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シンシナティ現地レポ:“幸運なる敗者”の土居美咲、全米オープンのシード確保へ

内田暁フリーランスライター
(写真:ロイター/アフロ)

ラッキールーザー――直訳すれば「幸運なる敗者」ですが、ウェスタン&サザンオープン(シンシナティ)での土居美咲は、手にした幸運を自らの力で価値ある一勝へと昇華した勝者でした。

予選第1シードとして挑んだ今大会は、土居にとって、全米オープンでのシードが掛かった戦いでもありました。現在のランキングは38位。全米でシードが得られるのは出場選手上位32人で、このシンシナティが、シードランキングに反映される最後の大会となります。それだけに本人も、「シードのことは、頭の片隅にある感じ」で迎えた大会でした。

しかし予選では決勝で痛恨の逆転負けを喫し、自力での本戦出場権を逃します。それでも本戦欠場者が3人居たため、ラッキールーザー(予選敗退からの繰り上がり出場)の可能性が残されました。その3者の決め方は、予選決勝で敗れたランキング上位選手4人の中から、クジで脱落者の一人を選ぶこと。命運を決するクジは土居たち選手が見守る中で引かれ、そして全てが決した後に、スーパーバイザーが土居の元へと歩みよってきます。

「私が入れなかったんだ……」

その事実を知った時は、さすがに「相当に落ち込んだ」と言います。

思わぬ幸運が舞い込んできたのは、その翌日。大会第1シードのセリーナ・ウィリアムズが、肩のケガを理由に欠場を表明した時です。女王が抜けた枠に入ったのが、4人目のラッキールーザーの土居。しかもセリーナは初戦免除であったため、土居も戦わずして2回戦へ。唯一のハズレくじは、たちまち“大当たりくじ”に化けたのです。

とは言え、その大当たりくじも、試合で勝って初めて意味が発生するもの。その“意味”を賭けて土居が2回戦で対戦したのは、過去5度対戦し一度も勝ったことのないC・マクヘイル(59位)。現在のランキングでは土居が上回るも、「正直、苦手意識がある」因縁の相手でした。

第1セットは、その苦手意識が出てしまったのでしょう。硬い守備をベースに機を見て強打を打ち込む相手の前に、ミスが増えて2-6で落としました。

それでも第2セットでは、重いスピンを掛けたフォアで相手のバックサイドを狙う戦術に徹します。「自分でも出来る、絶対に勝てる!」と言い聞かせ、己を鼓舞しながら第2セットを際どく競り勝つ土居。

ファイナルセットは、先にブレークするもすぐに奪い返される苦しい展開ながら、4-4から再びブレークで抜け出します。最終ゲームでは3本のブレークポイントを凌ぎ、最後まで最大の武器であるフォアを信じて強打を幾度も放ち続け、ついにマクヘイル戦初勝利をつかみとりました。

翌日の3回戦では、サービス好調のK・プリスコワ(17位)の勢いを止め切れませんでしたが、今回の結果によりランキングは30位前後まで上がることが確定。全米オープンのシードも、ほぼつかんだと見てよいでしょう。

その全米での目標は、ウィンブルドンに続く「2週目(4回戦以上)に残ること」。

土居はこれまで、グランドスラムでは“逆・引きの強さ”を発揮し、初戦からトップ選手と当たることが多くありました。その呪縛からも、シードが付けば解放されます。

そのことを指摘すると、「そうですね、それ重要!」と明るい笑顔。シードの地位はラッキーではなく、数々の試合と大会の積み重ねでつかみとった“権利”です。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日テニスの最新情報を発信中

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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