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天敵ガスケにまたも快勝の錦織圭! 2週連続の勝利は、真のトップ選手の証:ローマ・マスターズ

内田暁フリーランスライター

ローマ・マスターズ3回戦 ○錦織圭 6-1,6-4 R・ガスケ●

「これまでリシャール(ガスケ)相手に6連敗だったのに、その後は良い試合で2連勝。あなたの何が変わったのでしょう?」

試合後の会見でいの一番にそう問われた錦織は、「うーん」と短く唸ったあとに、こう言います。

「先週も彼とは対戦したが、その前は2年前(昨年11月のパリでも対戦したが、この時は錦織が途中棄権)だった。僕は明らかに、2年前よりも良いプレーヤーになっている」

確かに本人の言葉通り、2年前にガスケと対戦した時の錦織はまだ、限りなくトップ10に近づきながらもその壁をどうしても越えられずにいた、世界の11位でした。そして“この試合に勝てばトップ10入り”という一戦を昨年のワシントンDCで、あるいはその前年のカナダ・マスターズで迎えた時にも、その度に彼の前に立ちはだかったのが、ガスケだったのです。錦織にとってガスケとは、かつて苦手とした選手であると同時に、“トップ10”に自分が相応しいか否かを隔てる、分水嶺のような存在だったかもしれません。

先週のマドリードで、その“トップ10の指標”を破った錦織は、それが単なるフロックではなく、再現可能な実力であることをローマでも示してみせました。マドリードで勝利した時のように、コート内に踏みこみボールを叩くと、機を見てネットにも出ていきます。試合の立ち上がり、相手のサービスゲームながらいきなりボレーを2本決めると、その後も両翼から鋭角なクロスやダウンザラインへの強打を叩き込み、怒とうの8ポイント連取で2ゲーム奪取。その後ガスケに2ポイントを許しますが、再び4ポイント連取で全く間に3-0とリードを広げます。その間に要した時間は、僅か8分。本人も「完ぺき」と自画自賛の内容で、第1セットを6-1で奪い取りました。

第2セットに入っても、錦織の快走は止まりません。第2ゲームをブレークし2-0とすると、第3ゲームも40-15とリードしました。

ところがここから、第1セットは快調だったサービスが突如入らなくなり、ダブルフォールトを重ねます。結果的に2度のデュースの末にキープするも、この頃から、やや雲行きが怪しくなり始めました。高く弾むスピンと低い弾道のバックのダウザラインを効果的に打ち分けるガスケが、ストローク戦でも徐々に自分のリズムを築き、錦織を絡め取っていきます。

「少し、彼のペースに飲まれそうでした。自分のサービスゲームで集中力が抜けてしまったことが何度かあり、ダブルフォールトも多く出てしまって……」。

その「飲まれそう」になったガスケのペースに錦織の集中力の低下が重なり、突如流れが反転したのが、4-1からの展開です。ミスが目立ち始めた錦織は、3ゲームを連続で落とし4-4に。さらには第9ゲームでも3本のブレークポイントを許し、ガスケに主導権を奪われたかに見えました。

しかしここで錦織は、自分がなぜ「2年前よりも良いプレーヤー」なのかを証明します。相手のミスを待つのではなく、バックのクロス、ボレー、さらにはエースを決めて3連続ウイナー。続くポイントもサービスを決めてゲームキープすると、ここでギアを一段あげ、最後はこの試合5つ目のブレークを奪うと共に、勝利をも手にしました。

試合後の錦織は「6-1、6-1で勝てた試合だったと思う」と反省しつつも、「(集中力が)抜けながらも最後に集中を上げられたので、結果的には、自信のつく試合だったと思います」と涼しい顔を見せました。ガスケに関しては「まだなんとなく嫌な感じはあります」と言いながらも、「強い意志を持ってプレーできれば、勝てる相手というのはしっかり認識できた」と、苦手意識を払しょくした様子。それは、自身が真のトッププレーヤーの領域に定着したことを、再認識した瞬間でもあったでしょう。

昨年に引き続き、マドリードとローマのマスターズ2大会連続でベスト8以上に勝ち上がってきたのも、彼が示したトップ選手の証の一つ。また、いつもは直前までドローを見ないという錦織ですが、流石にこの会見の時点では、次の相手が好調D・ティームであることを認識していました。

「フェデラーが負けたのは少し意外でしたが、でもティームも強い選手だし、クレーは良い。時間を与えれば、どんどん良いショットを打ってくる」

表情を引き締め、そう相手の分析を口にした錦織は……突如として顔の筋肉をふっと緩めると、少しばかり恥ずかしそうな笑みを浮かべて、記者たちにたずねてきます。

「(対戦は)初めてではないですよね? 勝ってる? えっ、去年ですか!?」

そうして視線を宙に泳がせ、記憶の引き出しをパタパタと開けみるも……「あ~、ちょっと覚えてないですね」と直ぐにギブアップ。

「作戦は、ちゃんと練らなくてはいけないと思います」

そう言い、照れを取り繕うように見せる無垢な笑顔は、良い意味で“真のトッププレーヤーらしからぬ”ものでした。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日、大会レポートも含めたテニス情報を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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