森友学園ヘイト文書配布

塚本幼稚園の副園長より元保護者に渡された手紙

国会の委員会での論戦に発展した豊中の国有地売却問題。朝日新聞のスクープが端緒となった不明朗な土地取引は、焦点となっている場所で「瑞穂の國 記念小学院」を建設している学校法人森友学園のヘイト文書配布問題へと飛び火した。

森友学園は、教育勅語や五箇条の御誓文の暗唱、伊勢神宮への合宿参拝などを園児に施す「塚本幼稚園幼児教育学園」を経営している。理事長の籠池泰典氏は安倍政権と密接な関係があると言われる「日本会議」の幹部であることでも有名だ。

塚本幼稚園では理事長夫人である副園長が、園児の生活態度の注意など、毛筆の手紙を手渡すことがたびたびあるという。副園長みずからが保護者に向けて自筆の文章でコミュニケーションを図るという行い自体は、教育者としての細やかな気配りだ。なかなかできないことであり、本来なら称賛されるに値する行為である。

キッカケはささいなことから始まった。私が話をうかがった元園児の保護者Aさんも、ある日、副園長からの手紙を受け取った。冒頭にはこうあった。

「〇〇ちゃんら(園児の名前)にましてや1歳の子にコーラやファンタを飲ませているとききましたが、それでも親ですか」

塚本幼稚園は食育に重きを置いていて、朝食は必ずご飯と味噌汁にするべきだと口酸っぱく保護者に説いている。園児には炭酸飲料を飲ませないよう指導をしており、その方針に反しているとのおとがめの手紙だった。いささかエキセントリックな書き出しだが、善意での忠言であることは間違いない。

しかし、この後がいけなかった。

「韓国人とかは、整形したり、そんなものをのんだりしますが、日本人はさせません。根っこが腐ることを幼稚園では教えてません」

いきなり「韓国人とかは、整形したり」と脈絡のない文言が続いたのである。

この手紙をもらったAさんは元在日韓国人だった。現在は日本人のご主人さんと結婚して帰化されている。Aさんは語る。

「副園長先生はわたしが在日韓国人だったということを知らずに書かれたのだと思います。それだけに、より一層ショックでした」

Aさんは自分の本心を打ち明けるべく、副園長に宛て長文の手紙をしたためた。まず前半部分に炭酸飲料を飲ませた件についての流れについて説明。さらに以下のように続けた。Aさんの魂の叫びが聞こえてくるような文面なので、あえて短くすることなく、そのまま抜粋させてもらう。

「ここからが本題です。副園長先生のお手紙に『韓国人とかは整形したり、そんなものをのんだりしますが』と書かれていましたが、はい、私自身、韓国人です。両親共に韓国人の元育ってまいりました。この手紙を読んで、私は言葉をうしないました。数分かたまってしまいました。私が中学生の時、韓国人だといじめにあった事を思い出しました。副園長先生、どういうつもりで、このようなことを書いたのか分かりませんが、私もショックをかくしきれず、数名の身内の方、そして主人に手紙の内容を伝えました。みなさん、そろって『差別だ!』と言っています。差別するつもりでかいてないのなら、『韓国の方なら』とかまた違った言い方があるんじゃないですか? ましてや『整形』なんて書いてる事じたい差別です。園長先生が差別はしてはいけないとおっしゃってた事を思い出しました。ご夫人の副園長先生が差別しているではないですか。昨夜は色々と考えさせられることがあり眠れない夜になりました。精神的にまいっています。朝、子ども達の顔を見て幼稚園に行く姿を見て涙が出ました。子どもはこんなにも純粋な目をキラキラさせているのに、私たち大人は何をしているのかと……。

今や日本には大勢の私と同じ様な韓国人がたくさんいらっしゃいます。塚本幼稚園にもきっといらっしゃるでしょう。副園長先生たる者が『私にそれでも親ですか?』と言う前にあなたはそれでも大切な園児たちをお預かりする幼稚園の先生ですか。真の指導、真の先生を育てられる前に、今一度ご自身を見つめ直すことが必要なのではないでしょうか?」

このAさんの問いかけに対する副園長からの返事に「私は差別していません。公平に子どもさんを預かっています。しかしながら心中、韓国人と中国人は嫌いです。お母さんも日本に嫁がれたのなら、日本精神を継承なさるべきです」と書かれていたのだった。

手紙のやりとりを読ませてもらったとき、頭がクラクラしてしばらく思考力を失ってしまった。外国籍の人は日本に帰化した段階で、先祖から受け継いできた文化的バックボーンを捨て去らなくてはならないということなのか。そもそも「日本精神を継承」とは一体なんなのだろう。ご飯と味噌汁をいただき、教育勅語や五箇条の御誓文を暗唱したら日本精神を継承できるのだろうか。 

