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全米オープン:データを有効活用し錦織圭が4回戦でストレート勝利。ベスト4をかけA・マリー戦へ!

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

全米OP4回戦 ○錦織圭 63 64 76(4) カルロビッチ●

最速サービスは時速134マイル(約215キロ)を計測し、試合を通じ奪ったエースは21本――。

これらの数字だけをみれば、身長211センチの“サービス王”カルロビッチが、その力を遺憾なく発揮したかのようにも見えるでしょう。

しかし注目すべきは、セカンドサービスのポイント獲得率。47%は、今季の彼のアベレージである56%に比べると、かなり低い数字です。

「リターンがうまくいったので、それが今日の試合の良いところだったと思います」

錦織はカルロビッチ戦の勝因を、真っ先にリターンに求めました。外から見れば、第1セットと第2セットのストロークでのアンフォーストエラー“0”という、驚異の数字が何よりも際立ちます(この2セットのアンフォーストエラーはダブルフォールトのみ)。過去3試合苦しんできたサービスが、ファーストの確率60%、ポイント獲得率でも相手を上回る84%を記録したことも重要だったでしょう。それでも錦織本人が、再三「良かった」と自画自賛したのはリターンでした。

錦織陣営がリターンを鍵と踏んでいることは、試合前日の練習からも見て取ることはできました。コーチのチャンはサービスラインの直ぐ後ろに立つと、足元にボールをうずたかく積み上げて、次々に全力で錦織が構えるサービスボックスへと打ちこみます。そのたびに錦織は、センターで跳ねるボールに飛びつき、ワイドに逃げるスライスサーブへと必死にラケットを伸ばす。そうしてチャンの足元のボールの山が消えるたびに、ダンテコーチも交えて3人はベンチで長く話し合う。チャンは時おりタブレットを取り出しては、錦織に画面を示し、手振り身振りを交えながら指導を続けていました。

カルロビッチ対策が正鵠を射ていたことは、試合開始から程ない4ゲーム目で顕在化します。カルロビッチのセカンドサービスを鋭く返し、相手が出てきたところを狙い澄まして決めたパッシングショット。15-15からは、セカンドサービスにフォアを合わせ目の覚めるクロスのリターンウイナー。続くポイントでは、リターンをカルロビッチの足元に鋭く返し、相手の浮いたボレーに軽くラケットを合わせます。するとボールは美しく鋭い弧を描きながら、長身のカルロビッチの頭上を鮮やかに越えてラインの僅か内側に――。打たれた瞬間に211センチが諦める、完璧なロブでした。そうして迎えたブレークポイントでは、コースを読み切ったかのように相手が打つより先に動き、リターンからパッシングショットにつなげる黄金パターンでみたびウイナーを叩き込みました。

錦織が圧巻のプレーを連発したこのゲームが、サービス自慢の心理にプレッシャーとして圧し掛かったでしょう。以降のカルロビッチはストロークでもミスが続き、錦織は快調にポイントをスコアボードに刻みます。第3セットこそセットポイントに面しますが、この場面で錦織は、セカンドサービスでサーブ&ボレーを決める大胆プレーを披露。かくして危機を切り抜け持ち込んだタイブレークでは、6ポイント連取で試合の行方を決しました。

試合後に、リターン好調の具体的な要因を問われた錦織は、「一番は、山が当たったのが大きかった」と言いました。

「かなりコーチたちと話して、彼のパターンだったり、セカンドサービスの(コースを)読むことができたので、それが効いてきたと思う。作戦勝ちというのを感じたので、コーチたちのお陰でもあるし、自分がプレーの質をあげてうまく調整できたことも大きい」。

そのように作戦を立てる上で、今回大きく役立ったのが、データです。「今回はデータを使いましたね。過去の対戦データも見せてくれたし、そこから得たものもありました。試合の中で山を当てられたヒントにもなりました」と、錦織は振り返りました。

対戦相手をち密に解析した上で、綿密に試合前に積みあげてきた対策。そして「見直し、細かい修正」を入れてたことで、大幅に改善されたサービス。さらには、2週目に入ったことで「自然と上がってきた」という集中力――。

試合を重ねるごとに調子をあげ、真の臨戦態勢に入ったその先で、いよいよ本日、世界2位にしてウインブルドン及びオリンピック優勝者の、アンディ・マリーに挑みます。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日大会レポートやテニスの最新情報を発信中

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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