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全米OPテニス:怒りを抑えきれず自滅に見えたセレナ。しかしそれは、大坂なおみが引き出した必然だった

内田暁フリーランスライター
(写真:Shutterstock/アフロ)

■女子決勝 ○大坂なおみ 6-2, 6-4 S・ウィリアムズ■

 バックのショットがネットを叩いた時、セレナは一瞬、泣きそうな表情を浮かべてファミリーボックスに顔を向けると、ラケットをコートに叩きつけた。乾いた音を響かせて、ラケットは飴細工のようにひしゃげる。やや間を置いて主審は、セレナにコードバイオレーションを……そして第1セットのコーチングバイオレーションと併せて、ポイントペナルティを与えました。

 その後のセレナの主審への暴言と、それに伴うゲームペナルティは、既に多くの方がご存知でしょう。ただその暴言の源泉にあるのは、その前のゲームで、完璧とも言える内容で再びブレークを奪った大坂のプレー。そして何より、この一連の試合の流れとセレナの激高は、大坂が引き出したものでもあります。

 この試合で、最も集中力を高めた場面はどこだったか――? 

 会見でそう問われた大坂は、「第2セットでブレークされた後のゲーム」と即答します。

「もし続くゲームをセレナがキープしたら、観客は熱狂し、セレナは勢いづく。それはとても危険な状況。だからそれを止めるためにも、ブレークバックしなくてはと思っていた」

 ガッツポーズを振り上げるセレナの姿も、そのセレナに向けられる一方的な大歓声も、大坂は遮断している訳ではなかった。むしろそれらを受け止めた上で、次のゲームこそがこの試合最大のターニングポイントだと冷静に分析していたのです。

 そしてそれは、セレナにしても同様だったでしょう。次のゲームを取ることの重要性を誰よりも知るからこそ、ブレークされた時には怒りや悔しさを抑えきれなかった。ラケットを壊した時から始まったように見えるセレナの崩壊。でもそれは自滅ではなく、大坂が奪い取ったものだったのです。

 勝負の流れを読み、最後はサービスを叩き込みセレナを破った次の瞬間、大坂は涙を流しました。

 「セレナにハグされた時……私は、また子供の時に戻っていた……」

 まるで魔法が解けるように、この時、冷徹な勝負師の姿は消えていました。

※テニス専門誌『スマッシュ』のFacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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