副園長の言う韓国人、中国人とは一体どのような存在なのだろう。慰安婦像を建て、尖閣諸島をつけ狙う不逞外国人ということなのか。少なくとも生身の血の通ったひとりの人間をイメージできていないことだけは確かだ。

韓国人や中国人に対し、排外的な差別発言を繰り返す人は、その属性を持つ親しい知人がいないのだろう。完全に概念として抽象化してしまっている。

例えば、私の場合、随分と前になるのだが、在日韓国人の女性と交際していたことがあり、結婚はしなかったものの、それぞれ別の家庭を持った今でも親しい友として食事をすることがある。なので、ヘイト発言を見聞きすると、まず彼女が悲しむ顔が思い浮かんでしまう。マイノリティの人たちと少しでも突っ込んで話をすれば、彼ら彼女らの置かれた境遇や事情を理解できるはずなのだ。

ましてや副園長は教育者である。相手の立場を思いやる想像力を育てるのが仕事であるはずなのに……。

Aさんは手紙の中で「今や日本には大勢の私と同じ様な韓国人がたくさんいらっしゃいます。塚本幼稚園にもきっといらっしゃるでしょう」と書かれた。そして実際におられたのである。塚本幼稚園に子どもを通わせたものの、3ヵ月でやめるという決断をしたBさんだ。

Bさんはお子さんが塚本幼稚園にいる間、自分が在日韓国人であることに引け目を感じることがあったという。Bさんから頂いたメールをそのまま掲載させてもらう。

「韓国人である事を隠しておきたい気持ちが私の心の中にある事を、情けなく思ったりする事もあります。

私はこの件でAさんと出会いました。

彼女は帰化していますが、彼女のお話を聞き、人間として尊敬の念を持ちました。

私も子供の事を考えて今後帰化するつもりなのですが、私自身は韓国人である事は何ら恥ずかしいとは思っていません。

私がイギリスへ語学留学した時、私は韓国のパスポートを持ち、そして本名で1年3ヶ月過ごしました。

日本では通名で過ごしていましたので、なんか不思議な気持ちでした。

各国からやってきた友達はコリアンだからと差別はしません。

ただ、日本では生きてる今、子供の周りに韓国人を嫌いな人、馬鹿にする人が居たら……と考えてしまい、わざわざ敵を作りたくないと守りに入ってしまいます」

ベストセラー「日本会議の研究」の著者、菅野完さんは今回の問題の背景を次のように語ってくれた。

「森友学園が小学校を設立し、校内に神社を作るのはいいとしましょう。ても、ご祭神がなんなのか明らかにしていない。このように日本会議に属する人たちの多くは徹頭徹尾『保守』や『右翼』の基本的教養が欠落しています。本来の保守ではあり得ないようなヘイト発言を繰り返す経営者にどうして学校設置認可が出てしまったのか、そんな人物をどうして安倍昭恵さんが持ち上げたのかが本質的なことなのです」

菅野さんは本物の「保守」を自認する人間なら、平気で他者の人格を傷つけることなどできないはずだと言っているのである。

別媒体の取材であるが、籠池泰典理事長にお話を伺った。第一印象はパワフルで、情熱に満ちあふれた教育者といったもの。また、今回問題となっているヘイト文書を書いた副園長もそばにおられた。気さくな大阪のおばちゃんといった風情でこちらの方も好人物だなという印象を受けた。

アポなしでの直撃という無礼な取材にもかかわらず、理事長はとても紳士的に応対してくれた。しかし「よこしまな考えを持った在日韓国人や支那人」と書かれた文章を保護者に配布していた件について、

--民族差別的表現の文書を配布して大阪府から事情を聞かれ、行政処分が行われるかもしれないという報道がありましたが?

と問いかけると、

「あれは民族差別なんてもんではありません。ウチの学園を攪乱するために、わざわざ支那の人と韓国の人が侵入してきたんです。4年も前から謀略があったんですよ。その保護者たちと(今回の問題を追及してきた)木村さん(木村真豊中市議)が結託していたんです。ですから、それらの人たちとは現在、裁判所で争っています」

とお認めにはならなかった。

現在、塚本幼稚園はトラブルとなった保護者と2件の係争案件を抱え、その数は増えそうな勢いだ。お互いに言い分があり、どちらが正しいのか簡単には白黒つけがたい部分もある。

ただし、今回の件は一発アウトである。森友学園がこれからも幼稚園経営を続けられるのであれば、早急に謝罪の場を設けるべきだろう。