかかり、自身の家庭生活や子育てに時間を割くことができなくなっています。一方、女性教師は生徒指導や進路指導の仕事を経験することができず、教師としての力量形成の機会を逸しています。仕事と生活の両立支援制度が整えられていても、実際には利用することが難しいのです。ジェンダーが浸透している教師の生活や学校において、まず求められるのは職場の環境改善だと言えます。

性別や子どもの有無にかかわらず、ワーク・ライフ・バランスを実現している教師の存在は、子どもに「仕事も、家庭も、地域も」という生き方ができることを示せます。ジェンダーの視点を持った教師は、セクシュアル・マイノリティを含めた子ども一人ひとりの個性を尊重し、その子らしい生き方を支援することができます。教師のワーク・ライフ・バランスの実現は教師自身のためだけでなく、子どもたちの将来のためにも必要不可欠なのです。

教師のメンタルヘルスの現状と課題

近年、教師のメンタルヘルスの問題が増加し、深刻な問題となっています。2012年度に病気休職を取得した教師は8341名(全教師の0.90%)で、そのうち精神疾患による休職は4960名(0.54%)であり、その数は病気休職者の60%弱にあたります。さらに全体教員数から精神疾患による休職者をとらえた場合、ここ数年は横ばいですが、約30年の長い期間で見てみると確実に増加しています。ここでいう病気休職者とは、最長90日もしくは180日(地方公共弾田によって異なる)の病気休暇を超えて休みが続き、休職となった教師を指します。つまり、90日もしくは、180日以下の病気による休暇者はカウントされていません。教師のメンタルヘルスはかなり深刻な状態だと言えます。

では、教師のメンタルヘルスには、どのような要因が影響しているのでしょうか。教師の仕事が多忙であることは以前から指摘されています。それは、教師が学習指導から生活指導まで児童・生徒の日常すべてを支援していること、また教師の対人関係が児童・生徒、保護者、地域住民、職場の同僚と多岐にわたり、心理的にも物理的にも負担が大きいことが関係しています。この他にも部活指導、地域行事への参加など業務時間が長いこと、また授業準備や生徒指導が際限なく、仕事と私生活との枠組みが明確でないこと、さらに仕事の成果(児童・生徒の成長)が結果となってすぐに現れにくく、達成基準が曖昧であることが教師の仕事の困難さとしてあげられ、教師のストレスに繋がっていきます。

教師のメンタルヘルスについては、教師個人の問題としてのみ捉えるのではなく、学校環境という側面から改善策を考えていかなくてはなりません。

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◇OECD国際教員指導環境調査(TALIS)

学校の学習環境と教員の勤務環境を国際的に調べ、教育政策に役立てることを目的にした調査。2008年に続き、今回が2回目。今回は、OECD加盟国を中心に34カ国・地域が参加。1カ国・地域当たり中学校約200校を無作為抽出し、各校から教員・校長約20人が、勤務状況や学級の環境、仕事への満足感といった内容の質問紙に1時間程度かけて回答した。

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参考文献

新・教職入門

山崎準二,矢野博之 編著

学文社 A5判 200頁 2,160円(税込価格) 2014年3月28日刊行

ISBN978-4-7620-2418-4 C3037

教員養成教育における新たな必須科目「教職の意義等に関する科目」テキストとして、現職教員の参加も得て執筆された活きた教職入門書。学校と教師をめぐる状況の変化、様々な背景から生じる教師教育の熾烈かつ混迷な改革の動きを念頭に置いたうえで、新たな内容構成と執筆陣によって編集された『教職入門』の後継書。東日本大震災がもたらした社会全体にわたる変化にも触れ、これからの学校と教師のあり方の再考するためにかかせない1冊。

参考部分

第10章 教師のワーク・ライフ・バランス―ジェンダーの視点から―

(内海崎貴子 川村学園女子大学教授)

第11章 児童・生徒理解と教師のメンタルヘルス

(榎本淳子 東洋大学准教授)

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